第3話  ロッカーがカギ

 僕は試しに、ユニットごとに左1列目上から3段目のロッカーのカギ穴に僕のカギを入れ廻してみる。全て開錠出来てしまった。

「1ユニット内では、各ロッカーの鍵は違うのに、全ユニットごと、各ロッカーの鍵は同じなんですね」

「キミ、よろこんで女子のロッカーを、覗くんじゃないぞ」

僕のロッカーの場所をユニット的に同じとなる所をみると、僕、石井さん、祈杜さん、得津さん、谷島さんのロッカーのならびとなる。すべて鍵は同じだ、どのロッカーも開け閉め可能。

 僕は、黒板に現在のロッカーの並びを画いてみた。

「石井さんが、得津さんのブレスレットを盗ることは可能ですが、自分のネックレスも一緒に崖の上の休憩廟の石のテーブルの上に置く筈はない」

「得津さんも、石井さんのネックレスを盗ることは可能ですが、その前に無くなったといわれるブレスレットとネックレスも一緒に崖の上の休憩廟の石のテーブルの上に置く筈はない」

「と、言う事は、大黒くん、君だな」

「ちょっと、自分だって容疑者には入いるでしょう?それに、阿久井さんのロッカーを開けてティアラを盗むのことは無理でしょう?」

と、黒板に向って討議している時だ。誰かに見られている気がした。教室の入り口(出口?)外で、誰かが、中を伺い、サッと姿を消した気がした。

 祈杜さんは、何も言わず眉間にシワを寄せて、何者かが姿を晦ました教室の入り口を、ジッと見つめていた。

そこで、教室に石井さんと得津さんが入って来た。

「な~に、勝手にウチラ犯人にしてくれてんのヨ!」

「犯人は、大黒だと、皆、納得しているじゃない」

「いや、待ってくださいよ。僕じゃないですよ。なんで、僕が、みんなの装飾品を盗んで、岩山の上の休憩廟の石のテーブルの上に置く筈ないじゃないですか」

「たしかに!大黒くんの身体能力では、階段を使っても崖の上にはいけない」

 そこに、モットややこしいのが現れた。西行司である。息せき切って教室に入って来た。

「おまえら!また、やってくれたな!」

誰らに向って言っている?

「今、校長先生が、警察に電話している!西行司家所有美術品の、学園内で美術歴史物として展示されているソンファ姫の首飾りが、盗まれた!ここを動くな、ミステリー」

「は?ミステリー?」

「ミステリーの基本!最初に死体を転がせ。犯人は、物語の最初から何気に登場している」

「え?ミステリーの基本!死体?」

「何処かに、死体は転がされている。犯人は、何気に最初から登場している。盗難時に遅刻した奴!お前らだ!」

と、祈杜さんと僕は指さされた。ぽか~ん、と口まで開いてあきれている石井さんと得津さん。

 騒がしいのが去った後、僕と祈杜さんは、討議を始めた。

「あの、何処かに死体があるんでしょうかネ?祈杜さん」

「はあ~、死体は分からないけど、死人なら君の後に居る」

「ああ、百済王国のイケメン近衛兵ですか?」

 そこに石井さんが食いついた。

「え?王国のイケメン近衛兵?」

「いるの?」

「どんなお姿?ご容姿?」

「ファンタジー系ゲームや漫画の主人公級」

と僕はノリで適当に答えた。

「え、ウソ。大黒、早く入れ替わって」

「お前、早く消えろ。近衛兵さま、お出になって」

「あの~、良く分らないのですが、祈杜さんによると、百済大国の近衛兵らしきが、僕にとり憑いているらしいんで。僕には何も分からないんです。姿を見たことも無ければ、話をしたこともないんです。その、入れ替わるとか出来ないんですけど」

「なによ!あんたなんか、見てたってしょうがないでしょう。早く、イケメンさん出しなさいヨ」

「いや、そう言われても、とり憑かれてるもの、どうやってお出になって頂くのか?も分かりません」

「ぐちゃぐちゃ、ウルさいな。早くお前が消えろ!」

「そんな事、言われても。西行司先生が此処で待ってろって」

「あ~、あれ?ウチラも待ってなきゃいけないのか?」

「ここに居た皆なら、うちら教室に入る前、教室の中、覗いてた谷島も残れヨって」

「え⁉谷島さん?」

「ああ、うちらが此処に入る前、谷島が教室の中、覗いてた」

「谷島さんか~」

と、祈杜さんが天井の一点を見つめながら呟いた。その時、西行司先生と、東宮院校長が教室に入って来た。

「お前らは、今日は帰って良いぞ。校長先生は、ソンファ姫の霊の仕業とされているから。明日には崖の上の休憩廟の石のテーブルの上に現れるのでは?とのことなので私がそれまで崖の上の休憩廟を見張っている」

