真実はどこに?
「北エリアのこの辺りにある防犯カメラは、何台ありますか?」
如月刑事が警備員のオジサンにいろいろ質問をしている。
その後ろのパイプ椅子にどしっと座り、腕を組むのが守屋刑事だ。そしてその後ろの壁際に、俺と斗真が立たされた子どものように大人しく、このやり取りを見ていた。
『ボクちゃん?』
俺だけが聞こえる可愛らしい声が、狭い部屋に響いた。もちろん誰も気付かない。
『薫くんを見つけたよ、ってボクちゃん何してるの?』
「あの日の防犯カメラを確認させてもらってるんだ。大人しくしててよ」
俺は誰にも聞こえないように囁いた。でも、こんな俺の些細な行動も見逃さないオヤジがここにいた。
「九条
「あ、いえ」
守屋刑事は腕を組み、モニターを見つめている。このオヤジ…地獄耳なのか?
「昨夜、幽霊を探している大学生を連行したと聞いたが…、君たちか?」
「えっ」
斗真の言葉は完全に不審者として、警察関係者にインプットされている。
「刑事さん達も幽霊探し…ですか?」
「ははは、面白いことを言うじゃないか」
「じゃぁ?」
「円香ちゃんの事、事件性があるって信じてもらえたんですか?」
さっきまで大人しく壁際に立っていた斗真が、前のめりで守屋刑事の椅子を揺さぶるから、バランスを崩した守屋刑事がギロっと俺たちを睨み付ける。
「お前ら、いい加減にしろよ」
「す、すみません」
「斗真、とりあえず落ち着こう」
「青木 円香の件について俺はまだ、正直半信半疑だ。だから確認してみたくてな。まさかお前達に会うとは思いもしなかったぜ」
「なぜ急に?」
「ふっ。坂下 弥勒」
「えっ?」
守屋刑事が苦虫を噛み潰したような顔で俺を見るから、俺は一歩後ろに後退する。もうこれ以上下がれない。追い詰められたウサギのような気分だ。
さっきもそうだったけど、何でここで弥勒義兄の名前が?
『ボクちゃん、大丈夫? このオジサンの顔、どっかでみた気がするんだけど』
「坂下って」
「あぁ、そうだ。今は九条 弥勒。お前の義理の兄さんだろ?」
「そ、そうです。でも何で刑事さんが?」
守屋刑事は、俺たちに背を向けモニターに目線を戻した。
「あいつとは腐れ縁でな。今回も奴から連絡をもらったってわけだ」
そう言いながら守屋刑事は頭をボリボリと掻く。これが彼の癖なのかもしれない。
「腐れ縁…」
「ま、その弥勒から『義弟をよろしく』と言われたら、動かない訳には行かないだろ?」
「いや、よくわかりません」
「わからなくていい」
弥勒義兄が誰かに連絡してみるって言っていた事を思い出した。この守屋刑事の事だったのか。世の中は意外と狭い。
守屋刑事はそれ以上語らず、如月刑事と共に職務に没頭していた。
『ボクちゃん、このオジサンって刑事さんなんだね。やっぱり私、このオジサンに会ってる』
「えっ? いつ?」
『うーん?』
「あっ! そこもう一度!」
興奮気味の如月さんの声が室内に響き渡った。急に耳元で大きな声がしたものだから、守屋刑事があからさまに嫌な顔をしている。
「あー、うるせい」
「あ、すみません。でも今、青木 円香さんらしき人影と黒服の人物が」
「ホントか?」
データ管理室のオジサンも慌てて映像を巻き戻す。
「都筑くんって言ったね。青木 円香かどうかわかるか?」
急に名前を呼ばれ、斗真はモニターをじっと見る。モニターは、女性らしき人影が最大限に見えるところで停止された。
「顔が見えないじゃないか」
「でも、服と鞄が映っています。都筑くん、当時の彼女の服装や鞄、覚えていませんか?」
急に話を振られてあたふたしている斗真を横目に、モニターが映し出す女性とその時刻に注目する。
時刻は1時すぎ。斗真がぶっ倒れた時刻とほぼ同じ時間を示している。これが円香ちゃんだとすると、倒れた斗真を置き去りにしてすぐに移動を開始したということだ。それとも?
「うーん」
「はっきりしろや。お前の彼女なんだろ?」
痺れを切らした守屋刑事が大声を出した。まぁまぁ、と如月刑事が大きな体の守屋刑事をなだめている。どうやらこのオヤジ、沸点が低そうだ。
「すみません…」
可哀想な斗真。浮かれすぎて細かい事なんて気にしていなかったんだろう。そう思った瞬間、俺の目にボワっとした映像の一部が飛び込んできた。
「あの…ここ、拡大していただけますか?」
「何だ? 何か気になるのか?」
「この鞄の中身、少し明るくなってるところ、ここを拡大してもらえますか?」
俺の言葉に、如月刑事が反応する。「お願いします」とオペレーターのオジサンに話かけ、グイーン、グイーンと映像が拡大される。
ボヤけた映像だったけれど、ハッキリとわかることがあった。
「円香ちゃんです」
「えっ?
「この爪、そしてスマホについているストラップ。彼女に間違いありません」
「こんなにボケてるのにわかるのか?」
「彼女のネイル、見覚えがあります。それに、このストラップは、なぁ」
「わかった。すぐ所轄で保管しているスマホを確認しよう」
如月刑事は頷いて、データ管理室のオジサンにデータ提供のお願いをする。
「この時刻以降の公演出口付近の防犯カメラを全て提供してください」
「一緒にいる黒い服の人物は、都築くん? 君じゃないんだね」
「はい。俺はあの時ダウンジャケットを着てました。こんなダサいロングコートは着ません!」
そこか? と思ったけれど俺は黙って成り行きを見守ることにした。
円香ちゃんはやはり、どこかで監禁されている。俺は確信した。
「お前達、今日のところはこれで帰っていいぞ。映像解析できたら連絡する」
「あ、ちょっと守屋さん!」
如月さんの悲鳴めいた声が聞こえた。「しょんべんだ」と捨て台詞を吐いて、守屋刑事は俺の胸をドツきながら、部屋を出て行く。
如月刑事は一つため息をし、守屋刑事の後を追った。
不思議だった。彼女には変な物が何も憑いていなかった。そんな人もいるんだなぁ~。
『ホクちゃん? 何みてるの?』
「えっ?」
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