第3話 邂逅 Beginning③
先頭にいたスプリガンが襲いかかる。僕は雷切を抜き、トアンはライフルを構えて迎撃する。
トアンは地下洞窟に入る前に仲間達の死体を漁って予備のマガジンを補充していた。だから多少な援護できるだろうが、それでもこの数のスプリガンに対してはジリ貧だ。早く脱出の手立てを見つけないと僕達はここで大量のスプリガンに身体を貪り喰われることになる。
「ネモ、出口が塞がれた。何か方法は無いか?」
僕はネモに助けを求める。僕が危機的状況に陥っても普段から平然とした様子のネモだが、
『今、ノーチラスをお前の上空に待機させている』
と、文字通りの助け舟を用意してくれていた。
『ノーチラスの主砲で穴を開ける。落石に注意しろ』
随分と荒々しいやり方だがこの状況ではそんな文句も言っていられない。むしろ数万体のスプリガンが迫って来ているから早くしてくれという気持ちだ。
5秒後に天から光が降り注いだ。光の柱が天井を割って現れたのだ。その柱は天井と地下の遺跡をバターを溶かすかのように焼き溶かしてしまった。光が収縮した後に残っているのは円柱型の穴だけだ。そこにあったものは綺麗さっぱり焼き払われている。
見覚えのある光だった。僕達が乗る宇宙船、ノーチラス号に取り付けられている主砲が放つ巨大ビームだ。ビームは僕達から少し離れたところを貫いていたが、仮に僕達にビームが直撃していたら今頃肉片も残っていなかっただろう。
ノーチラスの主砲のおかげで遺跡の天井に穴が空いた。外からの光も差し込まれ、遺跡全体が明るくなる。穴からはノーチラスの姿も確認できる。
あそこまで行ければ僕達の勝ちだ。
僕達は遺跡の中で一番の高さを誇る塔を目指した。外壁の出っ張っている部分を足場にして駆け登り、塔のてっぺんまで行く。ここからならばAESの背部スラスターの噴射による飛翔機能でギリギリノーチラスまで辿り着く。
下を見るとスプリガンが鮨詰めになりながらジリジリと塔をよじ登っている。その様はまるで荒波。もたもたしているとこの建物もその波に呑み込まれてしまいそうだ。
悠長に構えている時間はない。僕とトアンは背部スラスターを展開してエンジンを起動させる。突如として現れる浮遊感。人類は西暦3000年の時代に入り、人は飛行機や気球以外で空を飛ぶ術を獲得した。
制限時間付きの限定的なものであるが、この遺跡から抜け出すだけなら、それで事足りる。僕達は背中部の推進力を頼りに地から足を離して飛び立った。
空を飛ぶ術を知らないスプリガンは自らの手では届かない所へ飛んでしまった獲物を呆然と眺めている。奴らに悔しさとか後悔という感情はない。ただこの一帯で一番近くにいる獲物が僕達だからずっと気配を追っているだけだ。やがて僕達が探知可能圏外に離れたら途端に興味を無くすだろう。
ビーム砲の穴から遺跡の外に脱出した際、僕の背筋に悪寒が走った。さっきのスプリガンではない、また別の脅威を感じ取った。
周囲に目をやると、まさに一つの何かがトアンに迫ろうとしていた。凄まじい速度で飛翔するその物体にトアンに気づいていない。僕は背部スラスターの方向を切り替えてトアンに向かう。雷切を抜いてその物体を斬りつけた。続けて迫ってきた3体の高速飛翔体に千鳥を投げて雷撃する。大きな爆発音と共にそれは地面に落ちた。
スプリガンには様々な種類がある。元々は同じ生命体だったがオルタナティブを護るために一部の個体の身体の形状が変化したと考えられている。トアン達を襲ったり、遺跡に大量に現れたのはスプリガンの中で最も数が多いオーソドックスな個体、ヴァンガードはハンターと呼んでいる。そしてトアンの周りを飛んでいたのは空を飛び回るヴァンガードに対抗するために背中部分が進化しAESのようにスラスターのようなものが生えたスプリガン、インジェクターだった。
インジェクターがざっと見た感じで30体以上いる。遺跡の入り口が狭かったから背部に大型スラスターが付いているインジェクターは遺跡の来ることはできなかったのだ。。だから遺跡の外で待機していた。結果それが僕達にこれ以上無い不意打ちを与えた。
インジェクターの戦闘に時間を掛けていては背部スラスターのエネルギーが切れてしまう。ここは僕とトアンのうち、どちらかが囮になって時間を稼ぐしかない。そして近接戦特化の僕の方が囮役に向いている。
背部スラスターを噴射し、前方のインジェクターに斬りかかる。その流れで地面に着地する。
「トアン、君はノーチラスへ向かえ! ここは僕が囮になる!」
『分かったわ!』
残弾の少ないライフルを持つ自分よりも弾切れ無しの刃物を扱う僕の方が敵の目を引くのに適しているとトアンも判断したのだろう。この場を僕に預け、一足先にノーチラスに向かう。
トアンの背中を追うインジェクターに千鳥で誘導した雷撃を浴びせ自分に注目させる。
インジェクターは飛翔能力を有したハンターだ。だから基本的な戦闘能力はハンターと遜色無い。だから数がそこまで多くないインジェクターなら処理に困ることはない。
