助けを呼ぶのは誰だ?

『助けてくれ』22:34

  22:55『どうした?』

『電話OK?』23:55

  22:58『いやバイト』

  22:58『どうした?』

  23:10『おーーーーーい』

  23:23『斗真?』


 あれから何日かして、久しぶりに斗真から届いたメッセージがこれだ。

 助けて? 嫌な予感がする。


 俺は今夜、店のクロージングのシフトだったから絶賛バイト中だったんだけど、気になって床掃除をしながら斗真に電話をいれる。


 最近授業にも顔を出さない斗真を、俺なりに心配していた。まぁ、円香ちゃんとよろしくやってるんだろう? その程度に考えていた。だって当の円香ちゃんの姿も見ないから、二人でよろしくやってるって思ってた。


「くそっ。出ろよ」


 コール音10回目で、ようやく斗真が電話口に出る。


「どうした? 斗真」

「あ…、碧海あくあ

「具合でも悪いのか?」


 斗真の声が変だ。俺の風邪がうつったのだろうか? それでお粥が欲しいのか? でも、そう言うのは彼女に普通頼むだろ?

 俺は咄嗟にいろいろ考えを巡らす。


「何か買って帰ろうか?」

「いや…違うんだ。俺…」

「どうした? フラれたのか?」


「……いや…違う」

「じゃー何だよ? 俺まだ仕事残ってるんだけど?」


 いつもの斗真からは想像しがたい声が続く。


「ごめん…。俺…」

「落ち着け、どうしたんだ?」


「お前…公園の迷子の男の子っていう話、知ってるか?」

「公園…」


 あぁ~確かこの前そんなニュースを見た気がする。まさかその話が怖いとかって泣いてるんじゃないだろうな?


「あぁ、この前ネットで見たよ。それがどうした?」

「お前、あれは真実だと思うか?」

「う~ん。まぁ、いてもおかしくはないな」

「違うよ」


 急に斗真の声が大きくなる。


「何だよ」

「遭遇した者は3日後に死ぬってやつ」


 俺はそんな都市伝説のコメントがあったことを思い出した。死者の想いの塊に、人間に危害を与える力があるとは思えない。悪意の塊なら話は別だけど。


「あはははは。何バカなこと言ってるんだ? 小学生のガキじゃあるまいし」

碧海あくあ、真面目に聞いてるんだ」

「何だよ」


 斗真の声が急にトーンダウンする。これは…何かある。


 俺の嫌な予感が当たった。


「俺…」

「うん」

「俺…、昨日の夜、あの公園で…聞いちゃったんだ」

「えっ? 何を?」


 まさか?


「……ママって」

「えっ?」

「俺、死ぬ…」

「ちょっと待て。そんな話、ただの都市伝説だろ?」


 電話越しに混乱している斗真をなだめ、聞き出した支離滅裂な話をまとめるとこうだ。


 昨夜、調子に乗った斗真は円香ちゃんと夜の公園に星を見に出掛けた(都会の夜、いくら薄暗いからと言って星が見れるわけがない。もっと他の理由があったんだろ? ←憶測)。

 まぁ、とにかく出掛けたらしい。


 ゆっくりと公園を散歩し、だいたい1時を過ぎた頃ベンチで座っている(いちゃついている)と、子どもの泣く声が聞こえてきたと言うのだ。


 こんな時間に? と思った円香ちゃんが斗真と二人で声のする方向を探したけど、子どもの姿はなかった。

 あきらめて戻ろうと振り向いた時、3~4歳くらいの男の子が泣きながら「ママ…」と言って円香ちゃんのスカートの裾を握っていた。


「握ってたのか?」

「あぁ。だから…"やめろっ"って怒鳴って手を振りほどこうとしたら」

「したら?」


「お、俺の顔を睨んで、『ママを返して』って…」


 電話越しに斗真の声が震えているのがわかる。


「それで?」

「そ、そしたら…」

「消えた?」


 斗真の息を飲む音が聞こえた。


「あぁ」


 あぁ~やっぱり…。あそこには男の子の想いの塊が迷い混んでいるのだ。俺は確信した。


「斗真、大丈夫だ。その後は別に何もなかったんだろ?」

「ないっていうか…あるっていうか…」

「うん?」

「俺…その後気を失ったみ…たいで」

「…!」


 俺はかける言葉を失った。


 今回は俺の出番はないな。

 咄嗟に俺はそんなことを考えていた。事はそんなに単純じゃなかったんだけれど、その時はそう思ったんだ。


碧海あくあ? 聞こえてる?」

「あぁ聞こえてる。もう、切るぞ。俺も早く帰りたい」


 俺が電話を切ろうとすると斗真の叫ぶ声が聞こえた。男女の話は自分たちで解決してくれ。


「ったく…円香ちゃんに恥ずかしいとこ見せたんだったら、自分で何とか頑張れよ。俺は知らない」

「違うんだ! 碧海あくあ

「何だよ」


 俺はスマホをスピーカーにして床掃除を続ける。まともに聞いていたら、朝になる。


「俺、目が覚めたら公園だった」


 そうか。かわいそうに円香ちゃんに介抱もされず逃げられたんだな。まぁあんなドロドロ飼ってる奴なら、それくらい普通なのかもしれないけど。


「聞いてる?」

「あぁ、聞いてるよ」


「俺一人だったんだ」

「円香ちゃん、お前を置いて帰っちゃったんだな」

「俺も最初そう思って、お詫びの電話をかけたんだ。でも…出ないんだよ」


「それは…話を総合的に判断すると、お前が呆れられたってことじゃないのか?」

「俺も最初そう思った」


 最初? 話には続きがあるのか?


「でも、電話は公園の中で鳴ってたんだ」

「えっ?」

「今、俺が持ってる」


 ちょっと待て? 俺は慌ててスマホを手に取る。


「で、お前は今どこにいるんだ?」

「家」


 円香ちゃんがいなくなり、スマホだけが残されている? 今時スマホをなくしたら一大事だ。どんなに会いたくないと思っている男にも、さすがに確認するだろう。


「円香ちゃんの家とか友達とかに聞いてみたのか?」

「もちろん! 彼女は留守だし、友達も知らないって言うんだ」


 何が起きてる?


碧海あくあ、俺どうすればいい?」

「どうすればって…、警察に届けた方がいい。お前は円香ちゃんと一緒にいて、彼女のスマホを持ってる。そして…今、彼女が消えた」


「俺も消されるんじゃないか? 子どもの祟りなんじゃ?」

「祟られることなんて、してないだろ」


 今から行くから、おとなしくしてろ! と俺は言い、電話を切った。


 何が起きてるんだ?


 俺は店の片付けを済まし、斗真の部屋に向かった。


 そして今日もまた、俺はあの公園を通る…。

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