第4話 犯人は誰?回答は・・・
ある日の、放課後。
西行司先生は、僕と祈杜さんに校長先生が、全ての盗難事件はソンファ姫の霊の仕業としたことを、伝えに来た。
「ミステリーの基本、お化けや怪奇現象の所為は、2回まで!今回は、お化けの所為か~」
「あの、先生、まだミステリー書くつもりですか?」
「そう、私は、世界一のミステリー作家になるのだ」
「あのシャーロックホームズを書いたアーサー・コナン・ドイルのような?」
「誰、それ?」
「え?怪盗ルパンを書いたモーリスルブランとか?」
「誰、それ?」
「あ‥‥‥」
僕と祈杜さんは、あきれて顔を見合わせた。
「僕らは、先生が言われた通り今回の盗難事件の犯人を調べました。教室内のロッカーから装飾品を盗んだのは、クラスのある女子の仕業、しかし、それはある人に強要されたからです。そして、その盗難事件をソンファ姫の仕業のように見せかけそのような、噂を流すようにとも言われたらしいのです」
「誰?それ」
「それは、言えません。けれど、盗難を強要し、ウワサを流すように言ったのは、校長先生です」
「なに、それ?え?ウソ~」
(ボキャブラリー少な。何とかのカワウソ~、としか伝わらない)
「歴史書からすると、というか、東宮院校長が、あっさり、(ソンファ姫の霊のしわざ)としたことが、ドウモ臭いですね」
「ここは、チョット、仕掛けてみますか?」
「何を言ってる?」
「僕の考えでは、ソンファ姫の首飾りを盗んだのは、東宮院校長ではないかと思います」
「何を言ってる?」
「西行司先生、僕達を犯人にしたてたお返し、償いをして頂きたいのですが」
「何を言ってる?」
「え?忘れたんですか。女子の装飾品を盗んだのは、僕と祈杜さんだと皆の前で言いましたよね。何の証拠も根拠もなく。祈杜さんは、そう言う行為は犯罪だと言いましたよね。ミステリー作家になる前に犯罪者にしますよ。僕達は、訴えます。警察ではなく、アナタのおじい様に」
西行司先生は、おじい様のワードに怯えた。
「何を言ってるかは分かりました。何をすれば?」
「しばらくして、ソンファ姫の首飾りのレプリカが手に入りましたら、僕達を校長先生に会わせてください。そして、校長先生が車で急ぎ向かう所を車で僕らを載せて追って欲しいのです」
「良く分んないんだけど、兎に角、君らの言う事を聞く。そして、校長の車を追える車で学校には来る。それでイイか?」
ある日、学校の廊下の隅、人通りの少ない所で、大黒は亜久井さんに声をかけた。
亜久井さんは、悲鳴を上げそうになったので、大黒は、すぐさま土下座をしてみせた。
「亜久井さん、お願いがあるんです。見た事あると思いますが、この写真の首飾り、レプリカ、安い偽物でかまいませんので、造って少しの間、貸していただけませんか?」
亜久井さんは、その写真を暫く眺めて、
「あれ?これって、最近、ソンファ姫の霊に盗まれたとかいう首飾りじゃない?」
「そうなんです。犯人を炙り出す為に、レプリカが必要なんです」
「犯人?ソンファ姫の霊じゃないの?」
「今の所、そう言われてますが、他にも、疑わしい人もいるので」
「あなたじゃないの?」
「いや、僕は女性の装飾品などには縁はないです」
「ふん、アナタ、私を誰だと思って?偽物じゃなく、本物しか造れないわよ」
「あの、造って頂けますか?それ、貸して頂けますか?」
「貸す?あげるわよ。その代わり、この学校の全てにおいて、私はトップでなければならないのに、何時も、数学と科学は、アナタがトップよね。なんとかしてくれる?」
「ハイ!何でも致します」
そして、次は校長の追跡映像を残す準備をする。
朝、朝礼前の教室で、僕は、朝見(あざみ)くんにドローンを貸してくれるよう頼んだ。
「朝見(あざみ)君、あのカメラ付きの超小型ドローン、クワットコプター持ってるよね?しばらく、僕に貸してくれないかな?」
「なんで、お前にそんなこと俺様が言われなきゃなんないんだ!持ってね~し、持っていたとしても、誰がお前なんかに貸すか」
「別に僕は、盗撮する為に使うんじゃなくて、君が谷島さんにあげた物を盗んだ奴を捕まえる為なんだ。けっして女子更衣室とかの盗撮に使うんじゃないから」
「もう一度、大きな声で言うけど」
朝見くんは、
「ちょっと、待て!貸すから」
とカバンの中からクワッドコプターとコントローラーを出して、僕に渡してくれた。そして、
「壊すなよ!それと、俺がコレで何したか、絶対に、誰にも言うなよ」
と付け加え、念を押した。
「うん。分かってる。有難う」
(盗撮ドローン、ゲッツ!)
