第57話 赤鬼と姫



 俺は気が付くと、藁のような物が敷き詰められた寝床に転がっていた。 見覚えの無い景色だ、此処は何処だろう?


 「……此処は?」


 「お、目が覚めたのカ?」


 そう言って、俺の顔を覗き込むように一人の……赤鬼が顔を見せる。


 「アンタが助けてくれたのか?」


 「んだ、倒れている人は見過ごせないからナ!」


 そう言って気持ちの良い笑顔を俺に見せた。 ……如何やら、此処は赤鬼達が住処とする集落のような場所らしい。


 「といっても、見つけたのはオイラじゃないがナ!」


 彼がそう言うと俺と同じ黒髪の、一人の少女が扉から顔だけを出して此方を不安そうに見ている。


 如何やら同じ人間の様だ……警戒しているのか此方に近づいて来ないが、話によると倒れていた俺を見つけてくれたらしい。


 「お前が助けてくれたのか?」


 「……」


 彼女はその言葉に反応して、無言で首を上下に振る。


 「そうか、有難う」


 すると今度は顔を赤くして、恥ずかしそうに口元を綻ばせていた。 

 

 「それじゃあ、アンタに此の村を案内するゾ!」


 そう言って彼は歩き出そうとするので、俺は咄嗟に止める。


 「ちょっと待て……俺は直ぐに帰らないといけないんだが」


 それを聞くと、赤鬼の彼は困ったような顔で頬を掻いた。


 「実は、オラ達も此処から如何やって出ればいいのか分からないんだ……」


 「え?」







  ……不幸な事に此処の人達は皆、俺と同じ様に大蛇に呑み込まれてこの世界にやって来たらしい。


 「マジかよ……此れでまた学園欠席になったら問題児処のレベルじゃないぞ──」


 学生時代の大半を行方不明になった生徒って……世界が仰天してしまうな。 それにしても、如何してこうも毎回──


 「た、大変だ、ゴン太が出血多量で死にそうなんだ!」


 そんなことを考えていると、突然焦った声色で仲間を呼ぶ赤鬼の声が聞こえた。 それに呼ばれて、近くに居た赤鬼達が声の出処の家に押し掛ける。


 「如何したんだ──ゴン太! また手を獣に咬まれたのか!」


 俺も騒動の渦中と思われる家を覗いて見ると、如何やら一人の赤鬼が牙で肌を傷つけられて血を流している様だ。 ……此れは酷い、牙が腕を貫通した様な悲惨な傷跡から絶え間なく血が流れている。


 「誰か、誰かコイツを助けてくれ!」


 「──任せてください」

 

 其処に、俺を助けてくれた少女が颯爽と現れ、鞄の中から糸と針を取り出した。 ……彼女、あんなに小さいのに医者か何かなのだろうか?


 「我慢しててくださいね」


 「痛ェ! オラ死ぬ!?」


 (えげつねぇ……)


 少女は怪我人に対して麻酔も打たず……というか驚く程雑にその傷を縫合していく。


 「あばばばばばば……」


 「──これで、終わりました」


 少女は最後にドヤ顔で、酷い縫い目で一応血が止まった彼の腕を眺めて言った。


 「……姫様凄ぇええええ!」


 「まさか、あの出血を一瞬で止めるなんて!」


 ……いやいや、消毒とか色々大事な所もすっ飛ばしてるしあんな処置で──「有り難う御座います、姫様! お蔭で傷も治ってこんなに重い岩を持てるようにッ!」


 ──訳が分かんない。


 「やれやれ、次は怪我をしないで下さいね」


 ……あれって、怪我人の治癒力が異常に高いだけじゃないのか?


 俺は自慢気な顔をしている少女と、それを異常なまでに称える彼らに思わずツッコみたくなる。


 「彼女については……あまり触れないであげて欲しいダ」


 横でずっと一緒に歩いていた赤鬼が、静かにそう言った。


 「彼女は何者なんだ?」


 「彼女はとある国のお姫様で、ずっと窮屈な暮らしをしていたらしい。 だから、此処で自由に暮らし、他人の為に役に立てるのが彼女にとっての幸せなんダ……」


 だから、あの人達は彼女に対してあんな反応を……。



 ……ん? もしかして、彼女がアレックスの探している姫様じゃないのか?

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