第4話 いや、美味しいのよ?
兎モドキ肉のキノコ炒め(塩、胡椒)
狸モドキ肉の塩ゆで(塩、生姜、葡萄果汁)
ほうれん草と椎茸の包み焼き(塩、胡椒、獣油)
里芋の塩汁(塩、三つ葉)
野鳥の串焼き(塩、生姜、葡萄果汁)
兎モドキ肉のハンバーグ(塩、胡椒)
狸モドキ肉のつみれ汁(塩、胡椒)
野生大根と茄子の塩漬け(塩、唐辛子)
鮎モドキ塩焼き(塩)
岩魚モドキ塩焼き(塩)
弥生が山を下りてから一週間ほどが過ぎた。
その間は何もすることがなく、ず~~と食っちゃ寝食っちゃ寝。
日がな一日、空を眺めたり日向ぼっこをして暮らしていた。
二階建てのログハウス。
とてもおしゃれで住心地が良かった。
枯れ草のベッドに木の家具。
食器やガラス窓なんかは弥生が土を操作して作った。
獣や魚の脂を燃料にしたランプは匂いが気になるが、慣れてしまえば味がある。
天は一面の星空。
風は水晶のように透き通り、星の輝きをいっそう増してくれるよう。
1000年前の、便利だが味気のない、行き過ぎてしまった世界の空とはまるで別のものだった。
……今期はこのまま……ずっとのどかに生きていこうかな。
テラスにかけた草のハンモックに揺られながら、弥生はそんなふうに考えていた。
「弥生様、
彭侯が呼んでいる。
キッチンに向かうと肉の焼ける良い香りがしてきた。
「今宵のメニューは兎モドキ肉のグリル(塩、胡椒)です」
鉄皿の上に美味しそうな兎のもも肉がジュウジュウ音を立てていた。
付け合せにキノコと里芋の丸焼きも添えられている。
バスケットには新鮮な果物(野いちご、あけび、シャシャンボの実)が入れられていた。
「いただきまんもす」
弥生は大地の恵みと彭侯に感謝し手を合わせる。
まんもすは華麗にスルーし、ワインを注ぐ彭侯。
一口食べると、肉の香ばしい香りと油の甘みが口の中に広がる。
それを渋みを強く調整してもらったワインで流し込むのだ。
すると、
「んゔぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~うまいなぁ~~~~~。相変わらず美味いぞ彭侯ぉ~~~~~~最高だぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「ありがとうございます」
美味い肉に美味いワイン。
暖かな家に澄んだ空気。満天の星空。
そして従順な執事(色男)
究極の贅沢がここにはあった。
これ以上、何を望むことがあるというのか?
「いや、ない」
「左様でございますか」
「――――でもさぁ」
「はい?」
「いや、ごめんごめん。つい……」
「何かご不満なところでも?」
「そう見える?」
「見えました」
「……じゃあ言っちゃっていい?」
「なんなりと」
いくら大自然が定めた主従関係があるとはいえ、こんなにしてもらって文句を言うなどワガママだとは思うのだが……しかし毎日これが続くと後々きつい。
弥生はなるべく彭侯を傷つけないようにやわらかく言った。
「
や~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
や~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん。
や~~~~~~~~~~~ん。
や~~~~~ん。
そして肉を一口。
「うん。おいちい」
「どっちなんですか?」
「そこはもうアレよ。心のアレをなんとか理解して、言いたいことを汲み取ってほしいのよ」
「……つまり料理が口に合わなかったと?」
「ううん。違う違う。おいしいはおいちいの。でもさ、なんていうかほら、ストレートばかりじゃさ、打たれるじゃん? 彭侯ってもっといろんなことできる子だと思うのよ、だからさ、たまには変化球も投げていいと思うのよ?」
「弥生様、そんなに野球がお好きでしたっけ?」
「そうね地味に中日ファン」
当然この世界にはそんなモノはもう存在しないわけだが……。
「……つまり味に飽きたと?」
「そうそうそう、それそれ。いや、美味しいのよ。美味しい美味しい。でもたまには醤油とか味噌的な? そんなモノも食べたくなるときってあるじゃない?」
「まぁ、そうですね。とくに前期は飽食の時代でしたから味の種類も多種多様でした。……私も醤油味は嫌いじゃありません」
「でしょ!? だったら作れない? 醤油味!!」
「もちろん作れますが……」
「が……?」
「原材料となる大豆を作っておりません。……なので群生地まで収穫に行かねばならないかと……」
「えぇ~~~~……」
無表情で報告する彭侯。
それを聞いた弥生はものすご~~く面倒くさそうな顔をした。
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