第5話 周辺の様子

「え~~~~と、なになに……?」


 手持ちの食料をチェックする弥生。

 テーブルの上には食材として、


 兎モドキ肉、狸モドキ肉、鮎モドキ、岩魚モドキ、ハト的な鳥。

 里芋、さつまいも、茄子、大根、ほうれん草、葡萄、栗、山菜類(きのこ含む)、山の果物(野いちご、あけび等)。


 調味料として、

 岩塩。


 香辛料として、

 紫蘇しそ茗荷みょうが、三つ葉、唐辛子、山椒さんしょう、胡椒。

 が、分けて並べられていた。


「この周辺で収穫できる『おいしい食材』です。『おいしくない食材』も入れればまだまだ増えますが、虫的なモノとか……」

「いらんわ、泣くぞ?」

「……昔はそれらも食べておられたじゃないですか?」


 三期前は縄文時代に生きていた。

 その頃はたしかに虫も食ったが……まわりがそうだったので疑問に思わなかっただけ。


「……いまはもう贅沢を覚えたから。彭侯ほうこうもそのつもりで甘やかすように」

「やれやれ……で、ございます」


「う~~~~ん……こうしてみるとやっぱり全然足りないわね。料理の『さしすせそ』が『し』しかないじゃない」

「料理の『さしすせそ』……砂糖、塩、酢、醤油、味噌のことですね。しかし甘味は葡萄で、酸味は野いちごで表現しているつもりですが?」

「上白糖のクセのない甘みには勝てないわよ。それに私、穀物酢が好きなのよ。あのガツンとした酸味が好きなのよね~~」

「ふむ……となるとお米が必要となりますね」


 その言葉を聞いてハッと顔をあげる弥生。


「――――米っ!!」

「びっくりした」

「米よ!! 米米!! お米がないとだめじゃない!! そうだわ、わ~~~~私どうしていままで気づかなかったんだろう!??」


「お酒が葡萄酒ワインでしたからね。あまりお米との相性はよくありませんから……」

「でもお酒よお酒。日本酒よ。私日本酒大好きだから!! タレ味の焼き鳥で日本酒とかもう……もうもう……それだけでもう涎に溺れそうだわ……ぶくぶく……」


「わかりました。では米と大豆を入手する。ということを明日の目標としましょうか?」

「あんた育ててくれてなかったの? 葡萄みたいにさ」

「弥生様はとにかくお酒がお好きでしょう? なので一番簡単にできて絶対おいし葡萄酒ワインを大量生産できるように、私の手が届く範囲全てを葡萄畑にしたのですよ」


 彭侯は弥生から3000メートルほど離れると実態を保てなくなる。

 そうなると思念だけの存在『精神生命体』になり、実態がある時に使える能力のほとんどが失われてしまう。


「なので、それ以外の作物は範囲外に探しに行かねばなりません。もちろん弥生様にご足労願うかたちになります」

「むむむぅ……」


 基本、出不精の弥生。

 いたれり尽くせりのこの小屋に、できれば一生引き籠もっていたいが、コトがメシの問題となるとそうも言っていられない。


「……しょうがないなぁ……気が進まないけど行ってみますか」

「はい。では、よろしくお願いします」





 弥生は背中から龍の翼を広げると、彭侯を背負って飛び立った。

 空に上がると周辺の地形が一面に見渡せる。

 はじめに見た時は余裕がなかったが、あらためて観察すると地形が記憶とずいぶん食い違っていることに気がついた。


「あれ、あんなところに島があったっけ?」


 北西を指さして首を傾げる弥生。

 日本海の真ん中に、大陸と見間違えるほどの大きな島がかすんで見えた。


「ああ……あれは『うず』と呼ばれる新島ですよ。……1000年の間いろいろありまして、簡単に言えば地球の北と南が極端に寒くなった影響で海面が下がったんですよ。加えて地殻変動やら大地震が起きて、消えた土地もあれば浮かび上がった土地もあります。あの島もその一つですね」


「へ~~~~え……」


「ちなみに本土と北海道と樺太とユーラシア大陸(全て旧名)も繋がっていますので生態系も入り乱れております」

「げ、そうなの!? ……ま、まぁ……兎モドキとか見たし……てか食ったし、まぁいいか。あと気になるのはアレかなぁ……あの遠くの鳥さん?」


 指差す先には、あきらかにオカシイ大きさの鳥が飛んでいた。

 いや、鳥というよりはプテラノドン? 3メートルほどの体長はありそうだ。


「あれはコヤモリですね。コウモリとヤモリが合体してやる気を出したニクい奴です。凶暴ですが、食用になるみたいですよ。狩りますか?」

「……いや、いい。また今度……」


 見た目がちょっとグロい。おいしくなさそう。


 眼下には根城としていた野坂岳と、その周辺の葡萄畑が見下ろせた。

 西には三方五湖が森に囲まれキラキラ光っていた。


「湖の方へ行ってみますか。あそこらは比較的おとなしい種族が多いので厄介事も少ないでしょう」


 彭侯の言う通り、三方五湖方面へ飛んでいく弥生。

 途中で煙らしき白い筋が上がっているのが見えた。


「……あれは?」

「原住民の生活煙でしょう。湖のほとりには村がありますから。そこから少し離れた場所に野生大豆と稲の群生地があります。見つからないようにそっと下りましょう」


 弥生たちは村より少し離れた林を選んで、その中に着地した。

 村より1キロは離れているので見つかる心配はないだろう。

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