第11話

 リュートとの話し合いの結果、手に入れた白金貨5枚は装備などに使い、あとは取っておこうという話になった。

 なんでも、主な旅の資金は予定通りに、冒険者として稼いでいくらしい。


 なんで?と俺が聞くと、やれやれ…といった表情で「旅っていうのはそういうもんなの」と呆れられた。


 …は?


 まあいい。魔物を狩るのはリュートの訓練にもなるだろうしな。

 規範上、リュートの狩った魔物を買い取りに出してもランクは上がらないが。


 正直なところ、Bランクになってしまったし、もう十分なんだよなぁ……。


 今のランクの時点である程度の地位は保証されているし、これより上のランクに行ってしまうと国からの依頼なんかも来てしまうらしいし……なんだかんだ今のランクがちょうどいいのである。


 まあ、ランクの昇格なんかは自分で決められるらしいしなんとかなるかーと思いつつ、俺はリュートの意見に従うことにした。






 そんなこんなで、俺たちはまたあの森に戻ってきました。


 Bランクで入れる程度の領域にはすでに俺達の敵はいないため、協会にはバレないようにこっそりと奥地へと入った。


 その理由はもちろん敵がいないから、というのもあるが、何よりリュートの魔属性がバレないため、というのが大きい。

 もちろんここにきたことをバレるわけにもいかなく、素材を持ち帰ることはできないので、帰り道に適当に狩っていく事にした。


 今、目の前ではリュートが戦っているが、その上達速度には目を見張るものがある。

 今戦っている魔物は人型で、俊敏なのに加えて頭もいいという、なかなか厄介な魔物なのだが、訓練を初めて数日程度のリュートが互角以上に渡り合えている風景を見ると、俺もこのままだと抜かされてしまうんじゃないか、というような危機感が湧いてくる。


 ……それにしても、魔属性というのが気になっているため見ているが、闇属性のようなものなんだな。


 今の段階でのリュートの使える魔法のレベルがその程度なせいかもしれないが、系統は確実に闇属性と一緒だろう。


 この様子だと、闇属性について教えれば、さらに上達できそうだな。

 というような結論に至った俺は、思考を切り替え、リュートが戦っているのを観察する。


 リュートの戦闘スタイルは『魔剣士』といった感じのもので、剣で追い詰めながら魔法で隙を作ったり、死角をついたり、といった感じのものだ。

 

 しかし、問題点がある。


 決定打に欠けているのだ。

 確かに確実にダメージを与えることができているが、それは今戦っている魔物の防御力が低いから通じているだけだろう。

 これがもっと上位の魔物や、強力な戦士となると一気に不利になるだろう。


 思った通りに、戦いはリュートが有利なまま長引いていく。


 しばらくすると、蓄積されたダメージによって大きな隙を見せた魔物の首をリュートが飛ばし、戦いは終わった。


 戻ってきたリュートの表情には、大きな疲れが見れる。やはりあのスタイルでの戦闘が長引くと精神的な疲労が溜まってしまうだろう。


「決定打が足りないな」


 と俺がリュートにアドバイスをすると、リュートもその点はわかっていたらしく、無言で頷く。


「お前は確かに魔法にも剣技にも類稀な才能を持っているが、どちらともを極めようとしてしまっているばかりに器用貧乏になってしまっているな」


 と俺が言うと、


「わかってるんよ。だけど、俺のスキル的にもやっぱり不意打ちが有効だと思うんだよなぁ……」


 とリュートは言う。


 確かに、リュートの『スキル』とやらは対人間への暗殺などには非常に有効だろう。

 しかし、それでは俺レベルのものには通じない。

 今のリュートのスピードのままだと、攻撃の意思を見せた瞬間に反応し、対応できてしまうからだ。

 確かに、対人間を想定するならば魔物との訓練をするのは非効率的か。


「確かにな…魔物と戦うのと、人間と戦うと言うのはまったくもって違うことだ。お前が今後、どういう相手を想定していくかによって決まるな」


 しばらく共に旅をしたために、こいつがただただ世界を見て回りたいだけじゃない、と言う事には気づいている。

 おそらく、何か最終的な目的があるだろうし、戦いの力を身につけたいといっているのもそのための手段の一つだろう。


 まあ、口に出すことはしないが。


「そうだなぁ……なあキリ、『魔王』って言うのは知っているか?」


 考え込んだあと、突然リュートがそんなことを聞いてきた。


「?よくわからないが…知っていることには知っているぞ?」


「どんな奴なのか、詳しく教えてくれないか?」


「知らないのか?……まあ、お前の非常識は今に始まった事ではないしな。…そうだなぁ…まず、お前は『魔族』について知っているか?」


 魔族、と言う存在は魔王を語る上では欠かせないものだ。


「いや、知らない」


「魔族、と言うのは、さっきもお前が倒した魔物の親玉の総称だ。どういった経緯で生まれたのか、と言う事については判明してはいないが、魔族同士のつがいが作るものだと一般的には考えられている。定義としては、言葉を話すことのできる魔物だな」


 ここまでは一般常識レベルかな。そこら辺の文献にも書いてある。


「魔族の寿命は人間と比べ非常に長く、普段はその習性としてバラバラになって暮らしている。魔法に対する探究心が非常に深く、生涯をかけて魔法の研究をする。子育ての習慣などはなく、生まれ落ちた魔族はそこからは自分で生き抜いていく、といった特徴があるな」


 この情報は、相当調べたものなどでないと知り得ないだろう。俺もこの情報は書斎ではなく実践で知ったし。


「ふぅ〜ん。魔族の性質はわかったけど、そこにどう魔王が関係してくるんだ?」


 俺の長ったらしい説明にしびれを切らしたようにリュートが聞いてくる。


「さっき、魔族は魔族のつがいが生み出している、っていっただろ?だけど不思議なことに、魔族には生殖に関する機関が備わってないんだよ」


 これは、本当に一部の人間しか知らないことだろう。

 本来魔族は殺してしまうとしたいは霧散してしまうからな。


 …え?じゃあなんで俺がそれを知ってるかって?……それは言えないよ。


「じゃあ、何者が魔族を生み出しているんだ?」


「それこそが魔王だと、俺は睨んでいるんだよ。実際、数百年周期の時の魔王が降臨している間だけは、単独行動を好むはずの魔族が結託して魔王の手足となるからな。親のもとで子供が結託するのは、不自然なことじゃあないだろう?」


「…思ったよりもたくさんの情報をしれたが、結局のところ、魔族や魔王っていうのは魔物よりは戦い方も人間に近い存在ってことであっているか?」


「ああ、まあそうだな」


「じゃあ、最初の話に戻るけど、俺は対人戦を極める事にするよ」


 えぇ〜…まだ言っておきたいことがたくさんあったのに。

 話の腰を折られた俺は不貞腐れながらも、そこからはリュートと今後の事について話していった。



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