第12話

 あの日以降、俺はひたすらリュートの修行に付き合っている。

 リュートの目的には魔族や魔王が邪魔らしく、対人戦闘を鍛えたい、といってきたため、最近はひたすら俺たちで決闘をしている。

 魔物との戦闘においてもそうだが、対人戦闘では経験が大事になってくる。


 しかし、俺と戦ってばかりでは風属性以外の相手との経験を積むことができない。確かに、俺の魔力の使い方を変えたり、『あれ』を使ったりすればある程度の融通も聞くが、それにも限界がある。


 


 ということで、俺たちは今、盗賊狩りへと向かっている。

 

 こんな実力至上主義の世の中である。そりゃあもちろん、力をつけた荒くれ者たちがのさばってしまうのは当たり前である。


 と、いうことで、ここ最近で俺たちのいる街周辺で台頭してきた盗賊団の討伐依頼があったため、受ける事にした。

 だいぶ凶悪な連中らしく、本来の対象ランクはAランクだったのだが、特例ということで許可を出してもらった。

 これで心置きなくリュートも人と戦えるというものである。

 

 さて、現在向かっている先に盗賊団の拠点があるらしいが、下っ端は寄せ集め程度の連中で、本当に強いのは幹部以上の奴ららしいため、初っ端から雑魚はまとめて始末する事にした。


 拠点があるらしい洞窟の近くにくると、情報はあっていたらしく、入り口付近に2人の見張りが立っている。


 騒がれると面倒なため、この場は気づかれずに暗殺をすることができるリュートに任せた。

 俺は近くの木の影から見守っている。


 リュートは能力を使い気配を消し、音を立てずに見張りたちの背後へと回る。


 1人目は背後から口を押さえ、首を短刀で切り裂いたためすぐに殺すことができたが、2人目は異常を察したらしく、剣を鞘から抜き、周りを警戒する。

 だいぶ腕は立つようで、以前のリュートだったらバレるまでは行かなくても一発で仕留めるのは厳しかっただろう。

 

 しかし、今のリュートの存在感の薄さは以前の比じゃない。

 俺ですらようやく捉えられるかどうか、といったところだ。

 そんなリュートに見張り程度のやつが気づけるはずもなく、結局は何が起こったかもわからないままに死んでいった。


 仕事を終えたリュートがその場に姿を現すと、俺も入り口の方へとよっていく。

 

 「お疲れリュート。じゃあ、俺は雑魚たちを殺して隠れるから、頑張れよ」


 この場にはリュートの修行のために来たため、俺は雑魚たちを処理した後は遠くから戦いを見守り、いざという時以外は助けに入らないという事になっている。


「ああ」


 リュートが頷いたのを確かめると、俺は洞窟内にいる敵に勘付かれないよう、魔力を押さえ、静かに魔法を練り上げていく。


 作った魔法は、超巨大な風の玉のなかに暴風を閉じ込めたものだ。

 弾けた時の威力は、優しめにしてある。

 この程度で全滅してしまうような奴は、リュートの相手にはならないだろう。


 十分な大きさにまで育った風の球を洞窟へ向けて放出する。


 打った後、俺はすぐに遠くへと離れ、木の影から観察をする。


 すると、中と比べ狭かった入り口が抉れ、風の球は中へと突き進んでいく。


 洞窟の中からは悲鳴が聞こえ、しばらくすると、悲鳴が途絶えた。


 ……もしかして、みんな死んじゃった?


 いや、俺が子供の頃遊んでいた盗賊君たちはこの程度じゃあ死ななかった。生き残りはいるだろう。




 


 しばらく時間が経つと、中からは1人の男が出てきた。


 上半身に服はなく、その筋肉を惜しげもなくさらしている。背中には大剣を背負い、その身長は2mを超えるだろう。


 ところどころから切り傷のようなものがあるが……え?俺の魔法全部生身で受けたの?……こわっ。


 それにしても、歩き方を見る限り、相当な手練れだな。こいつの相手は今の段階のリュートではきついだろう。


 まあ、観戦してみようじゃあないか。




    ▼



 やべぇなあいつ……。


 俺の修行のために下っ端たちを一掃してくれたはいいものの、その際にキリが使った魔法に、俺は唖然としていた。


 あれで相当手加減したから大丈夫、って……生き残れるやついんのか?


 と、再度キリの非常識っぷりを確認できた俺だが、しばらく待つと1人の男が歩いて出てくるのが見えたため、身を引き締める。


 歩いてきた男は、背中に大剣を背負い込み、2mをも超えそうな勢いの身長であった。


 それにしてもこいつ……強いな。


 いや、あの魔法に耐えている時点で十分な強者なのは間違いないのだが。


 しかも、こいつの魔力痕からは属性をかんじない。

 無属性魔法しか使えないのだろう。大方、優秀な身体強化を使ったとか、そんなことだろう。


 男は無言でこちらに歩み寄り、剣を構えている俺の目の前までくると、口をひらく。


「あの魔法は、お前が放ったものか?」


「…ああ」


 キリはいま隠れているため、俺はそう答えた。


「そうか……死ね」


 すると、男は突然背中の大剣を抜き取り、とんでもない速度で俺に向かって振り落とした。


「ッ!」


 ギリギリのところで反応が間に合った俺は、なんとか横に飛び、これを避ける。


「いきなりとは…随分な挨拶じゃないか」


「……武道において、嘘をつくものはいらないだろう」


 どうやら、男はあの魔法が、俺以外によって放たれたものだと確信しているらしかった。


「なんでだ?」


 と、俺が問いかけると、


「?…だって、お前の魔力操作じゃ、あんな複合魔法は撃てないだろう?」


 男は、心底わからない、といった表情で首を傾げる。

 複合魔法ってなんだよ!俺そんなの知らないぞ。


 あとでキリに復讐することを心に誓い、とりあえず俺は目の前の男に集中する。


「そうか…よッ!」


 今度は俺のターンだとばかりに、俺は男に飛びかかる。


 しかし、男はなんでもないとばかりに俺の剣を流すと、隙ができた俺の体にパンチを繰り出す。


 ッ!


 思いもよらぬところからの攻撃に、俺はなんとか身をよじる。

 しかし、流石に避け切ることはできなかったようで、体には激痛が走る。


 …かすっただけでこの威力とか、直撃したら死んじまうだろこれ…。


 地面に足がついた瞬間に俺は後ろへと飛ぶ。


「今のを避けるとはな……」


 男は少し驚いたようだ。


 しかし、いまだ俺よりも魔法を放ったキリの方に興味があるらしい。


「…チッ」


 俺のことが眼中にないというような態度に不快感を覚えた俺は、攻撃へと移る。


 先ほどと同じようにするのではなく、今度は男の背後に魔法を発生させ、俺と魔法で挟み込むような形で攻撃を仕掛ける。


 男は背後の魔法に気付き横に飛ぶ。


 残念だったな。その魔法は…追跡性だ。


 放った魔法が男を追跡していく。この魔法には闇魔法のような効果が込められており、当たった相手は数分間感覚が麻痺する。


 当たれば魔剣士である俺は懐に潜り込めるため、ほぼ確実に勝てるだろう。


 やがて、逃げきれないことを悟った男は、信じられない暴挙に出た。


「フンッ」


 魔力を纏った拳で俺の魔法を砕いたのだ。


「…は?」


 意味のわからないような現状を目の当たりにした俺は、思わず唖然とする。


 いや、理屈はわかる。あの魔法よりも断然上の密度の魔力を拳に纏い、殴ったのだろう。しかし、


「魔剣士だったか……俺と同じだな」


 は?何をいっているのだろうかこいつは。


「?いやいや、お前の魔力属性ないじゃん。ただの剣士だろ?」


「……魔剣士だ!!」


 俺の発言の何かが男の地雷を見事に踏み抜いたらしく、激怒した様子の男がものすごい速度で突進してくる。


「チッ!」


 その桁違いの速度に思わず舌打ちが漏れたが、一直線に来るなら何も問題はない。ただただ、男に向かって魔法を放てばいいだけだろう。


 そう思い、先ほどよりも魔力を込めた魔属性の魔弾を男に連射したが、体全体に先ほど以上の魔力を纏っているらしく、全てが弾かれる。


「おいおいおいおい…おかしいだろッ!」


 俺は慌てて横にずれ、魔力で足場を作り空中へと逃げる。


 空中から男を見下げ、一か八か、といった感覚で前々から構想を抱くことはできていた魔法を発動するための準備をする。

 男はどうやら相変わらずの怒りの表情で俺のことを待ってくれているらしい。


 …武人気質すぎんだろ…。


 しかし好都合、とばかりに俺は強大な魔力を練り上げる。

 

 ……よし、まだ不格好だが、形はできてきた。


 あとは魔力を拡散するだけ………ッ!?


 止まっていた男ははるか上にいる俺を見上げると、先ほどまでの怒りの形相とは打って変わり、焦ったかの表情でこちらへと飛んでくる。



 …え、お前足場ないやん…何?ほんとに化け物?



 意味もわからず困惑する俺に無慈悲にも振り下ろされる大剣に思わず死を覚悟したその時────





 たった一つの魔弾が、男の胸を貫いていた。






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異世界最強と現代最強の異世界道中〜異世界から来たらしいやつと魔王倒してみます〜 コーク @adgjmptwadgjmptwad

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