第2話 座学で教える異能バトル①


 この世の裏側には罪禍と呼ばれる化け物の伝承・予言が各地に残っているという。その罪禍の復活が間近に迫っておりそれに唯一対抗出来る術である秘蹟を扱う者を集めこの私立櫻ヶ丘学園で戦い方を教えている……それが赫津先生から教わった大まかな今起きている事なのだという。

 罪禍の詳細については不明な点も多く、いまだ研究中とのこと。

 そして肝心の秘蹟について、これは俺も理解しやすかった。

 要するに異能だ。魔術・魔法、超能力なんて呼ばれるラノベに出てくるアレの類だ。

 炎の弾を出したり、氷の柱を生やしたり、光の剣で斬ったりなどなど。

 その種類は列挙するに暇が無く。

 こと赫津先生も炎属性の秘蹟使いなのだとか。あの糸目こと狐屋先生は植物を操る木属性らしい。相性悪そう。閑話休題。

 そんな異能こと秘蹟だが、対罪禍にしか効果が無く、人体や物体にはほぼ無害なのだとか。

 夢と現実は違うんだなぁとか、良かった、異能者と差別される若者はいなかったんですね。だとか色々思うところはあったけれど。

 あくまで罪禍に対抗するための手段であり、それ以上でもそれ以下でもないというのがポイントだ。

 ちなみに。

「その秘蹟って俺も使えたり……」

「しません」

 ときっぱり言い切られてしまった。俺はとぼとぼと教室の戸を開く。わいわいがやがやしていた教室が静まりかえる。

「あー、今日から現国の担当になった伊佐――」

 そこで俺に向かって火の玉が飛んで来た。俺は思わず避けた。それがいけなかった。教室が失笑に包まれる。そう今のは度胸試しだ。秘蹟によって作られた火の玉は人体に害をなさない。よって避ける必要などなく。避けたという事はその常識を知らないという事になるからだ。

 俺はその全てを飲み込み、こう言い放った。

「……今、火を放った奴は誰だ」

 するとひらひらと手を挙げる生徒が一人。

「俺でぇ~す」

「君、名前は」

「平賀っすけど」

「平賀くん、今の不意打ちはよかった」

 一瞬、教室に沈黙が訪れる。その後、それはどよめきに変わった。そこに間髪入れずに俺は言葉を叩き込む。

「次はそうだな、避けれない速度で頼む」

 すると平賀くんは、驚いた顔をした後、ニヤリと笑いながら。

「へぇ……おもしれーじゃん」

 などと言ってみせた。

 さて、次から俺は害が無いと分かっていても怖いあの火の玉をおそらく顔面で受けてなおかつノーリアクションでいかないといけないことになったわけだ。

 勘弁してくれよ。

「えー今日から君たちには座学でいの――じゃない秘蹟の使い方について学んでもらう。それはこれから現れるとされている罪禍に対抗するためである」

「せんせー、罪禍っていつ現れるんすかー?」

「それくらい、もう習っているんじゃないか? まあいい、罪禍はあと三年後には完全な顕現を果たすとされている。ちょうど君達が此処を卒業する頃だな、まあその時には先生方や先輩方が戦っているから、君達は後方支援という形になるだろうが――」

「そんなのつまんなーい、前線で戦いたーい」

 ああ、俺も学生時代はこんなわがままだったのだろうか、などと遠い記憶に想いを馳せながら、昔ながらの黒板にチョークで図を書いていく。

「秘蹟にも色んな種類があって――」

 俺は教科書に載っている事を一言一句違わず読み上げていく。非常勤講師にそれ以上を求められても困る。なるべく生徒に分かりやすいように図に直して見てはいるもののどれほど効果があるのやらという感じだ。

 そこでふと教室を見回した時、先ほどの平賀少年と目が合った。すると――

「……」

 眼前が真っ赤に染まった。火の玉が顔にクリーンヒットしたのだ。なるほど、確かに痛くない。痛くはないがとても怖い。俺は若干、顔を青ざめながら。

「その調子で頼む」

 とだけ告げて黒板に向き直った。教室はわずかながらに拍手と口笛によって喜色がついた。俺はどうやら受け入れられたらしい。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴る。

「今日はここまで、ちゃんと予習復習をしてくるように」

「先生も罪禍に寝首をかかれないように気をつけてね~無能力者なんだからっさっ!」

 平賀少年は授業の終わりまでそんな調子だった。あれ、俺が無能力者だって言ったっけ。そもそもあいつのせいで名前すら名乗らせてもらってないぞ。

 なんて心中で愚痴りながら、教師寮へとたどり着いた。男性寮と女性寮に分かれており、というか学生も同じ寮に住んでいる。なので。

「おっす先生」

 平賀少年ともこうしてすぐに再会する。

「挨拶は無しかい?」

「今したじゃん」

「じゃなくて」

「ああ、これのこと?」

 指先から火を出して見せる平賀少年。俺はまじまじとそれを見つめると。

「ふむ、原理もなにもさっぱりわからん、まるで特撮でも見てるかのようだ」

「トクサツ?」

「む、特撮を知らんのか、今度BD貸してやる」

「え、マジ? やりぃ」

 無邪気にはしゃぐ平賀少年を見て高校一年生なんてこんなもんなのかなぁと思いつつ、共有浴場に向かいそこでシャワーを浴びてから自室へ戻ったのだった。

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イマジナリー・サクラメント~ラノベオタクの俺が異能学園の教師になった~ 亜未田久志 @abky-6102

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