公園の男の子
白黒の世界。
斗真の声がスローモーションの様にゆっくりとぼんやりと聞こえる。そしてこの白黒の世界で、目の前の男の子は鮮明さを増していく。
「君の名前を教えてくれないかな?」
『か…お…る』
「薫くんか。大丈夫なにもしないよ」
薫と名乗った男の子はまた一歩、
『あぁ~もう、男の子でしょ。ちゃんとお話しないと』
『ほぉ~ら』
先日出会った学くんよりずーっと小さい。
「薫くんはいくつ?」
『…』
しーん。そういう音があればきっと大きな音がしたに違いない。
やっぱり子どもは苦手だ。全く口を開こうとしない。まだ俺が恐いんだろうか?
そんなことを考えていたら、薫くんがゆっくりと指を4本立てて俺の方に見せてくれた。
「4歳か」
コクっとうなずく。良かった…、俺の言っていることは理解できてるみたいだ。
「じゃぁ、覚えてるかな? このお兄さん」
俺は隣にいる斗真を指差す。すると薫くんはチラッと斗真の方を見て、軽く頷いた。
『ねぇ、薫くん。私に教えて~。その時一緒にいた女の人覚えているかな?』
『ママ?』
『う~ん、ママじゃないけど、ママと間違えたんだよね?』
しばらくすると薫くんも夜の訪問者である俺たちに、少し慣れたのかボソボソっと話し始めてくれた。
『ママ…は、おじさんと一緒に…くすん』
「えっ? ママ?」
『いや、ボクちゃん。今は、ママと間違えた娘のこと言ってるから』
「そ、そうか…」
子どもの話は難しい。学くんの時みたいに想いを映像で見ることが出来たら楽なのに。俺はそんなことを考えていた。
「そのおじさんとお姉さん、おっと…ママはどっちに行ったの?」
『あっち』
薫くんはそう言うとスーっと消えてしまった。それと同時に俺の周りも色を取り戻していく。
「
「あ、あぁ」
斗真の声も普通に聞こえている。戻ったんだ。ダメだ…まだふわふわしていて体に力が入らない。
「大丈夫か? お前…また」
「大丈夫だ。円香ちゃんのことが少し分かったかもしれない」
「えっ?」
その時、急に強烈な光が差し込んできた。
「「まぶしっ!!」」
俺たちは眩しさに目を細める。
「君たちそこで何をしてる?」
「あ…っと…」
その声の主は、巡回中のお巡りさんだった。
『しーらないっ、と』
そう言うと、彼女も俺たちの前からスーっと消えてしまった。
何なんだよ?
※ ※ ※
俺たちはその後交番につれていかれ、たっぷりお説教をされた。まず盗撮犯と間違われ、身体検査とスマホの映像をあらためられた。
深夜2時、暖かい交番の中で眠気が襲ってくるそんな時間。早くお説教が終われば良い、そう思っていた。斗真もそう思っていたんだろうな。明らかに不満顔だ。でもあれはない…。斗真の奴、とうとうやらかしたのだ。
やけくそになった斗真が放った言葉、「俺たちは幽霊を探してたんです」はお巡りさんを激怒させるには十分だった。
たっぷりと怒られ、やっと解放された俺たちは、とりあえず自分たちの部屋に戻り、また後で合流する約束をした。俺も熱いシャワーと睡眠と着替えが欲しかったから、寄り道もせず部屋に戻る。
『ねぇボクちゃん』
「うん? あ、盛り塩が邪魔か…」
『あ、それ。全然大丈夫だから、気にしないで』
玄関のドアを開けた時、いつもの盛り塩が目に入った。もしかしたら
しかも彼女は俺のお守り類をモノともせず、ずかずかと部屋の奥に入っていってしまった。ちょっと土足は勘弁、って足跡はつかないんだろうけど、見た目が落ち着かない。
「靴ぐらい脱いでほしいな~」
『あ、ごめんごめん』
彼女は瞬時に裸足になり俺のベッドに腰かける。
ヤバいこのシチュエーション。女の子、しかも俺の永遠のアイドルに瓜二つの彼女が俺のベッドに座って足を、美しい足を伸ばしている!
目のやり場に困る…よ。俺、何を期待してるんだ?
「コホン、風呂に入るから覗くなよ」
『うん、分かった』
熱めのお湯を張って、今日の疲れをとることにする。弥勒義兄ほどじゃないけど、俺も想いの塊とコミュニケーションをとった後は、体の緊張が半端なくて予想以上に疲れるんだ。
ザッバーーン。
俺の体の体積分のお湯が流れていく。「あぁ~ふぅっ」って、声が出る。生き返る、気持ちが良い。
一日の終わりはやっぱり風呂だな。
寛ぎながら俺は、円香ちゃんを連れていったオジサンという存在について考えていた。大声も出さず誰にも気付かれず公園から一人の女性を連れ出すことは可能なんだろうか? 円香ちゃんはストーカーに怯えていた感じはなかったって、斗真は言っていた。と言うことは、オジサンは円香ちゃんの知り合いなのか?
考えれば考えるほど脳がレモネードを欲する。
俺は湯船の湯をバシャンっと派手に顔にかぶった。
「あー、わかんねぇ」
『ねぇ、ボクちゃん』
「な、なっ、何?」
気付くと
俺は慌ててタオルを掴んで浴槽に沈めた。いつからそこにいた?
「ちょっと、覗かないでもらえます?」
『覗いてなんていないわよ。ただ一緒にいてあげてるだけ』
「あのねー」
『ふふ。ボクちゃんって、やっぱりかわいい』
「いや、いやいやいやいや…」
『ボクちゃん疲れてるみたいだから、癒してあげたいなって』
「えっ? 癒すって、な、何を…?」
良からぬ想像が俺の脳内を駆け巡る。そして、俺の鼻からつーーーっと血が流れ落ち、俺はぶっ倒れた。
『ちょ、ちょっとボクちゃん!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます