第9話
長時間にもわたる拘束時間をなんとか乗り越えた俺がいくと、一見、そこにリュートの気配はなかった。
…なるほどな。
察した俺は目を閉じ、周囲の気配に気を配る。
しばらくすると目を開け、ある方向に歩いていき、一見何もない虚空に話しかける。
「上手くなったがまだまだだな。違和感が残っているし、この程度ならまだ気付く奴はいると思うぞ」
俺がそう言った途端に、何もないはずであった空間から、リュートが現れる。
「そうかぁ、だいぶ上手く調整できたと思ってたんだけどなぁ」
リュートの『調整』と言う言葉には俺のあるアドバイスが関係している。
最初にリュートと出会った頃、あいつ気配を隠す能力をいまよりも高く発揮していた。
しかしそれではダメだった。
どうやらこの能力は、リュートを周囲に溶け込ませるのではなく、リュートの存在を限りなく希薄にする、と言う能力だったのだ。
だからこそ、初対面の時に俺はリュートの居場所を突き止めることができた。
その理由は、あの時のリュートは全力で能力を使ってしまっていた。
そのために、俺にバレてしまった。
リュートの能力の性質上、その能力を全力で使ってしまうと、使用者自身の姿が、完全に消えてしまうのだ。
どう言うことかというと、姿を消しても、使用者の実態は消えない、と言うことだ。
つまり、熟練のものからすれば、リュートのいるところのみが不自然なのである。
本来、自然には空気の流れがあり、魔力の存在があり、匂いがある。そんな中で、リュートのいるところだけが透明すぎるのだ。
だからこそ俺は、旅の道中にリュートにアドバイスをした。
「能力を弱めて使ってみてはどうか」、と。
それを聞いたリュートは目から鱗だったようで、聞いた瞬間には唖然としていた。
しかし、少しするとすぐにボソボソと考え始めた。
するとすぐにその方法がわかったようで、早速、と実践を始めた。
やっぱりこいつは天才肌だな、とまたもや痛感したのを覚えている。
「いや、もう十分に上手いと思うぞ」
俺の目が特別なだけで…。
「いや、お前にバレてるじゃん」
「いやぁ…それはいいんだよ…」
なんだよそれ、とリュートが笑顔を浮かべならいう。
この数日間で、だいぶ仲良くなれたと思う。
そう思うと、俺も笑みが溢れた。
…変な空間。
「そういえば、なんでキリはこんなに遅かったんだ?」
ふと、思い出したようにリュートが俺に言った。
「ああ、ちょっと、持っていた素材がやばいやつだったらしくてな?長々と話しちゃったんだ」
「へぇ…それで、どうなったんだ?」
「聞いて驚けよ……白金貨5枚もらった」
「は、白金貨ぁ!?」
と、普通に生きていれば聞くことのない値段を聞いたリュートは、口をあんぐりと開け、とてつもない大声で叫んだ。
その声と同時に、多くの視線が俺たちに向けられる。
「おい!」
と、注目を集めたことを責めるように俺が言うと、リュートも気づいたらしく、
「ごめんごめん」
と謝ってきた。
その態度には思うこともあったが、とりあえず俺たちはその場から脱出することにした。
白金貨、と言う大金に釣られた奴らと逃走劇を繰り広げていた俺を横目に、
ニヤニヤとしながら気配を消していったリュートを見た時には思わず殺意を抱いてしまったが、なんとか逃げおおせた。
追手を全員巻いてから宿の中に入り、ドアを開くと、そこにはベッドの上でくつろぐリュートがいた。
「あ、おかえりー」
と、ニヤニヤしながら言う。
こ、こいつ……あの騒ぎを巻き起こした張本人のくせにッッ!
思わずその顔に殺意を覚えた俺は右手を
「おいおい待て待て待て待て!謝るから!ごめんって!」
すると突然慌てた様子のリュート駆け寄ってきた。
「はぁ」
もちろんこんなホテルの中で魔法をぶっ放すことなどできないので、渋々と言った感じで俺は右手を下げた。
「ふぅ」
と、リュートは大袈裟な仕草で一息ついた。
…やっぱり殺してやろうか。
「それで、一体全体どう言った経緯で白金貨5枚なんていう大金をもらったんだ?」
と尋ねられたので、俺は起こった出来事を偽りなく話した。
「ふぅーん。……じゃあ、これからどうすんの?」
と、話を聞き終わったリュートが尋ねてきた。
「は?これからどうするって…そりゃあ、予定通り魔物を狩っ「でも、資金手に入っちゃったじゃん。それも十分すぎるほどに」……あ」
確かにこいつの言う通りだ。
当初俺たちは魔物狩りで資金を集めてからこの街を出て行こう、と言うように話していたが、予想外の出来事のせいで、もう使えきれないほどの資金が集まってしまった。
「…どうしよう」
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