第59話 帰り道と寄り道


 大蛇に呑み込まれた時と同様、真っ暗な月夜が空に浮かんでいる。


 「出れたぁ……!」


 「帰るのやだなぁ……」


 俺達はやっと脱出する事が出来た。 喜びを隠せない俺と、横でこれからの事を憂鬱そうに嘆いている姫様が少し対照的だった。


 ……赤鬼達にも此処から脱出するか聞いたら、彼らは俺の提案を断った。如何やら、この大蛇の腹の中は意外と居心地が良いらしい。


 ──てか、俺がこの大蛇の近くに無傷で居たら……全てがバレるぞ!


 「ヘビオ、また人間の姿になれないのか?」


 俺が焦って聞くと、彼は一瞬のうちに体を縮め、先ほど同様の人間体に早変わりした。


 「って裸かよ!」


 俺がコイツの服をどうしよう、そう考えながら頭を回転させていると遠くから声が聞こえる。


 「アツヤ、大丈夫!? って裸の男の子!」


 「勘違いするなよ、コイツは──「ご主人様、服如何しよう?」」


 ──今その呼び方をされると、勘違いされるだろう。


 「アツヤにそんな趣味が──近くに他の女の子も──」


 「落ち着けトウカ、状況を説明する!」


 俺は頭が熱暴走しかけの幼馴染を必死に落ち着かせ、先程まであった事を全て話した。






 「成程ね、そういう事だったんだ」


 俺は彼女にヘビオの事も含めて説明した。


 「……結果オーライだね! 姫様も見つかって化け物も退治したし!」


 ──見方によっては、そうなるのか?


 「おーい、此処にいたのか!」


 父さんや妹、トウカの母であるサオリさんなどが此方にそう呼び掛けながら駆け寄って来た。


 「……取り敢えず、無事で良かった」


 「何故、裸の男子が……」


 「姫様も横に居るな」







 それから俺達は行きと同じく無事だった牛車に乗って、実家に帰る。


 「まさか祭りを楽しむ事で姫様を見つける事が出来るとは……急がば回れとはこの事か!」


 「まさか、近所の──」


 「チョコバナナ、美味しかったです」


 


 俺だけ色々と遭ったが、話を聞く限り、みんな無事に祭りを楽しむ事が出来た様だ。



 ……因みに、祭りの責任者である近くの村の村長には被害額の十倍以上のお金を渡しておいた。


 ──本当にすいませんでした。

 






 実家に着いて直ぐに俺とアレックスは準備を整え、将軍の元に姫様を届けに行く。


 「眠くて瞼が落ちそうだ……」


 「まあ、こんな時間だから仕方ないだろう……」


 俺達は真っ暗な町を、牛車に乗って駆ける。 ……朝になってから彼女を送り返すことも考えたが、将軍の精神状態を考慮して直ぐに出発する事を決めた。


 「これで私の自由な時間も終わりですか……」


 「……此れからお前に自由な時間を与えるよう、将軍に少しは口添えしてやる」


 俺の言葉を聞くと、彼女は微笑んで言った。


 「如何した?」


 「──赤鬼さん達も辛いことが有ったら戻って来い、そう言って私を励ましてくれました」


 『もう戻れる訳ありませんのに……』 彼女は泣きそうな顔で、笑いながらそう続けた。


 「……」


 「……何処か行きたい所はあるか?」


 「おい、それは不味いだろ!」


 俺の突然の提案に、王子が驚いた声色で突っかかる。


 「別に一夜ぐらい大丈夫だろ」


 「本当に……良いんですか?」


 彼女が此方を不安そうに見つめてくるので、俺は首を縦に振った。


 「ああ」


 ……将軍には、写真でも送って彼女の安否を先に伝えておこう。






 俺達は急遽行き先を変更して、少し遠くにあった『不夜城』という名前の遊園地らしき所に足を運んだ。


 中には俺達と同じ様に、小さな子供を連れた親御さん達などがちらほら見掛けられた。


 「こんな真夜中にも、営業している遊園地があるのか……」


 「……何に乗りたいんだ、姫様?」


 俺は前を嬉しそうな様子で歩く姫様に向かって、問いかけた。


 「それでは……まず、このメリーゴーランドに乗りましょうか!」


 そう言って、彼女は俺の腕を引っ張って一緒に並ばせようとする。


 「俺達は近くのベンチで座ってるよ」


 「一人じゃ寂しいじゃないですか! 折角ですし、一緒に乗りましょうよ!」


 そう言って俺を無理矢理引っ張ろうとするので、王子に応援を要請する。


 「アレックス──ってあいつジェットコースターに並んでるし……」


 しかし、彼は既にこの遊園地を満喫すべく単独行動を開始していた。 ……王子、護衛対象に何かあったら如何するんだ。


 「仕方ない、近くで俺も乗るよ……」






 それから俺達は色々なアトラクションを巡り、最後は観覧車に乗って夜景を楽しんでいた。




 「一度、母にこの遊園地に連れて行って貰ったことがあったんです……」


 「……そうか」


 「今みたいな真夜中に城を抜け出して、二人で一緒に……」


──彼女の母親は、数年前に不治の病が原因で死んだ。 この世界は魔法などもあり、前世よりも医療技術が進んでいるが……未だに治せない病もある。


 「……有難う御座いました、アツヤさん」


 「……気にするな」


 俺は親を亡くした記憶が無いから、彼女の気持ちを分かち合う事は出来ないだろう。 


 「子供は我儘な者だ……」


 だが、俺にだって小さい頃の記憶がある。 だから、彼女が望む事をほんの少しは理解出来る。


 「アツヤさん、偶に、意外と大人っぽいですよね……」


 ──俺は大人だ、彼女が幾ら失礼な言葉を述べようと気にしない。


 「最後に──キャ!?」


 突如、空中を廻っていた観覧車がガタッと揺らついた。 そして、段々と擦れる様な金属音を鳴らし始める。


 ──遊園地の名前から少し嫌な予感がしていたが、まさか、こんな事ってあるのか?


 俺達が乗るゴンドラは垂直に落下していった。


 「こっちに来い!──」


 俺は咄嗟に彼女を近くに抱き寄せ、落ちる直前に──



 だが、途中でゴンドラの落下は緩やかになった。 


 ……そして、暫くその速度でゴンドラは地上に降りていき、何事も無く着陸した。




 「──如何して、俺を助けてくれたんだ?」


 俺はショックで気を失って倒れている姫様を抱き抱え、ゴンドラから降り立つ。


 そして、近くで疲れた様に横たわっていた赤い鳥、に向かって声を掛けた。 


 (……別に、理由なんて如何でもいいでしょ)


 「……俺はお前に、酷い態度で接していたのに」


 彼女は俺を助ける理由何て無いはずだ……そもそも、契約してくれた理由だって分かっていない。


 (……)


 「……御免、お前って俺が前世苦手だった女子に似てたんだ」


 (……へー)


 「だから、今まで苦手意識を持って接してたけど……これからは治す様に努力する」


 (……宜しくね、アツヤ)

 

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