第4話 求婚

 美味しかった夕食が途端に会えたことによる喜びとあってしまったことによる絶望で味がなくなる。ふと父の口癖を思い出す。幼い頃から内向的で人の心情がよくわかるからこそ人の顔色をうかがい踏み出すのが難しかった私によく言ってくれたものだ。

「勇気を出して一歩踏み出してみるのもいいよ、案外いい方に転がることも多いんだから。」

「失敗してもいい。どうにかしてそれを成功に変えたらそれはもう成功だ。綾乃ならできるよ。」



 父の言葉を信じて一歩踏み出すか。何か変わるかもしれないし。そう思い、彼と話すことにした。ただ、夕食は全部食べきってからでないと私が許せない。私を待つぐらいはさせてもいいだろうなんて身勝手なことを考えながら黙々と食べる。あぁ美味しい。英国料理はまずいまずいと言われるがうまく選べば美味しいし、うん、まずいものもあるけど経験を積めば多分避けられるし今じゃ他国の料理が入ってくるから美味しいものも多い。

 唐突だが切実にイタリアンを本場で食べたい。なぜか私な好きなパンも料理もどこの国なのか調べれば大体イタリアなのだ。もちろん和食に勝るものはないが。

 それはさておき、なにを話そう。パブに入る。ここなら少々うるさいが話しやすいだろう。向こうが口火を切った。


「ノアは日本であった後どこにいたの?連絡全然くれなかったからノアのとこ行ったらお嬢さんならもう退去されていないよとか言われてほんとに心配したんだからね」


 と問い詰められた。私は割と素直に答えつつも質問し返す。


「んー急な転勤ですぐに本社立ち寄ってからここかなぁ、綾汰こそどこでなにしてたのさ、というかまずなんでここにいるの」


「僕?僕はずっと日本。今はお金たまったから休みとって旅行中。でも明後日には帰るよ。」


 興味持ってくれてたんだね僕に。と微笑む。そして彼はスッと真面目な顔になり、自分のことを明かし出す。


「あのね、僕、大きな金融会社の専務取締役をしてるんだ。それで、ありがたいことに副社長まであと少しなんだ。休みが取れたのも奇跡だし、そこで君に会えたのはもっと奇跡だ。」


 と、一気に言い切るととても甘い顔になる。こういうとき、顔が整っている人はずるい。その顔だけで赤くなりそうになる。


「僕ね、3年間ずっとフリーだったんだ。君が、よかったらなんだけど、僕とこれからもいてくれないか。自分でもびっくりするくらい好きなんだ。どうしても離れていた3年間君のことが頭から離れなくて。なんで君のことをどう思っているかなんてわかっていたのに言わなかったんだろうってずっと後悔してた。今日顔を見たとき、抑えが効かなくて話かけてしまったんだ。っごめん、驚いたよな、久しぶりにあったやつに求婚まがいのことをいわれるとか。」


 と焦りだす。嬉しい、彼も同じことを思っていたんだと思うと。まさかこう転ぶとは。どうしよう、これはどう返すべきか。彼は嘘を言っていなかった。心情的には恋人になりたい。彼の気持ちにそいたい。でも仕事から見たらどうだろうか。恋人や深い関係にならなくても確かに仕事は果たせる。ただ、彼とちゃんと両立できるだろうか。気遣えるだろうか。そんな心配が襲う。よし、断ろう。どうしても自分が彼にもらった愛情の分を返せるかと言われたら断言できなかったからだ。それによっておきた失敗を成功に変えれるか、きっと信頼や愛など不確証で難しいものが関係してくるから難しいだろう。不確証なものは築くのは大変だが壊すのは簡単だ。それに私は失いたくない。そう思うだろう。自分の仕事を明かせるか?まだ無理だろう。そうぐるぐる考えながら言う。



「ごめんなさい、気持ちはとっても嬉しいし返したい、そう思うけど無理だわ。遠距離になってしまうしね」


 笑えていただろうか。自分の心に嘘をつくことはなれたと思ったいたのにこうも苦しいとは。


「そっか、ごめんねこちらこそ。でも、きっとずっと好きだから。いつか落とすね。」


 そう宣戦布告する彼は可愛くもありかっこよかった。他愛もない話をしながら送ってもらう。信頼していることを彼は気づいているのだろうか。そう思いながら歩く道は苦しくもあり明るくもあった。


「ノアはいつ帰るの?日本に。」


「明後日くらいに本社に行ってからだから1週間後かなぁ」


「え!意外と近いんだね。そのときまた連絡してよご飯一緒に食べに行こう」


「忘れていなかったらね」




 お店からは歩いて帰れる距離だったためふたりで夜のイギリスを歩く。イギリスは歴史を感じるだとかノスタルジックだとかそんな他愛もない話をしながら帰る。家に着くと私たちはわかれ、彼は彼のホテルへと帰る。


 久しぶりに充実した感じと多幸感に溢れた日を味わった。幸せ疲れ、というのだろうかのおかげでスッと寝ることができた。


 お父さん、やっぱり正しいかったね。ありがとう。そんなことを思いながら寝たためか家族で過ごした日々の夢を見た。明日は最終日。頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

彼は彼女から4文字を奪った @afterain

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