台本

林「ラーメン屋なんて何年ぶりだろう」


森杉「22年ぶり」


林「んなわけないでしょ! 私たち、まだ18歳よ? せいぜい2年ぶりってところだって」


森杉「あの日から、もう……2年か」


林「覚えてなかったくせに。何その言い方」


森杉「そう気にしない気にしない。それより、とりあえず注文しようか」


林「え、ええ」


森杉「店員さん、この豚骨ラーメン。ニンニクマシマシ、野菜マシマシ、油マシマシで」


林「す、凄いわね。全てが『盛り』だくさんっていうか。んー、じゃあ私はこの醬油ラーメンをお願いします。ふぅ、注文ってあまり得意じゃないんだよね。この気持ち分かる?」


森杉「僕には分からないかな」


林「えー、なんか緊張しない?」


森杉「それは注文だと思って注文するからだよ」


林「いやいや、注文してるんだから注文だと思うでしょ」


森杉「その考え方がダメなんだよ。注文は命令だと思えばいい。客は神様だからね」


林「それは店側がいう言葉よ。まったくもう……適当なことばっかり言って」


森杉「僕は水を入れて来るよ」


林「あ、うん。ありがとう」


~{林ナレーション風「森杉君が両手に水を『持って』戻って来た」}~


林「本当にありが……って、な、何その、氷の量……」


森杉「ん?」


林「『盛り』過ぎでしょ!」


森杉「これぐらい有名ハンバーガーチェーンに比べれば――」


林「確かに有名ハンバーガーチェーンは氷でかさ増ししてるって言われてるけど、そこまでじゃないわよ。森杉君が入れて来た水。9割ぐらい氷だよ?」


森杉「氷はいずれ水に変わる。つまり、これは10割水ってことだよ!」


林「そんな滅茶苦茶な。はぁ……」


森杉「なぁキムチ食べるけど『森』も食べるか?」


林「あ、お願い。後、私は『森』じゃなくて林ね。木の数を『盛らない』で!」


森杉「キムチこれぐらい?」


林「森杉君? 皿にキムチを『盛り』付けてくれたのは嬉しいんだけど、いくら何でもこれは『盛り』過ぎなのよ。韓国人でも一回の食事でキムチをこんなには食べないと思うわ」


