第10話
佐藤くん、神楽さんの2人が行方不明となってから3日がたった。
あの日は私はご飯を摂ることもなく、訓練にも行かず、ベッドの中でただひたすらに泣いた。
途中、あの女の人の使いが来たが、私が会うのを断ると、あっさりと引き下がっていった。
私のスキルとやらは優秀であったようだし、それのおかげで見逃されているのだろう。
そのあとはクラスの男女が尋ねてきたが、ドア越しの言葉には薄い言葉しかないような気がして、断らせてもらった。
夜になると、晩御飯を終えたらしい雫が部屋を訪ねてきてくれた。
今までの人たちとは違うような気がした私は、その日初めてドアを開けた。
そのあとは、ただひたすらに雫に抱きつき、泣きじゃくった。
もう1人の大事な人に会うことができた、と言う安心感もあったのか、もう出ないと思っていた涙が次々に溢れ出した。
雫には前々から佐藤くんが好きだ、と言って相談をしていたため、私の悲しみを理解してくれていたような気がした。
雫は、ただひたすらに私のことを受け止め、話を聞いてくれた。
しばらくして私が落ち着くと、ようやく雫が口を開いた。
雫によると、あとしばらくの間修行をし、力がついたと認められると、いくつかのグループに分かれてから城をでて、ある程度自由に旅をし、力をつけると言うフェーズに入るらしい。
「早い間にその段階まで力をつけて、私たちで佐藤くんを探そう」と言ってくれた時には、さらに涙が溢れた。
私にはまだこんなにいい人がいてくれてるんだ、と思うと、少しだが力が沸いた気がした。
その日は雫と共にベッドに入り、深い眠りにつくことができた。
安心して寝れたことがよかったのか、次の日の朝に起きた頃には私の体のコンディションは万全になっていた。
朝ごはんを食べに食堂に行くと、昨晩に訪ねてきてくれたのであろう人たちが声をかけてきたが、断り、雫と2人きりにさせてもらった。
そこから2人きりではなしあい、なるべく早い時間で実力をつけ、
その時から、私は訓練の鬼となった。
魔法の練習は魔力がつきかけるまで行い、その魔力の回復中はひたすらにスキルの練習を行なった。
雫も私についていく、と言うように言ってくれたため、共に努力できると言うのは私の大きな励みになっている。
雫も私も、ステータスやスキルが優れているらしく、この世界の人たちからは大いに期待をされているらしい。
なんでも、私のスキル『転移』と『神化』は、記録に残っている中でも素晴らしい性能らしい。
また、私の持っている属性である『神属性』はここ数百年のうちに現れた、と言う記録がないらしい。基本的には『聖属性』と言う属性の完全上位互換な性能らしい。
しかし、なぜか私の脳裏には、この属性を聞いた時のあの女に人の、嬉しさの中に危機感も含まれたような表情がこびりついている。
まあ、今はそんなことよりも訓練だ。佐藤くんを探し出すためにも、なんとしても実力をつけないと。
▼
女神の間にて
この部屋の居場所を知るものはこの王城の中にいるもののなかでもごく一部であり、滅多に人が訪ねてくることはない。
リュートたちの世界の世界でいうならば、小さめの体育館といった程度の広さであろうか。
そんな、到底1人の人間が使うには広すぎるであろう部屋の中にあるインテリアは、豪華な装飾を施されたキングベッドのみである。
その周りにはたった一つの種類の花が咲き誇っている。
それらは生き血を染み込ませたのか、というくらいに立派な深紅で、禍々しい雰囲気を部屋にもたらしていた。
正反対にその匂いは芳しく、部屋には
そんな花たちに囲まれたベッドの中には、女性が1人。
普段はきっちりと身につけ、風格を漂わせているにも関わらず、この場では上品質な服を着崩し、横たわっている。
その様子は、部屋の雰囲気に加え、女自身の人並外れた美しさも相まって、異様な雰囲気を醸し出す。
下手な人間が見れば、その美しさに卒倒してしまうだろう。
それほどまでに、女は美しかった。
コンコンコンッ
そんな静かな部屋の中に、ノックの音が響き渡る。
女は上体を起こし、扉の方を見据えると、その訪問者がわかったらしく
「いいですよ」
と許可を出す。
すると、扉が開かれ、1人の女が入ってくる。
この女もまた絶世の美女、とも言えるような容姿を持っていた。
しかし、こちらも人間ではないようで、その証に耳は尖っている。俗に言う『エルフ』と言う種族であろう。
「女神様、例の勇者たちについての報告がございます」
と、表情を崩さないままエルフが発言すると、『女神』と呼ばれた女は「ようやくか」といった表情で立ち上がり、ゆっくりとエルフの方へと歩いていく。
「それで、どうなったんでしょうか。なぜかだいぶ時間がかかったようですがぁ……もちろん、『処理』はできましたよね?」
「いえ、報告によれば、女の方は成功しましたが…」
「が?……もしかして、もしかして失敗した、なんて……言わないですよね?」
女神はエルフの方に近づいていき、自身の顔をエルフの顔に突き合わせ、不気味な笑顔で問い詰める。
しかしエルフは表情を崩すことなく、淡々と報告を続けていく。
「男の方は失敗したようです」
その言葉を聞いた途端に、女神の笑顔に歪みが生じる。
「…は?」
2人の周囲の体感温度がグッと下がる。
「ま、まさかまさかまさかまさか……冗談ですよね?」
歪な笑顔で問いかける。
「いえ、事実のようです」
変わらずエルフは淡々と答える。
「リーゼ?あなた……よくそんな報告ができますね?」
「そんな報告…とは?」
「いえ?別に…あなたが自分の立場をわかって仰っているのかなぁと、思いまして」
その言葉を聞き、初めてリーゼと呼ばれたエルフの表情に歪みが生じた。
「し、しかしッ「しかし?ですか……もうあなたとも長い付き合いです。私が今聞きたいのが何か…聡明なあなたならわかっておられるのではないですか?」………私が始末してまいります」
ようやく聞きたかった言葉が聞けたことがよかったのか、また女神の表情が完全な笑顔となる。
「しかししかし……今の私にはあなたの忠誠心を信じることができそうにないかもしれません」
と、女神は続ける。
リーゼの表情は歪んだ。
「…何をすれば、信じていただけるのでしょうか」
震えた声で、リーゼが女神に問いかける。
「んーーーー」
と、女神は人差し指を頬にあて、考えるような仕草を見せた。
少しすると、女神は何かを閃いたかのような様子で、無言で自身の履いていたハイヒールとストッキングを脱ぐ。
女神の、スラっと細く、色白で、それでいて不健康さを微塵も感じさせないような美脚が
女神は笑顔のままにその足をリーゼの顔の前に動かした。
「…」
何も発することなく、ただただリーゼの次の行動を待つ。
リーゼは歪んだ表情をなんとか元の表情へと直し、女神の足へと顔を近づけていき・・・
ペロッ
と、その足の指を舐めた。
舐められた側の女神は恍惚とした表情を浮かべ、満足したかのような声音でリーゼの頭に手を置き、撫でる。
「いいこいいこ、ですねリーゼ。これで私もしばらくは、あなたのことを信じていけそうです」
その言葉を聞き、安心したかのようにリーゼは顔を離し、黙々と女神の足にストッキングとヒールを履かせる。
しばらくしてはかし終えるとリーゼは立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。
「それでは、私は仕事に向かわせていただきます」
「ええ、吉報を待っていますよ」
その言葉を聞き、リーゼは部屋から出ていく。
「あんなに可愛い妹たちを、失いたくないなら……ね」
パタン、と、ドアが閉まった。
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