第7話 猫又と鎌鼬①
翌日、深夜の出来事である。御鈴は、黄清の計らいで鬼、龍、妖狐の出没した都市部から離れた田舎町で戦っていた。前日に多くの人間がこの国の現状を知ったため、外に出るものはいなかった。
(好都合だ。戦いに専念できる)
そうして御鈴は、そこらに蔓延る異形を殲滅していく。
だが、彼女は僅かに違和感を覚えた。気配は感じるのに、妖怪が一匹もいない。それはつまり、こちらの様子をうかがっているということだ。
「おい、見ているんだろう、妖怪共。臆していないで出てきたらどうだ」
御鈴が立ち止まり、声をかけると、どこからともなく多くの妖怪が湧いてきた。そのうちの1匹が前に出る。
「別に臆しているわけじゃないよ。でも、あの方の命令だから」
その妖怪は、齢十ほどの少女の見た目をしていた。頭に耳、二つに分かれた尻尾、周囲を飛び回る火の玉。
「・・・・・・猫又か」
御鈴は、ぽつりと呟いた。
「せいかーい。まあ、私ほどの有名妖怪となると当たり前だよねー」
などと言いながらも、猫又は少し嬉しそうに尻尾を動かしている。しかし、御鈴には、そんなことより気になる言葉があった。
「あの方、というのは黒鬼のことか?」
彼女の言葉に、猫又はぴくりと耳を動かした。
「・・・・・・へぇ、知ってるんだ」
猫又はにやりと笑った。いや、正確には口元だけ笑っていると言った方がいい。彼女の目は、まるで獲物を狙う獣のそれであった。しかし御鈴は、それに臆することなく聞く。
「あの鬼は、お前たちになんと命令した?皇神の巫女を生け捕りにしろ・・・・・・とでも言ったか?」
彼女の言葉に、猫又はさらに目を細めて答えた。
「まあ、そんなところかな。・・・・・・でも、私達も死にたくないから・・・・・・恨まないでね」
次の瞬間、四方八方から大量の糸が御鈴目掛けて飛んでくる。御鈴は、手に持った短刀でその内の一帯(ひとおび)を斬ろうとする。しかし、
「っ!?か・・・・・・たっ!?」
あまりの硬さに、断つことができないのだ。そのため、御鈴は、体勢を立て直すために、その一体を受け流し、後方へ下がる。
「さっすがおじいちゃん。相変わらず糸だけは若々しいねー」
猫又が頭上の木に笑いかけると、そこから怒鳴り声が響いた。
「なーにが「糸だけは」だ!この若々しい肌が分からねぇか!猫娘!お主、儂を舐めすぎだ!」
そんな声とともに木から男性が落ちてくる。その男性は、「おじいちゃん」と言われるにはあまりに若々しい外見をしていた。赤茶の髪、黒い瞳、何より、ピシッと伸びた足腰の若い男性姿。どう見ても、おじいちゃんという見た目ではない。だが、彼も妖怪だ。歳の進み具合が個々で違ってもおかしくは無い。
御鈴がそう考えていると、猫又が自慢げに鼻を鳴らした。
「どう?すっごいでしょ!土蜘蛛のおじいちゃんは、あの黒鬼様や金色狐(こんじきぎつね)様よりも古株の大妖怪!貴方が勝てる相手ではないんだから!」
「なんでてめぇが威張ってんだ」
そんな二匹のやり取りも気にせず、御鈴は敵の数を数える。
(一、二、三・・・・・・ざっと十九か。随分と曖昧な数だな)
そんな御鈴の考えなどつゆ知らず、猫又は自信満々に宣言する。
「さあ、この二十体で貴方を完膚なきまでに叩きのめ・・・・・・してはダメか。生け捕ってあげる!」
御鈴は、二十体という数に疑問を覚える。おかしい。確かに十九体だったはず。御鈴が不思議に思っていると、奥から誰かが走ってくる音が聞こえた。
「・・・・・・ちゃーん。花火ちゃーん。速いよー」
それは、猫又と同年代くらいの外見をした少年であった。手に鎌を持ち、耳が生え、マッシュルームのような髪に、かなり小柄な、少女と見紛うほど華奢な青年である。
「ちょっと!今来たの!?ていうか、本名で呼ばないで!」
少し怒り気味の猫又の気など知らず、彼は嬉しそうに彼女に駆け寄ろうとした・・・・・・その時、
ビダンッ
思いっきり少年が転び、手に持っていた鎌がこちら目掛けて飛んできた。
猫又は、「にゃー!」と驚いた猫のような声を出して避け、土蜘蛛は、まるで呆れたような顔でひょいと避ける。もちろん、一番奥にいた御鈴は、いとも簡単にそれを避けた。
「あーのーねー!刃(じん)君!このやり取りもう数百回目だよ!?いい加減やめ・・・・・・、」
その時、猫又は、後ろを気にして横にずれる御鈴と土蜘蛛に気づく。そこには、くるくるとものすごい速さで戻ってくる鎌。猫又は、再び叫び声を上げてしゃがみ込んだ。その鎌を、少年はぴたりとキャッチする。すると、猫又は、少年の肩を掴み、がくがくと揺らした。
しばらくして、猫又は落ち着いたように息を吐くと、こちらに向き直って言った。
「やっと揃ったね。彼の妖名は鎌鼬(かまいたち)。さあ、20対1、どう虐めてあげようか」
妖神 ミルク飴 @1010coco2007
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