 西行司先生がそう言い残して(いままで他に何だかんだ言ってたような)校長先生と職員室の方に去って行った。

「さ~てと。イケメン近衛兵も現れないんじゃ、うちらは帰ろうかナ」

そこで石井さんは、黒板に書かれたロッカーの配置図を見て、

「谷島じゃん。私のロッカーも、得津のロッカーも開けられるの」

「それに、唯一無二の親友の丸山さんのカギを借りるか、どうかすれば、阿久井さんのロッカーも開けられる」

「ああ、そうか」

と呟いた時に、谷島さんが教室に入って来た。そして、深々と頭を下げた。

「申し訳ないです。ブレスレットもネックレスもティアラも盗んで、丘の上の休憩廟にある石のテーブルに置いたのは私です」

と、涙声でもう一度深々と頭を下げるのだった。そして、小声で皆に語り始めた。

「私、朝見くんにプレゼントされたブレスレットを売り飛ばされるのに罪悪感が有ったの。だから、得津さんのロッカーからブレスレットを取り返した。そこを校長先生に見られ、退学になりたくなければ、もっと女子の装飾品を盗難するよう指示され脅されていたの。

それで、罪悪感の少ない石井さんのネックレスを盗んだの。どうせ得津さんから奪いとったお金で買ったネックレスを盗んだ。そして第三の事件の、亜久井礼奈さんのティアラは、ロッカーが上の段にある友人の丸山さんから鍵を預かり盗難しました。そして、校長に言われた通りに、崖の上の休憩廟のテーブルの上に置いて来た」

 石井さんは、ふてくされて呟いて下を向く。

「何、それ?私、悪もんじゃん」

(イヤ、充分悪者ですけど‥‥‥)

谷島さんは、頭を下げていた顔を恐る恐る上げてハッキリとした口調で言った。

「でも、信じて欲しいんです。ソンファ姫の首飾りを盗んだのは私ではありません。だから、皆に本当のことを言おうと、来ました」

 ソンファ姫の首飾りは、金細工の中央に鶉の玉子大の赤サンゴが飾られ、その周囲に小豆大の宝石が散りばめられている美しく豪勢な物。

「うん、確かにソンファ姫の首飾りは、盗難防止が厳重な展示場のクリアなガラスケースに入れられている。セキュリティー解除の仕方を知らない素人が開けられるものではない」

と祈杜さんは腕組みをしていた片手で大きな眼鏡を外して深刻に考え始めた。

(え⁉可愛い????)

 祈杜さんは、急に僕を見つめ、

「え?何か言った?」

と言って、僕の方を凝視?(睨み付ける)して、その後、驚き、目を見開いた。

「だれ⁉」

そう言われた僕は、

「は?大黒ですけど」

と答えたが、彼女に、僕は眼中になく僕の背後を凝視している。

「あなたは、大和黒讃(やまとぐろ さん)。え?大黒くんの先祖?」

祈杜さんと、僕の背後の百済の国の近衛兵さんは、会話をしているらしい。

「密かに、倭軍艦隊の軍艦に忍び込んで、百済錦江(くだらきんこう)、白村江(はくすきのえ)に着くと別小舟で上陸し、百済の城に、百済近衛兵の恰好をして百済後宮に忍び込んだ。そして、恋人であり、百済皇姫になった時に首飾りをあなたに託したソンファ姫(東宮院ソナ)を助け出したのですね」

そこで、祈杜さんは具合が悪くなったようだった。

「う~ん、霊との会話には体力の限界がありそう‥‥‥」

冷や汗をかいてている祈杜さんは、もう一度、僕に向合った。正確には、僕の背後の人にだけれど。そして、苦しそうに会話をしている。

「百済皇族と財産を日本に持ち帰ろうと日本出陣前から計画し、一緒に上陸した、西行司宿祢が岩場に隠してあった数隻の船で百済皇族を避難させたのですね。いや、まだ、私は大丈夫ですけど」

祈杜さんは、大きく息をして一息ついた。

「私の体調の事が心配で、会話を止められた。ソンファ姫の霊は自分の近くにはいない。西行司家にも東宮院家にも、百済王族フ家に至っては断絶、ソンファ姫の霊は憑りつき潜むほどの人物がいなかったらしい。自分は、今でも、イヤな体に憑りついてソンファ姫の霊を探し続けている。ここまで話せば、私と大黒くんが解決できるだろう?と」

