第22話 壁、薄いよ


「戦場に来たな」


 放課後、俺は一通り買い物を済ませると、錦木家へとやってきた。

 手入れされた綺麗な庭、レンガ調の塀、洋館のようなデザインのような一軒家。

 まるでお嬢様が住んでいるような家であった。


 スポーツドリンクは買ったし、冷えピタもある。そして、手錠までちゃんと買った。

 これで準備は万端なはずなのに……


「これ押すのに勇気がいるな」


 この家の中で起きることは想像できない。未知の恐怖が俺を襲う。

 でもこれは恋のため……傍にいるためにも、一歩踏み出さなければならない。

 深く深呼吸をすると、俺はインターホンを押した。


「今開けるから待ってて~」


 そわそわとしながら待っていると、インターホン越しから愛ちゃんの声が聞こえる。

 本当は恋に出迎えて欲しかったが、それは傲慢すぎる。


「いらっしゃい~。どうそ入って~」


「お邪魔します」


 満面の笑みで俺を出迎える愛ちゃんに、俺は警戒しながらも玄関の中へと入る。


「外観でも思ってたけど、広いな。そして綺麗」


 白を基調とした洋風なデザイン。隅々まで手入れされている室内に俺は思わず感激してしまう。


「親が綺麗好きでさ~、そこら辺にものを置くとすぐ怒られちゃうんだよね~」


「片付けは大事だぞ」


「ちょっとくらいいいと思うんだけどね~」


 どうやら親は厳格な性格らしい。

 ……こう聞くと、どうしてキチンとした両親に2人とも育てられているのに、ここまで性格に落差が出るのか不思議に思う。


 恋を見ていると、親もきっといい両親に違いないと思うが、愛ちゃんを見たら、親も親だ……と内心思ってしまった。

 双子なのに、この違いはなんだ? 普通双子って性格も似るはずなのでは?


「お姉ちゃんの部屋2階だから」


 そんなことを考えていると、愛ちゃんは恋の部屋へと案内する。


「あ、あぁ」


「ちなみに、私の部屋はその隣だから」


「要らない情報をありがとう」


「これからこの部屋に上がることもあるだろし、知っておいた方がいいんじゃない?」


「なんでお前の部屋を知る必要がある」


「2階の部屋、壁薄いよ?」


「……有力な情報をありがとう」


 ニヤニヤとする愛ちゃんに、俺は苦笑を浮かべる。


 もし、これから家に上がる機会があるとしてもエッチはしないようにしよう。

 いつも元気がいい恋は、エッチの時も声が大きいからな。声を控えめにと言っても我慢出来ず、ちゃんと喘ぐだろう。


 しかも、横の部屋で愛ちゃんが壁にグラスを当てて、盗み聞きをするかもしれない。というか先に壁が薄いことを伝えてくるということは、聞く気満々だ。

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彼女と勘違いして双子の妹に手を出してしまった。 もんすたー @monsteramuamu

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