第20話 安全空域へ

「飛べるんです!」

運転席に座る男は、雷獣達に聞こえるように声を張り上げた。

艦は空に向かって加速した。

雷獣達は後方に押しつけられた。

艦の後方には、スクリューがついている。

しかし、普通の潜水艦にはないものがついている。

それは、2基のロケットエンジンだ。

艦は炎の矢に向かってまっすぐ飛ぶ。

矢はほんのわずかに的を外れ、艦の下方へと向かう。

そして、艦と炎の矢は交差する。

炎の矢は、艦のあった倉庫を直撃。

艦は天使たちが作っていた円形の陣中央を突っ切った。


炎の矢は倉庫に命中した。

倉庫は一瞬にして灰となり、その熱は直径3キロメートル内の雪を融かし、陸地を焼き、海を沸かした。

海中に潜んでいたA国の潜水艦3隻は、海水が蒸発することにより姿を現す。

3隻は炎の矢の余波を受けて、赤く燃え上がる。

潜水艦の残骸は、海の底に散り散りに消えてゆく。

深海の皇帝は、世界が崩壊を最後に見た。

炎の矢は、人間の手によって作られたものだったのだろうか?

それとも、神の怒りだったのだろうか?

深海の皇帝は、その答えを知ることはなかった。


後鬼は、今までに見たことのない紅い炎が大地を覆い尽くす恐ろしい光景を目の当たりにした。

「これは…」

彼は呆然として言葉を失った。

そのとき、男が後鬼に話しかけた。

「大技を繰り出すとき、彼らは巧みに自己防衛の技を組み合わせると予想しました。だから、彼らの背後に行けば、被害を最小限に抑えることができるかな?って思いましてね。」

後鬼はふと、昔の師匠の教えを思い出した。

師匠はいつも言っていた。

「大きな念の技を繰り出すときは、後方を警戒しろ!」と。

この男は、師匠の言葉と重なるものがある。

一体、何者なんだろう?


「さて、空中戦が始まりそうです。油断できませんよ。」

男は次の準備にかかろうとしている。

しかし

「どうするつもりなの?」

後鬼は男に訊ねてみた。

「我々だけでは、無理です。」

「無理とは?」とイズナが声を荒げる。

「あれだけの数の敵が一斉に襲ってくると、難儀ですね。」

男は平然と答える。

この男が初めて難儀と言ったね、と後鬼は感じた。

「では・・」イズナが言いかけたとき、男が言う。

「でも、ご安心ください。」

「!?」雷獣が顔をしかめた。

「あの方々と一緒なら、脱出の見込みがあります。」

男は前方の画面を指さす。

そこに映っていたのは・・・

一機の輸送機だった。


操縦室へと駆け込んだグエンは、息もつかせずに命じた。

「空に浮ぶ者どもの後ろに回り込め!」

「今から浮上しても間に合うかどうかと・・・」

パイロットは困惑の色を見せて答える。

「できなければ死ぬぞ!」

グエンの迫力にパイロットは黙って頷くほかない。

間に合うだろうか。

グエン自身も自信はない。

しかし、あの空域がこの状況で唯一生き残る道であるはずだ。

新型の空を飛ぶ艦の動きは、自殺行為とは思えなかった。

生き残るための行動であると直感した。

そして、その艦が目指している場所こそが、生き残れる場所であると。

グエンは何故か信じてしまった。

輸送機は無理やり空へと飛び立った。

天使軍の背後を目指して急上昇する。

乗員のことなど考えていない飛び方である。

グエンは後ろに激しくぶつかる。

仕方ないと思って歯をくいしばった。

地上で炎が燃え上がるのが横目で見える。

今までにない光景だ。

爆風が機体を揺らす。

それでも輸送機はなんとか天使軍の背後の空間に入ることができた。

突然、スピーカーから奇妙な声が聞こえてきた。




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究極のバトルロイヤル!人類・ロボット・天使軍が襲ってくる。あんたら強すぎ! zzrr33 @33sando22

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