次の日、僕は、祈杜さんと西行司先生を先頭に校長室に向った。
西行司先生が、ドアをノックし、ドアを開け大黒、祈杜を引き連れ中に入る。
校長先生は、自分の席についていて、手前の応接セットのソファーを僕達に進めてくれた。
僕は、校長先生から借りた、「西行司家と百済王朝」と「東宮院家史」を返却してお礼を言い頭を下げた。
「校長先生、貴重な資料、貸して頂いて有難うございました」
僕は、校長先生に、深々と頭を下げた。
校長先生は、返却し机の上に置かれた歴史書を確認し
「何か参考になりましたか?」
と、僕に問いかけた。
「はい。大変参考になりました。それと」
僕は、ポケットからソンファ姫の首飾り(レプリカ)を取り出して、校長先生に差し出して見せた。
校長先生は、目をむいて驚き、
「キミ!君がなんでコレを」
と言うやいなや僕らを残して、急ぎ慌てて校長室を飛び出した。
校長先生は、駐車場に向い、自分の車に飛び乗り発進させる。
それに続き、西行司先生が、自分の2シータの高級スポーツカーに乗り込む。
大黒は助手席に乗り込んだが、座席と思われる物がなく祈杜さんが乗れない。
そこで祈杜さんは、西行司先生と大黒を睨み付け、
「何よ!この車。中年のオジサンのいやらしい車か?私、乗るとこ無いんですけど?」
と、呶鳴った。
西行司先生が自慢げにスイッチを押して、カブリオレの車の屋根部分を開けオープンカー仕様に変えて、自慢げに祈杜さんを見た。
祈杜さんは、
「何、屋根から入れって?どっちみちセマ~イ!大黒くん、替わんなさいよ」
と更に怒りを露わにする。
西行司先生は、運転席。大黒が助手席。祈杜さんは、未だ車には乗っていない。車には、後ろに狭い申し訳程度のシートしか残っていない。
大黒は、後ろのシートを指さして、
「祈杜さん、申し訳ないんですけれど、僕、ドローンとか操作しなくてはいけないので、後ろで。お願いします」
と手を合わせ、お願いした。祈杜さんは、しぶしぶ、車の後部に乗り込んでくれた。
そこで、西行司先生は、車を猛スピードで発進させて、校長先生の車を追う。
校長先生のお宅は、古風な白い土塀に囲まれた武家屋敷だ。
校長先生は、車を屋敷門前に止め、近代的な門が、自動で開いた。
大黒が、ドローンを取り出し、西行司先生の車の中から空に放つ。
「ドローンで、校長先生を追跡します」
大黒が朝見君から借りた超小型カメラ付ドローン、クワットコプターをコントローラーで操作して校長先生を追跡する。
西行司先生は、
「へぇ~、そんな事、出来るんだ?」
と大黒が操作しているコントローラーの画面を見入っている。
「ミステリーの基本。未来の今はない技術で事件を解決してはならない!と言われているが、こんなの今はあるんだ?うん、うん、使える」
大黒は、ドローンのコントローラーの画面を見ながら、カメラ付きドローンを操作している。そして、それは校長先生の書斎に入った。
校長先生は、屋敷内の自分の書斎に入り部屋の中に設置されている金庫に向う。
ドローンは部屋の隅、天井付近でホバリング待機している。
校長先生は、部屋の金庫を開け、中に何も無いことに驚愕し、叫んだ。
「ソンファ姫の首飾りが、無い!あいつが、盗んだのか?」
そして、慌てて書斎を飛び出し、車で猛スピードを出して学校へ急ぐ。
大黒、祈杜さん、西行司先生は、車を降りて校長先生より先に、校長室に走って向かい走り、先ほど座っていた通りにソファーに座った。
ソファーに座った大黒の前の応接セットのテーブルの上には、ソンファ姫の首飾りが置かれている。
そこへ、校長先生が、荒々しく扉を開け中に入って来た。そして、大黒を指さして、
「キミ!君が、そのソンファ姫の首飾り、盗んだのか」
「え?僕がですか?」
「目の前に有るじゃないか」
「僕に学校の美術展示場のセキュリティーなんて解ける訳ないじゃないですか。怪盗ルパン並みの人じゃないと無理でしょう?」