「イヤな、イヤな体に憑りついて?」

 僕は、校長から借りた、「西行司家と百済王朝」と東宮院家史と学校の図書館に有った歴史本を読み漁った記憶をたどった。


 日本の飛鳥時代、西暦六六十年代、千年以上前の日本、倭の国、大和朝廷の時代。

 王族と関わっていた朝廷内の西行司家は、帝の命により親族を、当時、朝鮮半島の大国、百済の王朝から人質として日本に住んでいた百済の第二王子に妻を差し出さなければならなかった。しかしながら、西行司家筋に適当な年齢の女子がいなかった。

そこで西行司家は、母型親戚筋、東宮院家に百済王家であるフ家に嫁を出す様、頼み込んだ。当時、主家である西行司家に逆らえない立場にあった東宮院家は、長女ソナ(十六)を輿入れさせることになったのだ。当時、東宮院家長女のソナは、西行司家守護隊長の息子、大和黒讃(やまとぐろ さん)、と恋仲にあった。しかし帝の命により大和黒讃とその父親である西行司家守護隊長は、西国警備隊として、遙か西の福岡の城(き)に防人(さきもり)として配置させられたのだ。

 それから、百済は唐と新羅の連合により滅亡させられ、百済の現王室が滅んだので、百済の復興運動ふっこううんどうを開始していた者たちは、倭国わこくに対し、人質として倭国に滞在している百済の第二王子の返還と百済復興の援軍を要請してきたのだった。

 こうして、百済の第二王子は朝鮮半島の百済の国に帰ることになり、東宮院ソナは、百済皇女ソンファ姫として同行することになった。


倭軍は、前線基地が置かれていた九州の筑紫(福岡県)から百済第二王子の護送をした。

(その地で、大和黒讃と東宮院ソナ、百済皇女ソンファ姫は会ったのではないか?)

それから、唐・新羅の連合軍との戦いで、日本は白村江(はくすきのえ)の戦いに大敗し、壊滅寸前の状態で敗走し日本に帰ってくることになってしまう。

 しかし、壊滅的な打撃をこうむった倭国軍、敗走となったが、壊滅状態なのに、百済の皇族、貴族など多数を救出して、日本に連れ帰ったといわれている。

密かに、倭軍艦隊の軍艦に忍び込んでいた大和黒讃は、百済後宮に忍び込み、ソンファ姫(東宮院ソナ)を助け出した。

「西行司家と百済王朝」には、西行司宿祢(さいぎょうじ すくね)が数隻の船で、百済皇族を乗船させ避難させた。倭軍は、百済皇族を救い出し、倭国に避難させる。敗北の中、この脱出作戦を成功させた西行司宿祢は、百済皇族の面倒をみるよう朝廷から、広大な所領と宮、屋敷を拝聴した。と記載されていた。

 東宮院家史には、東宮院親族の大和黒讃は、百済皇族を救出するも、日本の大和には戻って来ていない、と記載されていたのだった。


 僕は、祈杜さんに、

「西行司宿祢に何か、ありますね?」

「前の調査で、君は大和黒讃が百済の白村江の海岸まで、ソンファ姫と百済皇族を連れて来た時、西行司宿祢が、彼を射殺したと言っていたね?」

「あくまでも、資料には記載されてはいない、僕の想像ですけれど」

 祈杜さんは、暫く考えを巡らせ、

「西行司宿祢が、大和黒讃を射殺し、ソンファ姫が讃に授けた首飾りを奪い取った」

と呟いた。

「それが、真実。西行司宿祢は、百済皇族の財宝を全て手に入れ、朝廷から、広大な所領と宮など豪奢な屋敷を頂き、膨大な富を持つ西行司一族として今日まで続いている」

「ちょいちょい、西行司一族って、あの西行司のこと?あんなポンコツ?でも、坊ちゃんには違いない」

「今頃、丘の上の休憩廟にソンファ姫が現れるの待ってんじゃない。それに、大黒に憑りついていた百済近衛兵風の大和黒讃に殺されないの?」

「う~ん、殺されても仕方ないか」

「祖先の因果もあるけど、今の世の中で一番いらない奴でもあるし」


 徹夜で丘の上の休憩廟を見張っていた西行司先生。百済王朝のソンファ姫の霊は、現れなかったらしいが、悍ましき亡霊、幽霊、怪物に悩まされたらしい。たぶん、妄想だと思われるが‥‥‥

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