事件です! 女子大生が失踪する!?

この男に見覚えが!?

「守屋さん! いったいどこに行っていたんですか!?」


 メガネ姿で、目をしょぼしょぼさせた如月刑事が、守屋刑事の姿を見かけたとたん、発した言葉だ。このオヤジ、相棒に黙って駆けつけてくれたらしい。


「悪かったな。何かわかったか?」

「わかったも何も、ビンゴです」


 そう言った如月刑事の顔が俺たちに気づき、ハッとなる。部外者に言っちゃった、っていう感じなのだろう。


「気にするな、コイツらは青木 円香の関係者であり、まぁ色々厄介ごとに巻き込まれてる可愛そうな奴らで、今回の情報提供者だ」

「はぁ」


 こんな説明じゃ納得できないだろう、と思いつつも俺たちは守屋刑事に促されるまま、会議室に案内された。 


「如月、飯はまだだろ? これで買ってきてくれ。こっちの分と、お前と…そっちの分と。頼むぞ」


 万札を差し出し「お前は席を外せ」と言っているようなものだ。それでも、それを察した如月刑事は、文句も言わずに部屋を出ていった。


「いいんですか?」

「あ、如月のことか? 大丈夫だ。それに昼間の事件は、こっちと関係ないからな。アイツには後で説明しておく」


 今度は俺たちが「はぁ」とうなずく番だった。


 さっきまで斗真と俺は、薫くんのお母さんの件で別の刑事さんに事情を聞かれ、みっちり怒られていた。人命救助のためとはいえ、不法侵入だったし、遺体が2つも出たのだから不審者扱いされても致し方ない。


 それを救ってくれたのが、この守屋刑事だったのだけれど、「俺がコイツらに、見てこいと頼んだんだ」ってなことを担当刑事に説明したものだから、さっきまで守屋刑事も上司の人にめちゃくちゃ怒られていた。そりゃ~、一般人に何を頼んでる? って大問題になるのは当たり前だ。このオヤジ、ただ者じゃない。


「あの…さっきはありがとうございました。でも、あの嘘は…誰でも怪しむレベルですね」

「ははは。まぁ、仕方ねぇな。誰もがお前の力を信じる訳じゃないからな。あれくらいで丁度いいんだ」

「無茶苦茶な」

「あん? お前は気絶してただけだろうが」


 ギロっと睨まれた斗真がシュンとするのを横目に、「確かに」って妙に納得した俺はあえて黙っていることにした。


「で、お前はあの母親が息子を殺したと?」

「はい。信じてもらえるか分からないですが、薫くんの記憶では…そうだと」

「そうか。それだと、柏木 弥生からの自供か、あの子の首に残ってる絞死の指紋か、皮膚片でも出りゃぁな」


「証明は難しいってことですか…」

「かもな」

『薫くんもさ、ママには罪を認めて欲しくないかもね』


 俺の隣でちょこっと机に腰かけていた未来ミクちゃんが、ボソッと呟いた。今更薫くんの望みがどうとか言えた義理じゃないけど、ご遺体が見つかって母親が薫くんの死を受け入れたら、公園の子どもの幽霊の噂はそのうち消えていくだろう。


「柏木 弥生の回復をまって、男について聞いてみようと思うが、例のビデオの男が関わってるというのは、本当か?」


 守屋刑事の顔が一瞬にして刑事の顔になった。


「はい。間違いないと思います。左下の泣きほくろの男。彼は公園で薫くんのお母さんと…何度も会っていました」

「それで?」


 俺は言葉に詰まった。薫くんはいつも遠くから男を見ていた。男にとって薫くんは邪魔だったのか? だから「殺しちちゃえば?」と言ったのだろうか。


「すみません…。その男と薫くんはあまり接点がなかったみたいで、やはり直接弥生さんに確認したほうが」

「わかった。そうしよう」


「守屋刑事、円香ちゃんの方は?」


 さっきまで黙っていた斗真が口を開いた。


「都筑くんだったね。君が最後に彼女といたのはあの公園、だったね」

「はい」

「この男に見覚えは? つけられてたとか、彼女から何か相談を受けていたとか…なかったか?」


 斗真は守屋刑事の質問に、一生懸命思い出している。が…「付き合って間がなかったし」とゴニョゴニョしている。要するに、何も気付かなかったってことだ。


「お前、もう少し彼女のことしっかりと見とけや」

「す、すみません」


 円香ちゃんに押しきられる形で舞い上がっていた斗真。仕方ないよな。これも斗真クオリティだ。

 俺は守屋刑事に激しく同意しているから、斗真を弁護する気にもなれなかった。


碧海あくあ~」


 救いを求める目で斗真が俺を見るから、今度は俺が話す番だっと悟った。


「守屋刑事」

「あん?」

「実は、これも信じてもらえるか分からないんですけど」


「いいから、言ってみろ」


 守屋刑事の真剣な目を見て、俺は円香ちゃんに憑いていたグロいスライムのようなドロドロしたものについて話をした。おそらくそれは例の男の執着心だと。


「そうか…。青木 円香本人は全く気付いてなかったってことか?」

「はい。おそらく…」


 守屋刑事は顎の無精髭をさすりながら、机の一点を見つめ考えている。俺たちはそれ以上話せる内容が見つからず、黙って守屋刑事の次の言葉をまった。


 そういえば、さっきから隣にいる未来ミクちゃんが、斗真が机に置いた例の男の写真を見つめている。どうしたんだ?


『ボクちゃん…。私、この人に会ったことがある』

「えっ?」


 俺は思わず声が出てしまった。やべっ、守屋刑事は未来ミクちゃんの存在を知らない。経緯を話すのは超面倒だ。


「どうした?」

「あ、イヤ…。すみません」


『ねぇ、ボクちゃん。他にも円香ちゃんと同じ様にいなくなった娘がいるんじゃない? もしかしたら、その中に私もいるかも…。知りたくないけど、この男に見覚えがあるの。ねぇ、聞いてみて』


 あまりにも未来ミクちゃんが真剣な目で男の写真を見ているから、俺も気になってその写真を手に取る。


「どうした?」

「守屋刑事たちが動いてるって事は、他にも行方が分かっていない娘がいるってことですよね?」

碧海あくあ、それって……」


 俺は斗真に頷く。


「きっとその人たちは遺体となって発見されてる。違いますか?」

「……」

「如月刑事が、広域特命係って言ってたんで」


 守屋刑事は「うぅ~」と唸った後、ファイルから写真を取り出して机に並べた。

 全て女子大生なのだろう。髪が長くキラキラした笑顔をしていた。まるで悩み事などないかの様に。


「お前の言う通りだ。俺たちは連続殺人事件と思われる案件を、追ってる。そして、今分かってる被害者は…4名」


 俺も斗真も写真に目を奪われた。


「この中で、知っている奴はいるか?」



 俺は一人一人、確認していく。


 その中に未来ミクちゃんは、いなかった。

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