大黒の返答に、西行司先生は、
「誰、それ?」
「後にしてもらっていいですか?」
西行司先生は、口を開いたまま頷いた。
そんな西行司先生を無視して、校長先生はテーブルの上に置かれている、ソンファ姫の首飾りを指差して、
「目の前にある首飾りが、全てを物語っているではないか。君は、何の為に、どうやってそれを盗んだんだ」
と大黒を叱るように言った。
「僕がこれを何処から盗んだと言われているのですか?」
「ど、ど、何処って」
校長は、大黒の問いかけに動揺した。
大黒は、机の上の首飾りを片手で取り上げて校長に良く見せる様に差し出す。
「これ、イミテーションですよ」
「なに⁉」
校長は、さらに動揺した。
大黒は、畳みかける様に、
「世界最高峰の装飾細工士が製作した物ですし、使われている宝石は本物です。これを展示しても誰もイミテーションとは見抜けないでしょう」
などと、校長先生に自慢げに囁いた。
校長は、首飾りを手にし、マジマジと見つめて、
「君は、何の為にこんなこと」
と、大黒を怒りに満ちた目で見つめた。
「校長先生からお借りした、「東宮院家史」が参考になりました。最初に借りることをお願いした「西行司家と百済王朝」だけでは思いつかなかったでしょう」
校長は、そう言って切り出した大黒を不思議そうな顔で見る。
大黒は、不敵な笑みを浮かべて校長を見て、
「そして、今日、先ほど、犯人の確証を得ました」
そこで、大黒は、校長先生を指さした。
「学校の展示室からソンファ姫の首飾りを盗んだのは、校長先生!アナタですね」
校長先生は、動揺を抑えて大黒に言い返す。
「何を言ってるんだ。君は。何を証拠に」
「ある女子生徒が、人のロッカーから、ネックレスを盗む、というか、取り返そうとしたのを見たアナタは、彼女に、二、三個、女子の装飾品を盗んで、ソンファ姫の霊の仕業と噂を流すように脅したそうですね。彼女から聞きました」
ある日、教室の後ろに有る個人用ローカー前で、一人の女子、谷島さんが、慎重にロッカーからネックレスを取り出し、手に持っていたところに、校長が、近寄り彼女に指示をした。
校長は、大黒に、
「何を言っているんだね。私がそんな事する訳ないだろう」
と、慌てて言い返した。
「皆んなの前で、彼女は言いました」
「何を言っているのだね。そんなのは、噓だ!」
そこで祈杜が止めを刺すかのように静かに強い調子で話を切り出した。
「彼女は泣きながら、告白しました。校長先生に、退学になりたくなければ、誰かのアクセサリー、装飾品を二、三個、盗んで丘の上の休憩廟のテーブルの上に置き、(ソンファ姫の霊の仕業だ)と噂を流せと言われた、と」
しかし、こういう緊張した場面で間の抜けた発言を挟む奴がいる。
西行司先生。
「誰?それ。女子だれ?」
大黒ほか、皆んな、発言を無視する。
「後でいいですか」
校長は、今度は祈杜さんに対して
「噓を言うんじゃない~」
と、怒り心頭の表情を露わに、腹の底から唸った。そこで今度は大黒が話を続けた。
「先ほど、僕は、犯人の確証を得たと言いました」
「うん?」
校長先生は、怪訝な表情をする。
「校長先生は、僕が首飾りを見せた時、突然、席を立たれて自宅の金庫を確認に行かれましたよね」
「自宅になんか帰っておらんよ。あの時は、急にトイレに行きたくなっただけだ」
そこで大黒がクワットコプター(小型ドローン)と、スマホのようなコントローラを校長に見せた。
「実は、これで校長先生を尾行してました」
「たとえ、私が自宅に帰ったとしても、私がソンファ姫の首飾りを盗んだことにはならんだろう?」
「それでは、何故、慌てて、自宅の金庫を確認されたのですか?学校から盗んだソンファ姫の首飾りが、僕が持っていたので慌てて確認に行かれたのですよね」
「なんのことだか」
「自宅の金庫に保管してあったソンファ姫の首飾りが無くなっていた。そこで、僕が盗んだと、急いでココに戻って来られた。そうですよね?」
