第2話 歴史書が教えてくれたこと
僕、大黒は、校長先生から借りた、その歴史書を貪るように読んだ。一行も見落としの無いように。漢和辞典も古字古文書用語辞典も必須だった。
「こんな文字や文、意味分かんない」
とはいうモノの西行司先生に丁寧に易しく説明出来るように読み漁った。
西暦六六〇年
そのころの
朝鮮半島には、百済(くだら)、高句麗(こうくり)、新羅(しらぎ)の三国がありました。日本と古くから交流があったのは、大国の百済、高句麗でした。新羅は、他の二国に
当時の
当時の大和朝廷の
東宮院家から百済王子の妃が選ばれることになったのは、当時の倭国には大王家の女子を海外に嫁がせるという発想はなく、西行司、東宮院の両家は皇室の親族であり、本拠地である大和国に多くの神社を祭る特別な一族でもあったので、いわば、天皇家の皇女に準ずる存在であったわけである。
西行司家は、帝の命により親族を朝鮮百済の第二王子の妻に差し出さなければならなかった。しかしながら、西行司家筋に適当な年齢の女子がいなかった。そして、ここからは「西行司家と百済王朝史」とは別本の「東宮院史書」から次の事が読み取れる。
西行司家は、母型親戚筋、東宮院家に百済王であるフ家に嫁を出す様、頼み込んだのであった。当時、主家である西行司家に逆らえない立場にあった東宮院家から長女ソナ(十六)を輿入れさせることになったのだ。当時、東宮院家長女のソナは、西行司家守護隊長の息子と恋仲にあった。西行司家としては、守護隊長の息子と東宮院の娘の関係を知っており目障りな者、後の災いとして、帝の命により西行司家守護隊長とその息子を西国警備隊として、遙か西の福岡の城(き)に防人(さきもり)として配置しさせたのだ。
しかし、恋焦がれる者達には、その時は廻って来るものである。良きにしろ悪しきにしろ。
百済王家、フ家に嫁いだ東宮院ソナは、百済皇女ソンファ姫と呼ばれるようになった。
僕は、図書室で東アジアの歴史書も読み漁った。どんどん興味が湧いて来たからだ。
なぜか?他の本のようには疲れを覚えない。祈杜さんに言われたように憑かれているからだろうか?
その後、朝鮮半島は
また、
このような
唐は、高句麗と百済と対立していたため、朝鮮半島の第三国、新羅を支援することにして同盟を結びます。唐は、新羅と連合して、ついには百済を滅亡させたのでした。
この朝鮮半島と大陸中国の情勢は、大化の改新の
唐が、倭国、日本から遠い朝鮮半島の
百済は唐と新羅の連合により滅亡させられましたが、百済の現王室が滅んだのであって、百済には、優秀なリーダー格の人物が残っていました。彼らは、要塞である周留城(するじょう)などを拠点に、唐と新羅の連合と充分に戦っていたのです。
それでも、百済の
第二王子の返還の要請というのは、百済の義慈王(ぎじおう)が家族とともに唐の首都の長安に送られ、拘束され、その後病死し、百済の王家の後継者がいなかったからでした。そのうえ、実は後継者の百済第一王子は、唐に投獄された後に、唐に仕官してしまっていたのでした。
こうして、百済の第二王子は朝鮮半島の百済の国に帰ることになりました。東宮院ソナは、百済皇女ソンファ姫として同行することになったのです。
西暦六六二年
大和朝廷は、百済第二王子を護送するため、朝鮮半島へ派兵した。その翌年さらに百済救援の大軍を派遣したのです。大和朝廷軍の大船団は、朝鮮の大河・錦江の河口付近の白村江を目指します。そこが、新羅と唐の連合軍と、激突する場所となるのでした。
日本、倭国、大和朝廷の斉明天皇(さいめいてんのう 女王)と、その息子、中大兄皇子(なかのおうえのみこ)は、百済に援軍を送ることを決意。大和朝廷は、昔から付き合いの深い百済を救うため、百済復興軍の援軍に向かうのでした。
九州北の前線基地へ出陣する際には、額田王(ぬかたのおおきみ)によって斉明天皇(さいめいてんのう 女王)の代理として、大和朝廷軍の兵士たちに向けて詩が詠まれました。
熟田津(にぎたつ)に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
というものでした。
さあ行こう!という
日本から朝鮮百済に出発する百済皇族は、朝鮮半島に渡る前、福岡の城(き)に宿泊することとなりました。ここには、東宮院ソナと恋仲であった西行司家守護隊長の息子、大和黒 讃(やまとぐろ さん)が、この城の防人の長となっておりました。 武勇と智に優れ、兵達から尊敬を集めていたのです。それを僻む輩がここに居た。この城に大和黒讃と一緒に赴任した時は、大和黒讃よりも家柄により地位は高かったのですが、そのワガママな性格と横暴な振る舞いによって、あッと言う間に大和黒讃とは地位が逆転してしまっていた西行司 宿祢(さいぎょうじ すくね)です。
その夜、城の守備兵を除く皆が寝静まった頃、大和黒讃は、東宮院ソナの部屋を訊ね、彼女と会った。恋焦がれ強く抱きしめ合う二人を物陰から苦々しく睨み付ける者が居た。西行司宿祢だ。
