第60話 帰国とカジノ
日の出の頃、俺と王子は姫様を将軍の元に送り返した。
「本当に有難う! 何かあれば必ず君の助けになろう!」
「いえ、気にしないで下さい……それなら、あの化け物の被害に遭った──」
「王子なのに、蚊帳の外……」
将軍様は娘から俺に助けられた事を聞いたようで、王子のアレックスではなく俺に対して深く感謝している。
「アツヤ様、また会いましょう!」
姫様も少し気持ちが吹っ切れた様で、明るい表情で俺達を見送っていた。
「……じゃあな」
実家の玄関を開けると、近くに居たトウカがお出迎えをしてくれた。
「お帰り……って酷い顔!?」
「徹夜で遊園地は流石に疲れたな……」
「ただいま、トウカ」
俺達は気が抜けて、我慢していた疲れが爆発したかの様にぐったりとしていた。
「──アツヤは明日帰る予定なのに、こんな調子で大丈夫?」
……そうだった。 俺って一年間行方不明な事もあって、早く学校に帰ってやることが有ったんだ。
「大丈夫……飛行船の中で寝るさ」
「……アツヤと本当は行きたい所があったのにな」
彼女が俺がギリギリ聴こえる小声で、そう呟く。
「──まあ、俺は思ったより疲れてないぞ……何か実家に帰ったら調子戻ったわ」
「本当!? それじゃあ、二人で今から出掛けよう!」
──見栄を張った直後、彼女は舞い上がった気分で俺を脇に抱え、地面を抉り取る様な勢いで道を駆け抜けた。
「ちょ、待てよ──」
「アイツら、元気だな……」
「行きたい所って、かき氷屋さんか……」
「祭りで結局食べられなかったから!」
彼女は嬉しそうにイチゴ味のカキ氷を頬張っている。 よく、こんなに冷たいモノをあれ程のペースで食べられるな。
「──祭りの最後に買おうとしてた物、これだったのか」
「やっぱり、夏と言えばカキ氷でしょ!」
彼女はそう言いながら、二つ目のカキ氷を食べ始める。 ──彼女は冷たさにも強いらしく、全く表情を曇らせずに氷を口の中に入れていく。
「……久々の里帰りで酷い目に遭ったな」
「お疲れ様、アツヤ」
彼女はそう言いながら、俺の頭を撫でてくる。
「……止めろ、恥ずい」
「ゴメンね……そう言えばアツヤ、僕にまだ告白してないよね?」
──確かに、俺達はお互いに気持ちを伝えあったが、ハッキリとした告白を俺から行っていない気がする。
「僕、一度アツヤから受けてみたいな」
彼女は俺の方を静かに見つめ、何時もより何倍も可愛らしい表情で、期待を宿した瞳で催促をしている。
──此処まで彼女に言わせたんだ、次は俺の番か。
「──俺は、トウカの──「アツヤ! 大変、近くに魔物が現れたみたい!」」
その時、俺の脳内に陸鳥からの甲高い声が聞こえた。
「トウカ、近くに魔物が現れたらしい」
「……そっか、倒しに行こっか!」
俺達は直ぐにその騒動の現場に向かって走り出し、結局告白の件は曖昧になった。
「──クソ鳥」
横で彼女が小さな声で何かを呟いていた気がするが、俺には聞こえなかった。
「それじゃあ、お前達も元気でな!」
俺と妹のコウカと陸鳥、おまけに王子は父から見送られながら飛行船に乗り込もうとしていた。
「有難う、親父! ヘビオの事も宜しく!」
「お世話になりました、アツヤの父さん!」
「……」
──それにしても、まさか妹のコウカも同じガルオス学園に通っているとは思わなかったな。
「……此れからは学園でも一緒ですね、兄様」
「……ああ」
因みに、トウカ達はアルトの魔道具を使って和国に来たようで、帰りも勿論その方法で帰国する様だ。
「……お前達、面白い者を見せてやろう!」
飛行船の席に座った途端、アレックス王子がニヤリと笑い席から立ち上がった。
「……仕方ない、行くとするか」
俺達は渋々といった様子で彼の後を着いていき、暫く飛行船の通路を歩いた。
「……此処がこの飛行船で最も熱い場所、カジノだッ!」
「──凄いです兄様、人々の欲望と絶望が渦巻いています」
俺の妹がそんな悪趣味な事を言いながら、煌びやかな光で眩しい此の場所を目を輝かせて見ていた。
「金はあまり使いすぎるなよ……」
──カジノかよ。 俺は呆れた様にその場を立ち去ろうとすると、一人のパンツ一丁、ほぼ全裸の男に目が留まる。
「……あれは」
「──カグヤ、お金無くなっちゃった」
「大丈夫ですよ、私が払います」
其処には、見覚えのある顔をした皇子とメイド姿の従者が居た。
俺強えぇぇ!!したいのに必ず幼馴染に邪魔される件について 角刈り貴族 @KakugariKizoku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺強えぇぇ!!したいのに必ず幼馴染に邪魔される件についての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます