感想18『蒼き炎のジャヤシュリー:横暴王子と森の魔女』ナサト様
■こんにちは、天音朝陽です。
腰を据えて、喰らいつき、食材を咀嚼し、これは「毒」ではないと判断し、自分の力で飲み込む。
こういった行為の後に感じる『面白さ』もある。
『蒼き炎のジャヤシュリー:横暴王子と森の魔女』
作者 ナサト様
https://kakuyomu.jp/works/16817330663962563902
★異文化王朝の放つ、豪奢、豪華絢爛
★描写の緻密さのもたらす没入感
★香り立つ色気のもたらすエロス(実際の性的表現はありません)
*感想を述べるうえで、ネタバレがあります
■
ほぼすべての回で第一段落は、第一にお伝えしたい気持ちになります。
『蒼き炎のジャヤシュリー:横暴王子と森の魔女』において第一に伝えたいことを絞るとするとかなり難しいものがありました。
ふたつに絞ります。
1 まず作品(創作物)の感想として、この作品はどうにかして多数の読者に読んでもらいたいというものです。
非常に僭越ですが(あくまで私個人の評価としてですが)完成度が異様に高いんですよね。
『面白い』というのは大事な感覚なのですが、大多数一般人の支持を得ているのは、本当のレベルの高い面白さではなく『簡単で分かりやすい面白さ』であり それはあくまで『面白い』のひとつの分野にすぎません(もちろん、非常にレベルの高い『簡単で分かりやすい面白さ』を持つ作品も存在することもわすれてはなりませんが)。
腰を据えて、喰らいつき、食材を咀嚼し、これは「毒」ではないと判断し自分の力で飲み込む。
こういった行為の後に感じる『面白さ』もある。
どうにかして、このような作品を欲しがっている人の目に留まって欲しいものです。
2 物語(ストーリー)の感想として第一に来るのは、王子ダルシャンのキャラクターが印象として想起されます。これは、完全に私の感想であり一般的なものとは若干の隔たりがあると思います。
こちらの王子ダルシャンの感想は、単純に「なんかスゲーやつだな、野心家で魅力的なキャラだなあ」というものではなく、すごく説明が難しいのですが『ザラついた存在感』という感じです。
熱いとか、深いとか、強そうとか、悪そうとかではなく……、触れたところでこちらには何の害もない、ただし、互いに心を重ね合わせていくうちに何処か自分も痛みを負ってしまう。
そのような魅力的なキャラとして読後の第一印象として浮かび上がってきます。
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ひとつのひとつのシーンを立ち止まって解像度の高いカメラで撮影されたもののように感じます。
世界遺産を解像度の高い、高性能のTVカメラで撮影した『世界遺産』というTV番組が日曜の18時くらいに以前放映されていたのですが(今もあるかはわかりません)、その番組で 仏陀生誕の地を案内されているような錯覚におちいりました。
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第一話、出だしの一文。
【 鹿を追う。美しい毛皮をした雌鹿だ。 】
この一文は、個人的に刺さりました。美しい。
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文章を読み進めていくと、どことなく女性の方が書いたような感性を感じます。
もちろんこれは「男性の私が推測するところの、女性の感性」にすぎません。
(もしくは女性向けの文章として、意識して書かれたのであれば秀逸です)
第一話終盤、王子ダルシャンがジャニを、理由をつけて嫁に取ろうとするシーンなどは読み手の私の感性のなかの女性性がすごく刺激されます
引用します。(ただし、空白行は埋めます)
>>「答えは『許されない』。お前にはその身をもって償ってもらうぞ」
「――そんな」
ダルシャンが身を乗り出し、床に片膝をつく。彼の背は高い。上体には厚く筋肉がついている。小さな家の中でその体が迫り、ジャニは思わず後退ろうとした。けれど腕を掴まれ、阻まれた。(引用 ここまで)
この引用文中、【彼の背は高い。上体には厚く筋肉がついている。】にゾクゾクとしたものを感じます。
ちなみに男性向けにするなれば【】の内部を、迫られているジャニの可憐な様子を描写すれば男性的な感性・男性向けの文章になると思います。
例>「――そんな」
ダルシャン(男)が身を乗り出し、床に片膝をつく。〔ジャニ(女)の細く、小さな体は一気に気圧されてゆく。彼女は思わず後退ろうとした。]けれど腕を掴まれ、阻まれた。
このような部分が、私のいうところの「女性性の強い文章である」という主張の根拠と考えてもらえると助かります。
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つぎに非常に色気を感じる部分がありました。
『色気』というと、一般的には「色気とは、だいたいこういったもの」という認識があると思いますが、細かくみていくと人それぞれの考える色気は、微妙にかわってきます。
今回私が感じた、私なりの色気というのは「ああ、これから男が踏み込んでいくんじゃねえか?」みたいな時に、女性視点ですと「ああ、この人やっぱりくるのね」という時に、期待として感じるゾクゾク感みたいなものです。
色で表現すると黒と赤。
何に踏み込むのか?はあえて説明はしません。
第一話の「ジャニがダルシャン王子の火傷の後に、膏を塗るシーン」と先ほど提示しました「ダルシャン王子が求婚するシーン」
ここには読者として強烈な色気を感じました。
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依頼コメントの返信で「どこがどう印象に残ったか?」というものがありましたのでその部分を書いていきます。
・1話全体を通しては、やはりキャラクターとしてのダルシャン王子が印象にのこりました。この王子がどのようにジャニを利用しようとしているのかが読者としては気になりました。
もちろんその他の文化的背景(田舎と都会の炎に対する価値観の違い)や魔法の登場は面白く読み進めました。一般的な読者さんだと、そちらに興味をもつ人も多いかなと予想します。
・2話につきましては、ジャヤシューリー(=ジャニ)に王宮の侍女がかしずくシーンが印象に残りました。すみません、何故このシーンが一番印象に残ったのかを理屈づけて説明するのが難しいです。
ただ、田舎で、しかも人里はなれて一人くらしていたジャヤシューリーが王宮でこのような扱いをうけるというギャップと、その風景描画・心理描画の緻密さが理由の一つであることは間違いありません。
あと非常に下賤ですが、新婚初夜の色気あるシーンを個人的に勝手に期待しておりまして、それがなくて勝手に落ち込みました。勿論これは作者さんの責任ではまったくありませんので、はい、すみません。
・3話ですね。3話のタイトル「空舞う鳥」から、ご存じかは分かりませんが読前に小野不由美さんの短編「否緒の鳥」の雰囲気を想起しました。
読後ふりかえって共通点として『政治上の権力を誇示するイベント』『鳥を射る』というものがあったものですからナサトさんもひょっとしたら小野不由美さんの短編「否緒の鳥」をご存じかな~と空想したりしました。
この物語ではジャヤシューリーが「鳥を射なかった」シーンが印象にのこりました。たとえ周囲の環境がどう変わろうと名前が変わろうと、彼女は彼女なのだなと思ったものです。
また、このイベントではダルジャンをはじめアラヴィンダの人物像もじわじわと描かれ始めており、創作者の視点としても「王道だな」「上手いなあ」と思いながら読んでおりました。
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最後に
繰り返し申し上げて、完成度の強烈に高い作品という感じです。代表作「十二国記」は読んだことがありませんが、小野不由美さんの世界と同じようなものを感じました。
ナサトさんの別の短編(中編?)作品も読ませていただきましたが、すごく短編にあった文体・作風なのかもしれないように思います。ここは素人ですので、詳しくはわからないのですが、そう感じました。
かなり緻密な作りこみをされていると感じます。ご自分のペースで書き進めて、ぜひ納得のいく物語にして欲しいと切に願います。
では、今日はこのあたりにさせていただきます。ありがとうございました。
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