校長先生は、動揺し身体を震わしている。そして、怒りを露わにし西行司先生に呶鳴ったのだった。
「西行司君、君は生徒をどのように指導しているのだね!」
突然、怒りの矛先になった西行司先生。
西行司先生は、校長先生の恫喝にかなりビビって、
「いや、自然に見守っておりますが」
西行司先生の、その言葉にあきれた校長は怒りを鎮めた。
「そこで、私が学校のソンファ姫の首飾りを盗んで、自宅の金庫に隠したとして、私の自宅の金庫からソンファ姫の首飾りを盗んだのは誰だ?」
「それは、僕らには分かりません。僕らには校長先生の自宅に入り込むことも出来ないですから。それに、金庫なんて開けられませんよ。そのことは、ご自宅の防犯カメラの映像で警察とご相談下さい」
そこで、すかさず西行司先生は、
「怪盗ルパンかも?」
と自慢げに発言した。
大黒と祈杜は、間髪入れず、
「黙って!」
と指導を入れたのだった。しかし、西行司先生の迷走は続く。
「ミステリー。警視庁捜査一課の出番」
大黒と祈杜は、間髪入れず、
「黙って!」
と再度指導を入れた。更にもう一度、念を押す。
「黙って!」
その数日後の夕方、高校のある丘の上の開放的な休憩廟の中にある石のテーブルの上にソンファ姫の首飾りのレプリカが置いて有る。それを囲んで西行司先生、大黒、祈杜さんがイスに座っている。
そこで、西行司先生は、
「まさか、学校のソンファ姫の首飾りを盗んだ犯人が 東宮院校長先生だったとはねぇ」
その言葉に大黒は頷き
「このイミテーションを学校の展示ケースに入れておけばというのも、イヤだったようですね」
「校長は、対外的にもソンファ姫の霊の仕業、ということで収められた」
「日本創生の時代からの恨みですか。東宮院家は西行司家を恨んでいたんでしょうね」
「お~怖い」
西行司先生とともに、大黒、祈杜さんは、身震いする。夕刻となって気温が下がり、寒いのもある。
並ぶように植えられた梅の木(一本)と桜の木(一本)は満開である。
この丘に柔らかな少し寒い風が吹く。
紅い梅の花ビラと薄いピンクの桜の花ビラが壮大に舞う。
祈杜さんは、うっとりとその景色を眺めていた。
梅の木と桜の木の方に向って、首飾りを付けたソンファ姫(東宮院ソナ)と大和黒讃(やまとぐろ さん)の二人が手を取り合って歩いて行く。
「‼」
祈杜さんは、大黒の背後を見たが、そこには、別の百済近衛兵が取憑いていた。
「え⁉え?え?」
と怯える。
不思議そうに大黒は、祈杜さんに問いかけた。
「うん?どうしたの、祈杜さん」
「だれ⁉」
「は?大黒中(おおぐろ あたる)ですけど?」
祈杜さんは、大黒の背後の百済近衛兵と、梅と桜の木に向って行った大和黒讃を交互に指さし、混乱した様子で見る。それから、大黒に向って呟いた、
「ソンファ姫の霊と大和黒讃の霊は、あの梅と桜の木の方に向かって行った。でも、大黒の後には、未だ百済近衛兵がいる‥‥‥」
ある日の学校での数学の試験中。
亜久井さんの後の席で大黒がテスト用紙に回答を書いている。
大黒のテスト回答用紙には、びっしりと回答が書き込まれている。
そして、大黒がテストの回答を書き終え、前の席の亜久井さんの背を指でつつく。 亜久井さんは、後ろに手を回す。その手に大黒は、自分の名前を記載していないテスト回答用紙を渡す。
亜久井さんは、それを素早く取り上げて、自分の名前を書き入れると同時に、自分のテスト回答用紙を大黒に渡す。
大黒が受け取った阿久井さんのテスト回答用紙の回答欄に落書き?が書き込まれている。
へのへのもへじ。
愕然として、大黒は、急いで落書き?を消し、自分の名前を書き込み、回答を書き込んでゆくが、時間切れ。
終わり
大黒 中(おおぐろ あたる) 憑《つ》かれてます 横浜流人 @yokobamart
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