ちょっとした冒険の終わり

 翌日。二人は馬たちを連れ、近くの町で盗賊の件を話した。いくらか事情聴取を受けた後、駅馬車に馬を引き渡すと帰路についた。同じ道をもう一度通り、三日後には王都レクスタリアへと戻ってきていた。見慣れた王都の雰囲気に、ロウゼンの旅の疲れは吹き飛んだ。生きて帰ってきたのだと、安心して少しばかり気が緩む。

 高壁の門をくぐると、見慣れたアークトゥス通りがあった。賑やかな大通りを歩いていき、流星雨へと向かう。


「むっ?」


 そんな中、何かを見つけたケリューは蝶を追いかける子供のように走り出す。


「一週間くらいしか離れていないのに、なんだか久々に帰ってきた気分だ。ケリューはどう?」


 振り返って問いかけるが、そこにケリューの姿はない。


「あれ、ケリュー?」


 慌てて周囲を探すと、ロウゼンから少し離れた場所にある店の前で、ケリューが誰かと話しているのを見つけた。ケリューが話しかけているのは見覚えのある顔で、それは研究所へ向かう途中の町で見かけた、商人の女と剣士の男だった。ロウゼンの顔を見て何か話していたので、印象に残っていた。


「お久しぶりであります! 丁度あなたに会いたかったので、再会できて嬉しいであります!」

「な、何? なんの用なの?」


 商人は鋼鉄の両手で自分の手を掴まれ、逃げ道を失っていた。いったい何をする気なのかと、困惑した様子で商人はケリューに問う。


「あなたがオートマタを嫌うのは、きっと話し合ったことがないからであります! ですので私とお話ししましょう! まずは互いの名前を知ることからです!」

「は、はぁ? なんであたしが?」


 ケリューの話に呆気にとられたのか、商人は思わず疑問を投げかける形ではあるが返事をしてしまい、いよいよ自力で逃げ出すチャンスを失った。


「おっと失礼、こういうときは私から名乗るべきでした。私はケリュケイオン! 親しみを込めてケリューとお呼びくださいであります! あなたの名前はなんと言うでありますか?」

「エ、エメリーだけど……」

「エメリー殿でありますね! 素敵な名前であります! ではまずは──」


 これはまずいと、ロウゼンは走って近づき、ケリューの肩に手を置いた。


「ケリュー、まずは流星雨に戻らないと、ね?」

「むっ、そういえば帰る途中だったであります。それではエメリー殿、申し訳ないですが私はこれで! 冒険者ギルド流星雨にいるので、いつでも会いに来てほしいでありますよ〜! 積もる話はそこでしましょう!」


 ケリューは両手で大きく手を振り、スキップと駆け足を織り交ぜた、軽快でご機嫌な動きで流星雨へと向かっていった。


「いきなりすみません。お喋りが好きなだけで、彼女に悪気はないんです」

「でしょうね……別に気にしていないわ」


 商人はうんざりとした顔をすると、剣士を連れて歩いていった。途中、商人は剣士に何か嬉しそうに話していたが、今度は剣士の方がケリューに話しかけられた際の商人と同じ顔をした。

 ロウゼンは二人を見送ると、走って流星雨の玄関口に到着する。ケリューは一足先に両開きの扉を開け、元気よく「ただいまであります!」と挨拶をした。デーヴァやドルファ、冒険者たちのおかえりという声がカウンターの方から聞こえる。

 掲示板の前にいたサティアが、ケリューの方を見て安堵した表情を浮かべ、次に玄関口にいるロウゼンを見つめる。

 ロウゼンも、自分の帰還を待つ者たちがいる場所──冒険者ギルド流星雨のロビーに足を踏み入れた。



* * *



「まったく。あの破壊王に話しかけられてラッキーだったけど、あのオートマタはなんなの?」

「お、おいエメリー。この国ではオートマタの人権は保護されている。あまり大きな声で悪口を言うもんじゃない」


 剣士の男が恐る恐る忠告する。


「別に怒ってないわよ」


 顔は不機嫌そのものだったが、彼女はそう答える。


「ねぇ。あたし、彼女のおかげで一つわかったことがあるわ」


 アークトゥス通りを歩きながら、商人の女は剣士に話しかける。


「あたしは、昔と変わらずオートマタは嫌いよ。だけど、あの娘のことはそう思わない。だってオートマタ以前に──」


 肩をすくめ、満更でもない表情で商人は言った。


「ただの馬鹿だもの」

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レクスタリア流星雨 王都の冒険者たち たくあん魔王 @takuanmaou

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