しばらくして東宮院ソナこと百済皇女ソンファ姫は、そっと静かに大和黒讃から体を離した。
「私は、アナタが側に居ない時に、そのうち、アナタを恋焦がれることは無くなるのでしょうか。私のアナタへの思いは、これから後には消えて行くのでしょうか。私はアナタを、アナタは私の事を忘れてゆくのでしょうか。忘れなければならない思いであれば、アナタの胸の奥に私の想いを串刺しにして、私は、アナタを忘れたい。そんな私の想い出としてこれを受け取って頂けますか?」
ソンファ姫は、自らの首に飾られていた装飾品を外し、大和黒讃に手渡した。金細工の中央には鶉の玉子大の赤サンゴが飾られ、その周囲に小豆大の宝石が散りばめられている。
「これを貴女と思い、私は一生、離すことはない。それでは姫様、お気をつけて」
と、ソンファ姫を振り返ることはせず、一目散に宿舎に帰って行ったのである。
ここで不思議が一つ。
ソンファ姫の首飾りが、なぜ?西行司家所有美術品として、西行司学園の高校(高等部)の美術歴史展示物として有るのか?である。
元の所有者は、東宮院家出身のソンファ姫。それを本人から愛の証として頂いたのは、大和黒讃、元西行寺家守護隊長の息子(西国警備隊として九州に、飛ばされた)である。
「西行司家と百済王朝史」と「東宮院史書」からだけでは、読み解けない。歴史書を読み込みながら更に二冊を読み込んでみることにした。どこかに、ヒントが隠れている気がしたのだ。
「西行司家と百済王朝史」には、西行司一族より百済王妃を出し、その百済王妃ソンファ姫の首飾りが代々当家の家宝として伝わっていると記載されている。
「東宮院史書」には、帝の命により西行司一族から百済王室に姫を出すこととなったが、なかなか相応しい女性が西行司家にはいなかった。そこで西行司家は、親戚一族である東宮院家から姫として長女 ソナを出すこととした。とある。
もっとも百済王妃として相応しい女性、ソナには当時、誰もが羨む様な恋仲がいた。
そして、ここからは「西行司家と百済王朝史」とは別本の「東宮院史書」から読み取る。
西行司家は、母方親戚筋、東宮院家に百済王であるフ家に嫁を出す様、頼み込んできた。当時、主家である西行司家に逆らえない立場にあった東宮院家は、長女ソナ(十六)を輿入れさせることになったのだ。当時、東宮院家長女のソナは、西行司家守護隊長の息子と恋仲にあったが、西行司家としては、守護隊隊長と東宮院の娘の関係は知っており、目障りな者、後の災いする者として、帝の命により西行司家守護隊隊長とその息子を西国警備隊として、遙か西の福岡の城(き)に防人(さきもり)として配置したのだった。
これらのことが記載からは読み取れても、西国警備隊の大和黒讃の所持したソンファ姫の首飾りがなぜ?西行司家に渡ったのか?が分からない。
西行司家守護隊長の大和黒家は、東宮院家とは親戚筋である。僕は、大和黒讃と同い年の従兄弟、親戚であり、大和黒讃とともに西国警備隊として九州に渡った西行司宿祢がカギになるのではないかと考えた。が、何の答えも出ないまま、僕は祈杜さんに、状況を説明した。
「女子アクセサリー盗難事件がソンファ姫の亡霊の仕業というには、なんの説明にもならないが、君の背後にとり憑いているのが、大和黒讃だということは分かった」
「え?」
「その彼が、自分を殺してソンファ姫の首飾りを奪ったのは、西行司宿祢だろうと」
「え?」
僕は背後を窺ったが、何も見えない。
百済王族一行の朝鮮半島への船出の時が来た。出航の港では、大和朝廷の護衛艦の艦隊長が、百済皇子、皇女の前に現れ、挨拶をした。この頃から、ソンファ姫は、辺りをキョロキョロと眺め誰かを探している様子だ。港に居並ぶ倭の軍船の上、そして周囲を警護する防人たち。しかしながら探している何かは見つからないようだった。
大和朝廷の護衛艦の艦隊長は、百済皇族たちをそれぞれの船に案内した。そして出航開始を大きな声で皆に命じ始めた。
なぜに、倭軍は、百済救援の大軍の派遣が、百済第二王子の護送をした、その翌年にしたのか。
斉明天皇が大和からの出兵の疲れからか、百済出兵の前線基地が置かれていた九州の筑紫(福岡県)の朝倉宮で急死されたのでした。倭国軍の船出は
いきなり総大将が死んだ倭国軍。
士気は下がり、やる気もなくなっていたようです。
唐・新羅の連合軍との戦い、日本は白村江の戦いに大敗し、壊滅寸前の状態で敗走して日本に帰ってくることになってしまうのでした。
白村江の海戦は、日本軍、倭軍の劣勢で口火がきられた。
最初から、唐の罠、小型船舶を使用した量的優位の挟み撃ちにあった倭軍。
倭国・百済連合軍は
これで百済復興勢力(くだらふっこうせいりょく)は
しかし、壊滅的な打撃をこうむった倭国軍、敗走となったのですが、不思議な記述をしている歴史書もあります。
軍船など壊滅状態なのに、百済の皇族、貴族など多数を救出して、日本に連れ帰ったというのです。