森杉「いいや、林。君は韓国人を舐めすぎだ。彼ら彼女らはこれの三倍は一回の食事で摂取するらしいぞ」


林「え、マジ?」


森杉「知らんけど」


林「もー何なのよっ!」


森杉「氷でも舐めて頭を冷やしな」


林「そのための大量の氷だったの?」


森杉「さぁ。それより天気悪いね」


林「唐突に何? まぁ森杉君が言うように今日は天気が悪くて、空はどんよりとしてるわね。これぞ『曇り』って感じ」


森杉「日も暮れてヴァンパイアの周りを飛び交う奴が出てきそう。えーっと、名前は何だっけ?」


林「『コウモリ』ね」


森杉「それそれ。飛び始めそうだよね。あ、トカゲに似たやつも窓をペタペタしそうじゃない?」


林「『ヤモリ』ね」


森杉「てか、今何時?」


林「時間ぐらい自分のスマホで見なよ。え、えっとね……丁度21時だね」


森杉「おっ! 金曜日の夜21時。そろそろグラサン司会者が挨拶してる頃かな」


林「グラサン司会者って、『タモリ』さんのことよね。そんな呼び方してる人、初めてだよ。普通はタモリさんか、タモさんでしょ」


森杉「あ、街灯が!」


林「『灯り』だしたね。街灯に反応するなんて虫みたい」


森杉「それ酷くないか?」


林「酷くないわ。本当のことを言っただけだもん!」


森杉「本当のことなら尚更酷いよ……あーもうやけ酒だ! やけ酒! あ、店員さん。琉球名物の焼酎ありますか?」


林「それは『泡盛』ね。そもそも何がやけ酒よ。私たちまだ未成年だから飲めないでしょ。店員さん、ごめんなさい。はぁ、もう変なこと言うの止めてよね!」


森杉「18歳で成人ってことになったよね? お酒は違うの?」


林「そうよ。今年受験なのに大丈夫そ?」


森杉「問題ない」


林「進路どこだっけ?」


森杉「ハーバード大学」


林「いや、それはかなり『盛り』過ぎ。で、本当は?」


森杉「東京大学」


林「それも『盛ってる』と言いたいところだけど、森杉君は全国共通テストで全教科全国1位だもんね」


森杉「うん。全教科100点取ったら、たまたま1位になった」


林「それはたまたまじゃないのよ。あー羨ましい」


森杉「おっ、来た来た! ラーメン美味そう!」


林「だね。にしても、実物を見ると盛りに盛ったわね、そのラーメン」


森杉「確かに。いざ食べようとすると、た、食いにくい……」


~{林ナレーション風『数分後、私たちは麵を啜りに啜って器の中身を空にした』}~


森杉「ごちそうさま」


林「ごちそうさまでした。美味しかったわね」


森杉「お腹いっぱいで死にそう」


林「バカみたいにトッピングを『盛る』からよ」


森杉「マジで少しってくれて助かった」


林「ま、まぁ残すの見越して私はあっさりした醬油ラーメンにしてたし」


森杉「流石、我が親友!」


林「ちょ、勝手に友達から親友に『盛らない』でよね!」


森杉「……」


林「ねぇ、急に口ご『もって』どうしたの?」


森杉「し、親友じゃない……って」


林「ちょ、そんな、そんなあからさまにテンション『盛り』下がらないでよ。今のは冗談というか何と言うか」


森杉「もう今日帰ったら部屋から出ない。絶対に出ない」


林「『引きこもり』になる『つもり』!?」


森杉「もちろん林が学校休んで面倒見てくれるよな?」


林「私に責任を『持って』『子守り《こもり》』をしろって言うの?」


森杉「そうだよ。だって、なまはげ出たらどうする? 死ぬよ!?」


林「ここは秋田じゃないから。後、死なないから安心して」


森杉「だとしても、もしかしたら泥棒が入ってきて、それで――」


林「もー、分かった。分かったわよ! 私たちは親友。これでいいでしょ?」


森杉「今はそれでいい……いいことにしといてあげる!」


林「何よ、そのツンデレヒロインみたいな反応。はぁ……キモ」


森杉「り」


林「何で罵倒を了解してるのよ。本当に意味分からない。それより今日、ご飯に誘った理由って何なの?」


森杉「一つ聞きたいことがあって」


林「え、何その声のトーン。怖いんだけど」


森杉「何で林は僕が『盛る』といちいち反応するのかなーって思ってさ。聞きたかったんだよね」


林「え、それは……なんかツッコみたくなるというか。んー考えたこともなかったかも。でも、急にそんなこと言い出してどうしたの?」


森杉「いや、自分も『盛り』に『盛って』るのに、よく毎回反応出来るなと思って」


林「私が『盛って』る? いつ?」


森杉「今も化粧で顔を完全に『盛って』る」


林「それは私だって女の子だし!」


森杉「胸にパットを6枚も入れてる」


林「なっ、何でそれを知ってるのよ!」


森杉「クラス女子が言ってるのを耳にした。パット6枚も入れて胸筋凄くなりそうだね」


林「これは『おもり』じゃないから。はぁ、最悪……」


森杉「『おもり』じゃないなら何なの?」


林「胸を大きく見せてるの! 森杉君が言う通り『盛って』るのっ!」


森杉「なるほど。そんなに怒らなくていいのに」


林「恥ずかしいのよ」


森杉「そう恥ずかしがることはない。平家へいけの一族の名前には『盛り』がよく付いている。だから、別に林が盛ってても恥ずかしいことじゃないよ!」


林「ねぇっ! 勝手に私を平家の一族にしないで! 確かに平家の一族には、平敦盛たいらのあつもり平兼盛たいらのかねもり平清盛たいらのきよもり平維盛たいらのこれもり平貞盛たいらのさだもり平重盛たいらのしげもり平忠盛たいらのただもり平知盛たいらのとももり平教盛たいらののりもり平頼盛たいらのよりもり……そして平宗盛たいらのむねもりがいるけどさ!」


森杉「詳しすぎないか? 僕でもそこまでは覚えてないよ」


林「はぁ? こんなの九九を覚えるぐらい常識でしょ!」


森杉「ちょ、落ち着いて」


林「……私だって胸……欲しかった……」


森杉「成長期はこれからだよ!」


林「もう高3の受験時期なのよ? それで、コレって……」


森杉「僕は林を傷付ける『つもり』はなかった。ただ僕は林には何も『盛らない』で欲しかったんだ」


林「え、どういうこと?」


森杉「林は化粧しなくても可愛いし、胸にパット6枚入れなくても魅力的なスタイルをしている。だから、『盛らない』でほしい。ありのままの林が一番良いと思うんだ」


林「でも……」


森杉「でもじゃない! 周りが厚化粧しようが、パットを9枚入れようが、写真の加工で顔面の形から色々と修正しようが……林はそんなことする必要ない。そのままが一番良い。一番魅力的だ!」


林「な、何なのよ。急に……」


森杉「僕は林が……好きだ。そう『盛らない』。ありのままの君が好きなんだ」


林「ま、待って! 急展開すぎるから!」


森杉「だから、僕と……僕と! 結婚してくださいっ!」


林「おいっ! 『盛る』な! 段階を1個、いや、6個ぐらい飛ばしてるからっ!」


森杉「ん?」


林「私たち、まだ付き合ってもないから」


森杉「それもそうだった」


林「後、付き合うとしても条件がある」


森杉「何?」


林「森杉君の『もり』をどうにかしてほしい」


森杉「うん、分かった!」


林「い、意外と聞き分けがいいわね」


森杉「じゃあ僕は今日から『森杉』。改め『杉』になります!」


林「ちっがぁーう! 今のはそういう意味じゃないからっ!」


森杉「え?」


林「はぁ、まあいいか」


森杉「なんか納得してくれた。ってことは正式に結婚――」


林「じゃなくて、お付き合いからだから! そこ『盛らない』で!」


森杉「でもさ、いずれは結婚するでしょ?」


林「色々と早いから。それは今後次第って感じ」


森杉「そっか。とりあえず親友から彼女になってくれて嬉しい」


林「そ、それは良かったわね。え、えっと私、付き合うとか初めてで分からないけど、こ、これから、よろしく、ね?」


森杉「うん! 一生『守り』ます!」

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【声劇台本】森杉君のXデー 三一五六(サイコロ) @saikoro3156_dice

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