だが、背後から蹄で大地を駆けるような足音が聞こえてくる。この星に馬なんていない。当然考えられるのはあいつだ。
僕は後ろに振り返る。するとスプリガンの一種、スプリンターが群を成して僕に目掛けて行進していた。スプリンターはギリシャ神話に登場するケンタウロスのような姿形をした個体だ。上半身はハンターと同じ人間に近い体をしているが、大きな違いは下半身だ。下半身にある6本の足で大地を駆け抜ける。時速80キロメートル程のスピードで疾走するため普通の人間ならば逃げ切ることはできない。
ハンターやインジェクターとは違い、伸縮性のある腕を伸ばして僕に掴み掛かる。それを紙一重で避けて腕を斬り落とす。スプリンターは全く痛がる素振りを見せずにもう片方の腕を伸ばす。僕は飛び上がってそれを避け、重力の流れに任せるようにスプリンターを一刀両断した。スプリンターは活動を停止する。僕はそのままスプリンターの進行方向とは逆方向に降りた。スプリンターはその大きな図体が災いして方向転換が得意ではない。その弱点を利用して体勢を立て直した。
スプリンターはハンターとは違って倒すのが一苦労だ。身体がハンターの倍近くあるから余計にタフなところや、猛スピードで突進してくるから回避してから攻撃しないとならない。スプリンターの突進をまともに受けると流石のAESにもダメージが入り、最悪の場合活動に支障が出るだろう。
地上にはスプリンターで上空にはインジェクター、両方から挟み撃ちされたような格好だ。おまけに遺蹟の大穴からは別のスプリガンがわらわらと地表に出て来ている。遠くには灰色が蠢いている。そういう色の土地かと一瞬錯覚するが、あれは紛れもなくスプリガンだ。刻一刻とまずい状況になっていた。
再びスプリンターの軍団が襲いかかる。僕は千鳥を抜いて構えるが、次の瞬間先頭のスプリンターの頭が破裂して倒れた。次いで近くにいた個体の頭部が爆散して制御を失った肉体が地面に伏す。ダンッという破裂音が2回聴こえた。誰かが発砲したのだ。僕はノーチラスを見た。するとノーチラスの側面ハッチが開かれ、そこからトアンが顔を覗かせている。彼女の手には巨大なスナイパーライフルが握られている。彼女が援護射撃をしたのだ。
『ハル、今のうちに!』
トアンが前方のスプリンター集団を足止めしてくれている。この隙を逃す手は無い。僕は急いで行動に出た。
僕が向かったのはさっきやっとの思いで脱出した遺蹟の大穴、あそこには既に大量のハンターで溢れかえっていて、その数で大穴を塞ぎ込んでいる。まるでワイングラスの口を封するコルクのように。
ハンターは僕に反応して、僕に向かって駆け出す。僕は足腰に力を入れ、勢い良く大地を蹴り上げた。僕のイメージに反応した武御雷が脚部にエネルギーを溜めて放出する。僕は5メートル近くジャンプした。凄まじい瞬発力だが、ノーチラスまでには全然高さが足りない。しかもノーチラスの周囲には無数のインジェクターが飛び交っているからそれもどうにか対処しないといけない。無理難題のように見えるが、僕には秘策があった。
足元のハンターの群れが軍隊蟻のように群れを成し、それが塊となって僕に迫ってくる。意思を持った化け物の腕みたいだ。普通の人なら恐怖で顔を真っ青に染めるだろうが、あいにく僕はそれを待ち侘びていたのだ。僕は腕のように伸びたそれに一瞬だけ着地する。ハンターの腕が僕の足を掴むが、僕は気にせず次の動作に進む。
腰の鞘に収まった雷切の鞘を軽く握り、構える。居合の構え、僕の秘策は抜刀術だ。
狙いはノーチラス、正確にはそこまでの道程を邪魔するインジェクター達。奴らは一直線に僕に向かって来ている。狙い通りだ。
僕は足腰に力を入れる。イメージはさっきのジャンプとは大違いだ。通常上から下に落ちる雷が下から上に突き抜けていく、そんな速度のイメージ。
それに呼応して足元に大量のエネルギーが放出される。雷と化したエネルギーは、僕の足を握っていたハンターの腕を容易に吹き飛ばした。
僕は誰にも聴こえない小ささで呟く。僕のとっておきの奥の手を。
「紫電一閃」
その瞬間、怒号と共に僕の眼前にいた敵は文字通り瞬く間に両断された。僕の障害となる敵は消え去り、眼前にはノーチラスのハッチが広がっていた。
紫電一閃は武御雷と雷切によって生み出される抜刀術だ。通常では目視不可能の速度で大地を蹴って移動し、その俊足に合わせて刀で斬るという単純明快な業だ。ノーチラスの付近にいた敵を呼び寄せ、紫電一閃でまとめて薙ぎ払ったのだ。
そのままスラスターを起動して、ノーチラスに乗り込む。僕が乗ったのを確認すると、ネモはノーチラスのエンジンをフル稼働させた。高速で移動するノーチラスは付着していたインジェクターを振り払う。ノーチラスは惑星Lv428を後にした。
終わりゆく世界のインヴォーカー〈たった1人の家族を守るために、僕は世界と敵対する〉 春出唯舞 @kdym0707gits
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