第50話 最終話

 安藤が帰って、武智と伴が応接室に戻って来る。


 「伴! ドアーを閉めろ」

 「あ、すいません」


伴はドアーを閉めソファーに座る。

武智が伴を見て、


 「おい。今、俺がここで話す言葉は記憶にない話だからな」

 「え? あ、ハイ。・・・しかし、凄いですねえ~」

 「何が?」

 「いや、武智さんは」

 「うん? ・・・うん」


武智は伴をジッと見詰めてニヤッと笑う。


 「そりゃー、オメーとは違うよ」

 「・・・あれって、千万だったんじゃないですか?」

 「うん? そうだったか?」


武智は伴を鋭い目で見る。


 「オメーも聞いてたろう。選挙が近けえんだよ。ナリフリ構わずゼニを集める! これが俺達の仕事だ」


伴は感心したように、


 「武智さんて途轍(トテツ)もない詐欺師ですね」

 「サギシ? 失礼な事いうんじゃない。俺は誰も騙(ダマ)してねえぞ」

 「え? ・・・まあ・・・ですね。でも相当、ヤバイ仕事じゃないですか」

 「デキル秘書て言われてるヤツは皆んなこんなモンよ」

 「でも〜・・・」

 「良いか。すべて、この仕事は未必でやってるんだ」

 「でも」


武智が怒る。


 「うるせえぞ、デモデモって。デモは会館の外でいつもやってるよ」

 「いや、でもこう云う事は本当に犯罪じゃないんですか?」

 「ハンザイ?・・・オメー、本当にそう思うか?」

 「え? ・・・まあ」

 「犯罪だと思うのなら、この部屋(狢の部屋)から出て行く事だな」

 「しかし・・・」 

 「今度はシカシか。オメーなー、冴(サ)えねえ頭や理屈で物事を考えたらダメだぞ。俺は誰にも迷惑は掛けてねえと言ったろう。オヤジが上手(ウマク)く上に上がれれば良いだけだ」

 「・・・?」 

 「伴。俺が最初に言った言葉を覚えているか? 政治屋をやって行くにはジバン・カンバン・カバンだ。秘書の仕事とは光り輝く菊花のバッジを、裏で支えて行く事。泥まみれに成るのよ。あんな風に見えても、安藤さんも昔は仕事がデキル秘書だった。しかし、出来過ぎて金庫番を辞めさせられたんだ。・・・詰め腹を切らされたのよ」

 「え!? ツメバラを?」


武智は伴を見る。


 「・・・自分のオヤジを大臣までする事は容易なもんじゃね」

 「実力でしょう」


伴の投げやりの良い方に、武智が憮然と、


 「何だその言い方は!」

 「あ! すいません・・・」

 「大臣の椅子は高(値段)けえーんだ。組閣の前には派閥内で実弾(金)の撃ち合いだぞ」 

 「そうなんですか」


武智は伴の真似をして、


 「そうなんですよ。・・・オマエもそろそろ、うちの陣営を知っといた方が良いな」

 「ジンエイ?」

 「オメーや相原みてえな秘書達は表に出ているデフェンスだ。この仕事はフォワードもセンターもバックも居なければ出来ねえ。安藤さんはオヤジのバックを守る男だ。『影の私設秘書』よ。言わば、ダーティーな所を引き受けている影武者だ」

 「へえー」


武智は伴を見て、


 「おい。背広と靴でも見て来い!」


伴は驚いて、


 「ええ! 今度は本当でしょうね」

 「ベルサーチでもアルマーニでも、秘書は食わねど良い物を着るんだよ。良い背広を汗だくにするんだ」

 「いや~、本当に勉強に成ります」

 「バカ野郎! あ、そうだ。明日、総理が広島のG7から戻って来る。上がるぞ」

 「アガル?」

 「株だよ、カブ!」


武智は応接のドアーを少し開けて、


 「高木くん、自工(自動車工業会)の濱田さんに電話してくれる」

 「あ、はい」


 公用車内。

突然、中尾先生の内ポケットのスマホが鳴る。

スマホを取り出す中尾先生。

先生は優しく。


 「はい」

 「武智です」

 「・・・分ってる! 結論は」

 「今月中に大二本(二千)入ります」


中尾先生は眼を丸くして、


 「おお! 大きいね。一本釣り?」

 「転がしてます」

 「ッてことは、洗ってあるわけね。細かく割らないとダメですよ」

 「安藤さんが中に入ってますから」

 「おお、それは安心だ。ヨシ! これで力が付いた。ご苦労さんね」


スマホを切る中尾先生。

内ポケットに仕舞いながら、自分に気合を入れる中尾先生。


 「ヨ~シ!」


相原は運転席から、


 「何か言いました?」

 「うるさい! バカ者。誰に口を聞いてる!」

 「あ! すいません」


先生のスマホがまた鳴る。

先生はまた優しく。


 「はい」

 「伴です」

 「分かってる。何だ」

 「自工の濱田さんが喜んでました。ほとんどの自動車株が一斉に上がりました。そうとう儲けたみたいです」

 「そう。・・・もう動いたの? で、十月のパーティーの件、話したでしょうね」

 「ハイ。一応、三十枚と云う事です」

 「バカ者! そんな弱気でどうする。儲けさせておいて三十枚とは何事だ! 今直ぐ二袋置いて来なさい」


伴は驚いて、


 「え! フッ、フタ?」

                     

 私小説をお読み頂きありがとうございました。この内容はほんの一部に過ぎません。この小説から色々な事を読み取って頂ければ幸いです。政治?は大きなお金の動く所には必ず介入してきます。それは地方自治体の長にまで繋がっています。そして、お金の見返りに大きな仕事を付ける事が出来るのです。それは権力の『具現化』です。世界はこの様な『仕組み』に成っているのです。

                          終わり


 『そんな事、分かってます』


表面だけを軽く読んでしまうと『つまらない小説』です。が・・・。

裏側はお金と票なのです。


 利権、汚職、請託、受託収賄、強要、談合・・・。

まさに、コレ等の単語は政治業(政治業)から派生して行った言語です。


ところが昨今、日本国の司法では『ある時期から』この政治業が擁護、忖度、隠蔽される様に成ってしまったのです。

仮に法に触れても分からなければ、いや分かっても(記憶に無い)、それで済んでしまうのです。犯罪者は居ないのです。まさに仕組や方法を操るのが政治業(権力)に成ってしまったのです。『事務方では自殺する議員』も居なくなりました。

 日本の退廃政治。

コレからも、沢山の政治に絡んだ『悪行』が出て来るはずです。

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狢(ムジナ)達の部屋 具流次郎 @honkakubow

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