百済王朝滅亡時,3000人の官女が投身したといわれ、日本に人質としていた百済の第二皇子は、百済最後の皇帝となったのでした。
密かに、倭軍艦隊の軍艦に忍び込んでいた大和黒讃は、百済錦江、白村江に着くとなった時、別小舟で上陸しました。そして百済後宮に忍び込み、ソンファ姫(東宮院ソナ)を助け出したのでした。それを、後を付けて見ていた西行司宿祢は、遠く背後から讃を射殺しました。自分は、ソンファ姫を含め、百済皇族と財産を日本に持ち帰ろうと日本出陣前から計画していたのです。敗戦濃厚なのをみて、西行司宿祢は数隻の船を、岩場に隠し、それへ百済皇族を乗船させ避難させたのです。
倭軍は、百済皇族を救い出し、倭国に避難させる。敗北の中、この脱出作戦を成功させた西行司宿祢は、百済皇族の面倒をみるよう朝廷から、広大な所領と宮、屋敷を拝聴した。と「西行司家と百済王朝」には記載されていた。
東宮院家史には、東宮院親族の大和黒讃は、百済皇族を救出するも、日本の大和には戻ってこなかった、と記載されている。東宮院家は西行司家の配下で百済皇室の面倒をみさせられたが、百済皇室および、大和朝廷からの財は、全て西行司家が握ったのであった。とも記載されていた。
僕は、ソンファ姫と百済について調べてメモを取った手帳を、教室の後ろにある自分のロッカーに収めようと、上着のポケットから出した、自分のロッカーのカギでロッカーを開けた。
「この変態とり憑かれヤロウ!なんで私のロッカー開けてんだ!」
と祈杜さんの怒鳴り声がした。
「へ?僕のロッカーですけど‥‥‥」
とロッカーの中を覗いてた。可愛らしいキャラクター柄のポーチの他、オドロオドロしい柄の手帳や御札まであった。
「え?あれ?」
明らかに祈杜さんのロッカーであろうことは分かった。僕の悪ガキどもにいたずら書きされた持ち物はない。
手に握っている、明らかに僕のロッカーのカギで、開けた祈杜さんのロッカーであろう扉を閉めた。
閉まった⁉僕のロッカーのカギで祈杜さんのロッカーは、開け閉め出来た‥‥‥
「この前、君のロッカーの有るユニットは、男子ばかりなので左に移動させられただろ?左端に!」
僕は、左端のロッカーに、見慣れた自分の名前を見つけカギを入れ廻した。
そのロッカーは開いた⁉中には、誰かにいたずら書きされた僕の持ち物がワンサカと有る。明らかに僕のロッカーである。
「え?あれ?」
教室のスチールロッカーは、縦4段の鍵付きボックスが横2列になった物が
1ユニットになっている。それを横並びにしている。
つい先日までは、大黒のロッカーは、左から3ユニット目の1列、3段目にあった。 全体的には左から(2,4)5列目の上から3段目であった。ところが、ユニットごと左端に移動されたため一番左の3段目になってしまったのだ。順送りで、今5列目の上から3段目は、祈杜さんのロッカーだ。
〇元のロッカーの並び □は、ロッカーを表します。
亜久井 □ □ □ □ □ 丸 山 □ □ □
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
石 井 □ 祈 杜 □ 大 黒 □ 得 津 □ 谷 島 □
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
〇現在の並び
□ □ 亜久井 □ □ □ 丸 山 □ □ □
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
大 黒 □ 石 井 □ 祈 杜 □ 得 津 □ 谷 島 □
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「1ユニット内では、各ロッカーの鍵は違うのに、全ユニットごと、各ロッカ
ーの鍵は同じなんですね」
と言うと、祈杜さんは、
「キミ、よろこんで女子のロッカーを、覗くんじゃないぞ」
とくぎを刺した。
(僕のロッカーの場所とユニット的に同じになる所は、僕、石井さん、祈杜さ
ん、得津さん、谷島さんのロッカー。すべて鍵は同じだ、どのロッカーも開け
閉め可能なんだ)
大黒は、黒板に現在のロッカーの並びを画いてみた。
「石井さんが、得津さんのブレスレットを盗ることは可能ですが、自分のネッ
クレスも一緒に崖の上の休憩廟の石のテーブルの上に置く筈はない」
祈杜さんは「うん」と頷き納得。
「得津さんも、石井さんネックレスを盗ることは可能ですが、その前に無くな
ったといわれるブレスレットと一緒に崖の上の休憩廟の石のテーブルの上に置
く筈はない」
そこで、祈杜さんは、
「と、言う事は、大黒くん、犯人は君だな」
「ちょっと、祈杜さん。自分だって容疑者に入っているでしょう?それに、僕
は、亜久井さんのロッカーを開けてティアラを盗むのことは無理でしょう?」
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