Happy Halloween 2023

平 遊

誰?

**********


「どうして?どうしてお家で飼っちゃいけないの?」

「この子にとって、お家で飼うよりも森に戻してあげた方が幸せなのよ」

「幸せ?」

「そう。きっと、お母さんが森で待っているはず。アユミだって、お母さんとはぐれてしまったら、はやくお母さんに会いたいって思うでしょう?」

「うん……」

「だから、足の怪我が治ったら、森に返してあげましょうね。お母さんの所へ」

「うん……」


**********


 2023年、ハロウィン。

 アユミの住むここ田舎町にもハロウィンの仮装が浸透し始め、アユミも小学校のお友達のミキちゃんと一緒に仮装して、近所のお家を回って歩いていました。


「こんにちは、おばあちゃん。トリック オア トリート?」

「はいはい、よく来たねぇ。ほら、お菓子だよ」


 小さな頃から顔見知りのご近所のおばあちゃんも、アユミたちに快くお菓子を差し出してくれます。


「アユミちゃん、その衣装可愛いね!プ○キュアみたい!」

「ありがとう!お母さんが作ってくれたんだ。ミキちゃんの衣装も可愛いね!魔女の○急便みたいで、頭のリボンも可愛い!」

「ふふっ、ありがとう!うちもお母さんが作ってくれたの。あっ、頭のリボンはね、お父さんが結んでくれたんだよ」


 お話しながらお家を回っていると、突然アユミ達の前にひとりの男の子が立ちはだかりました。ここらでは見かけない男の子です。もちろん、小学校のお友達でもありません。


「えっと……誰?」


 アユミの問いかけにも黙ったまま、男の子はじっとアユミを見ています。

 黄色のトレーナーに黒の半ズボン、白いスニーカーを履いたその男の子は、頭には大きな黄色の耳、頬にはピンと伸びたヒゲ、そしてお尻にはフサフサとした尻尾が付いていました。


「キミ、キツネの仮装しているの?」


 ミキちゃんの言葉に、男の子は少しだけ首を傾げてチラリとミキちゃんを見たものの、またすぐにアユミの方を見ます。


「私に、何か用?」


 アユミがそう言うと、男の子はコクコクと小さく頷きました。

 仕方なくアユミが男の子の側に近づくと、男の子はどこから出したのか、手提げかばんくらいの大きさの袋をサッとアユミの前に差し出しました。


「えっ?これ……くれるの?」


 男の子は再びコクコクと頷きます。

 恐る恐る受け取ったアユミが中を覗き込むと……


「わぁ、すごい!」


 中にはどんぐりなどの木の実や柿などのフルーツがたくさん入っていました。


「ありが……あれっ?」


 お礼を言おうとアユミが前を向いた時には、男の子の姿はもうそこにはありません。


「アユミちゃん、あれっ!」


 ミキちゃんが目をまんまるにして指をさした先に、小さなキツネが走り去って行く姿が見えました。


「あの男の子、キツネだったんだよ!だって私見たもん、男の子がキツネになる所!」


 ミキちゃんは興奮しているように目を輝かせてそう言いました。

 アユミはその時、思い出しました。

 足を怪我した子ギツネを助けて、お母さんと一緒に動物病院へ連れて行き、怪我が治るまでお家で手当てをしてあげたことを。


「お礼、しにきたのかな」


 もう、キツネの姿は見えません。きっと森に帰ったのだとアユミは思いました。


「ちゃんと、お母さんに会えたんだね。怪我も治って良かったね。お礼、ありがとうね、キツネくん。ハッピー・ハロウィン!」


【終】

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Happy Halloween 2023 平 遊 @taira_yuu

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