事件です! 童貞な俺と行方不明の彼女

どちらもインパクト大なのだ!

 俺が初めて自分の能力に気付いたのは、小学校5年生の時だった。


 それまでも何か得体の知れないモヤのようなモノが人に纏わりついているのは知っていた。

 良くある話だけど、みんな見えていると思っていたんだ。


 あの日……それが特別なんだっていうことを知った。


 それは大好きな爺ちゃんのお葬式の時だった。まだ子どもだった俺は火葬場で退屈を持て余していた。


碧海あくあ、ゲームしてていいよ」

「あ、うん」


 13歳年の離れた姉ちゃんがスマホを貸してくれた。俺は父さんも母さんのことも覚えていない。俺が小さい時に事故で亡くなったらしいから、両親のことは顔も何も覚えていない。


 そんな俺たちを爺ちゃんが面倒を見てくれた。今なら分かる。めちゃくちゃ大変だったに違いない。でも爺ちゃんは誰よりも厳しくて、誰よりも優しかった。


 だから俺は爺ちゃんが大好きだった。


 もう爺ちゃんに会えないと思うと急に悲しくなった。姉ちゃんと喧嘩してもいつも庇ってくれたのは爺ちゃんだったから。


 そんなことを考えてると涙が溢れてきた。ゲームの画面も滲んで見えないから、すぐゲームオーバーになる。

 その時、黒い服の大人たちの間を白い着物を着た人物が、ウロウロしているのに気づいた。なぜ葬儀に白い服なんて……って思ったのを覚えている。とっても違和感があったんだ。


 その人物は周りの大人たちと違い、体の線がふんわりと光って見えた。


 あれは紛れもなく、死んだ爺ちゃんだった。


碧海あくあ? 何見てるの?」

「えっ?」


 じゃ……、今焼かれているモノは何だ? 俺は爺ちゃんから目が離せなくなっていた。


碧海あくあ?」

「姉ちゃん……」


 俺が何か言おうとした時だった。


『しーーーーーーっ』


 爺ちゃんは右手の人差し指を唇に押し当て、俺に向かってそう言っているように見えた。すごく嬉しそうに笑っていたから、俺はゆっくりと頷いて「何でもない」って姉ちゃんに言ったんだ。


 爺ちゃんはしばらくみんなの周りをウロウロした後、俺の目の前にやって来た。


『やはりな。碧海あくあには見えているんだろ? うんうん。お前はこれから先、見えることで苦労するかもしれん。でもこの力は神からの贈り物だからな。怖がらず大切にするんだぞ。それと……碧海あくあは男の子だから、歩璃あいりを頼むな。あまり困らせるなよ』


 ちょうど火葬が終わったと声をかけられた時だった。その言葉を最期に、爺ちゃんは俺の頭に手を乗せ、しわくちゃな笑顔を残して消えて行った。


「爺ちゃん……」

 

 俺はボロボロ泣いた。

 そしてこの時、子どもの俺は悟ったんだ。時々人込みに紛れて見えていたもの。あれは死んだ人の想いの塊だと。



 さっき見た女の子も、もしかしたら……。俺はそんなことを考えながら部屋にたどり着いた。なんだか寒気がするのは気のせいか?


 ドアを開けると、玄関の両サイドに置いてある盛り塩を確認する。悪運・悪意から身を守るために、念のため盛り塩をしているのだ。

 以前は外に置いておいたんだけど、管理人のオジサンに注意されて片付けられてしまった。それ以来部屋の内側に作っている。


 今日の様に、間近でドロドロした悪意の塊みたいな靄を見てしまった時には、玄関に置いてある塩を頭から浴びる。


 気休めだけどね。


「ただいま~」


 誰もいるはずのない部屋。でも何となく「ただいま」って言っちゃうのは、日本人の習慣だからだよな。


 俺は風呂に入ってぎんぎんに冷やしたレモネードを飲むことすら忘れて、ベッドに倒れ込んだ。急に眠気が襲ってきたのだ。

 かろうじて、ショルダーバックを外しTシャツとパンツ姿にだけになり、布団に潜り込んだ。


「頭いてぇ~」


 そう言えば、誰かが介護してくれるわけもなく、俺は眠りに落ちていく。


 枕元のスマホが何度か機会音をならしていたけど、確かめる気力もなかった。




* * *


「大丈夫? ねぇ起きて~」


 甘い優しい声が遠くに聞こえる。ここは天国なのか?


碧海あくあくん、大丈夫?」


 あぁ~この声は、俺の永遠のアイドル! ミクちゃんっ。俺を心配して…来てくれたんだね。……うん? 心配……?


「……?」


 ふらつく頭で俺は考える。俺は独り暮らしだ。これは夢なのか? 幻聴か? それとも?


 ゴーンっ!


 俺は勢いよく起き上がると何かにしこたま頭を打ち付けた。


「いてぇ~。目から星出たぞ!」

「痛いのはこっちだ! いきなり起き上がるか? 普通~?」

「って、斗真! 何で俺んちにいるんだ?」


 まだくらくらする頭を抱え、俺は叫んだ。


 今俺の部屋に不法侵入しているこの男は、都筑 斗真。中高、大学と同じクラスという腐れ縁の男だった。

 俺のこの特異体質を知っても離れないでいてくれた唯一の友、いい奴なのだが、どこか天然でアホだ。ま、悪い奴じゃない。


「あ、鍵開いてたから」


 斗真は音声変換アプリを片手に、ニヤニヤしている。俺のミクちゃんの声を使ったな!?


「開いていても、勝手に入ってくるのは歓迎しない」

「何言ってるんだ。昨日の夜から連絡してるのに既読にもならないし、授業にも来ないから心配して来てやったんだろうが」

「えっ? 今何時よ?」


 俺はスマホで時間を確認するともう3時を過ぎていた。それに、斗真から信じられない数のメッセージが届いていた。すまない……。


「ま、熱があるみたいだから、寝とけや。飯は食えそうか?」

「うん」


 俺は斗真が差し出した体温計を口に含んで素直に頷いた。


 斗真の後ろ姿をみながら、ふと思う。何かが変だ。いつも以上にウキウキしてる。いや…ウキウキというより艶々してる気がするのだ。


 これは……嫌な予感がする。



 斗真がニコニコしながら振り向き、満面の笑顔で俺に告げた。


「あ、俺! 昨日、円香ちゃんとエッチした」

「えっ?」

「悪いな。一抜けだ」

「な、なに?」


 それはあまりにも唐突で、病み上がりの体には衝撃的な言葉だった。


「……今、何て?」


 俺の口から体温計がポロリと落ちた。

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