第58話 和国の姫と蛇の恩返し
俺が先ほど眠っていた場所で、姫様と思わしき少女と二人で向かい合って話をしていた。
「なあ、お前は和国の姫様だろ」
それに対して少女は困ったように微笑みを浮かべ、肯定した。
「バレちゃいましたか……そうです、私が和国の姫です」
「やはり、そうだったか」
まあ、化け物に攫われる姫様が同時に二人もいるはずが無いよな。
「……和国に戻る気は無いか。 お前の父さん少し気が狂い掛けているんだが」
「申し訳ありません、戻る気は……父様が狂い掛けている?」
「ああ、大事な娘が居なくなってご乱心らしい」
少し脅しみたいになってしまったが、事実だし、一応伝えておいた方が良いからな。
「まあ、此れから幾ら人が死んでもお前の所為では無いから安心してくれ」
「うぅ……そんなの戻るしか選択肢が無いじゃないですか」
……自分の幸せの為に、人を犠牲にするのは中々出来る事じゃないよな。
「帰る方法が分かったら伝える、それまでは好きにしろ」
俺はそう言い残し、その場を後に去った。
「此処って意外と広いんだな……」
この大蛇の体の中と思われる場所は、赤鬼達の集落だけでなく小さな森の様な場所、其れに他の生物達の集まりもあるみたいだ。
「何処か探せば抜け道ぐらい有るだろ……」
そんな気持ちで色々な所を歩き回っていると、横から一人の鳥が急接近してきた。
「お前も居たのか?」
(食われる寸前横に居たじゃない!)
……確かに、何でコイツが此処に! みたいな事を言っていた気がする。
(アンタは私が喋ると嫌がるから、出来るだけ静かにしていたのよ)
「……コイツに詳しいのなら、抜け道が何処にあるのか知らないか?」
(知らないわ、そもそもアイツの腹の中にこんな空間がある事も──)
如何やら有益な情報は彼女も知らない様だ。 ……仕方ない、折れずに地道な努力で脱出経路の発見を頑張ろう。
「それじゃあ、次の道に行くとしよう……」
結局、一日中歩き回ったが抜け道らしきものは一つも見当たらなかった。 なので、一旦赤鬼達の集落へと戻って来た。
「疲れた……」
身体は其処まで疲れていないが、一日を無駄にしたという精神的な疲れが俺の身体を蝕んでいる。
「……あ、ご主人様!」
そう言って、一人の少年が突然俺に向かって抱き着く。
「……ご主人様?」
俺は、突然の見覚えの無い言葉に対して困惑する。 だが、彼は間違いなく俺に対してその言葉を送っている様だ。
「……誰?」
俺が素直にそう聞くと、彼は此方を笑顔で見ながら言った。
「僕だよ! 一年前に助けて貰ったヘビオだよ!」
ヘビオ……あ!
「だから僕、ご主人様に会いたくてあの場所にやって来たんだよ!」
……つまり話を纏めると、彼は祭りを壊滅させた大蛇であり、俺が一年前程に助けた蛇だったのか。
「でも、俺が助けた時は拳よりも小さかったぞ?」
「僕達の種族は急に大きくなるんだ!」
──ということは、祭りを壊滅させたのも、此奴が今まで食べて誘拐した罪も俺の監督責任にならないか?
「……人は殺してないよな?」
「多分してないよ。 する必要ないし!」
……多分か。 ──如何しよう、もうこのままずっとコイツの腹の中で暮らそうかな。
「まあ、そんな訳には行かないし。 取り敢えず出るしかないか」
「出たいのなら、僕に着いてきて!」
そう言って、大蛇であり、俺と契りをいつの間にか交わしていたヘビオが誘導する様に前を歩き始める。
(結局、全部アンタの仕業だったのね……)
俺の頭の上を飛びながら、呆れるような瞳で此方を背中に水晶の付いた赤鳥が見つめてくる。
「……さーせん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます