第2話 姉妹の救出、聖なる光

さて、戦って助けるとは決めたわけだが。

ぶっつけ本番的な戦闘ゆえ、どう転ぶかはわからない。

下手するとテルと女騎士、その妹もみんなが殺される。


外からザーザーと雨音が響く。

窓の外のサザ降りの雨を見ながら思いついた。


「そうだな…転移と水の合わせ技でいこう!」


自らの思いつきから先の展開をイメージしていると、女性の悲痛な声が聞こえてきた。


「お願い!お願いだから!妹は許して。手を出さないで。私は貴方達の奴隷でいいから!娼婦として何でもするから!お願い…お願いします…」


女騎士の声だ。

その声の後には不快な嘲りの声が聞こえる。

2体のオークだ。


「そうだよなぁ、大事な可愛い可愛い妹だもんなぁ。じゃあ是非ともお姉さんの前で可愛がってやらんとなぁ」


「姉の前での経験ってのもオツなもんだよなぁ。クク」



「…!っ貴様らぁっっ!!」


怒りで激昂し声を荒げる女騎士。

今出せる精一杯の力で拳を突きだす。

だが、弱りきっているその体には本来の力とは程遠い微力な魔力しかなく、オークに当たるもまるで効いていない。


逆にオークの拳が腹に入った女騎士はその場に倒れこんだ。


「まったくよう。半年もの間、俺らの下の世話しかしてなかった体で戦えると思うか?いいから大人しくしてな。今夜から妹ともども可愛いがってやるから」


下衆な奴らの声、啜り泣く女騎士の声。

聞くに耐えない。今この時、動くべきか。


先ほど今夜相手にするオークの部屋にボブの赤い髪の少女が入れられたはず。


先ずはそこへ向かうか。


トントンとノックすると「来るな!来んなよ!汚らわしい!」と少し怯えながらも強気な声が響いた。


「しっ!静かに。俺は清掃係の者です。安心して。今開けますね」


そう言って声が止むとガチャンと鍵を開けて中に入った。


姉の女騎士より、やや背が低く、髪は肩にかからないくらいの赤い髪。

細身ではあるがつくべき筋肉はついている。

それなりに鍛えているようだ。

服は戦闘用のようだが、破けていて乱暴に扱われたのがわかる。

まだ警戒していて、こちらを睨んで身構えている。


「あんたもあんたよ。あんな奴らの言いなりになってさ。どうせ掃除が終わったら奴らを呼ぶんでしょ?」


強気ではある。けどその声も体も震えている。

力の差を見せつけられて心折れそうなのだろう。



「いや、ここを出ようって誘いにきたのさ。勿論、君のお姉さんもこの後に迎えにいくよ」


テルの言葉は少女にとっては意外なもの、そして非現実的だったのだろう。

一瞬、驚いた後、少女は声をあげて笑った。

そして怒気を孕んだような声でテルの言葉を否定した。


「馬鹿じゃないの?できるわけないじゃない。ただの清掃係が。オークとオーガ、そのバックには魔族よ!?逃げられるわけない!」


このアジトにはオークしかいないが協定を組んでるのは確かだ。

でも、まぁそう思うよな、という感じにテルは小さくタメ息を吐きつつ、少女を担いだ。


「!?…ちょっと!降ろしなさいよ!」


暴れて喚く少女の言葉に耳を貸さず、ハイハイとあしらい、そのまま部屋を出る。


スタスタと歩いてさっきの女騎士の部屋の前に行くと…オークの気配がした。


通常はオークの部屋にて行為は行われるのだが、気まぐれに女騎士の部屋ですることになったようだ。


「たまには女の部屋を汚してみようかと思ってな。しかしお前に相手してもらうのは何度目だったか。人間は我々とだと孕みづらいというのは本当らしいなぁ」


「いいから、さっさと済ませて出ていって。気分が悪いの。今日は特に」


女騎士は先ほどの妹の話でメンタルが相当やられているようだ。


「今助けるから」

テルがそう小さく言って妹を一旦降ろす。

すると、妹がバタンとドアを開けてオークに食ってかかった。


「姉さんに触るな!醜いケダモノが!!」


テルは「いや不意討ち台無し!!」と心の中でツッコミつつ、妹が飛びかかるのを制止した。


「離せ!よくも姉さんを!汚らわしい!殺してやる!」


「気持ちはわかる!わかるけど助けたかったら抑えて!」


このやり取りの間にオークは巨大な斧を携えてこちらに向かっきていた。

しかもよく見るとオークの長、オークロードである。


「うわ、初戦がこれかよ!」


女騎士姉妹という荷物付き、戦うはオークロード。

恐らく部下も駆けつける。多勢に無勢である。


とにかく、今はここを脱する。


「ごめん!」


妹戦士を抱えて窓から跳んだ。8階ほどの高さ。


「何してんのよ!姉さん!」


オークロードの後ろにいた姉の女騎士を置いて一旦は外に逃げる。


そして落ちる中で術式で地面スレスレのところに水を集めてクッションのように構築した。

ふよんとその上に仰向けに落ちると、転がるように妹戦士は地面に降りた。


そして怒鳴る。

「姉さん置いて逃げるなんてどういうつもり!?結局勝算ないまま適当なこと言ってただけなんじゃないの?」


耳がキンキンする。

姉の騎士とは性格がだいぶ違うように感じる。


「勝つために一瞬引いたの!ここからが本番だよ」


そこへズンッと地鳴りが響く。


テルが割って跳んだ窓を壁ごと破壊してオークロードが飛び降りてきた。


「貴様、清掃係の小僧ではないか。どういうつもりだ?いち平民の人間に過ぎなかったお前ごときに何ができる?さぁ女を返せ。そうすれば骨を2、3折るだけで許してやってもいい」


アジトの中からわらわらと部下のオークも姿を表す。

全員ではなさそうだが。


「いやいや、いい感じの雨降りだなぁ。魔術日和だ!」


テルはそう言うとパチンと指を鳴らした。


空気中の雨粒が全て止まる。さらに降り注ぐ雨も次々と止まっていく。

その空間すべての水に魔力を付与して強化する。


空気中の雨粒は弾丸のように部下のオークを穿つ。

その場にいたオークはロードを除いて被弾して倒れた。


「うし!とりあえず成功!!」


ガッツポーズからの次の術式を展開しようとするとオークロードは怒号とともに巨体のわりに素早い動きでテルに迫り、胸ぐらを掴んだ。


「清掃係風情が!やってくれたな。駒が大量に減ってしまったではないか」


駒。やはり仲間意識は皆無らしい。


「お前らにはわかんねぇよ。俺達が人を助ける理由も気持ちも。人間は物同然、同族ですら駒だなんてな。可哀想すぎて反吐が出らぁ」


そして本当に反吐、いや唾を顔面目掛けて吐いた。

その唾液にも魔力を付与、つまり弾丸である。

その一撃はオークロードの右目に命中した。

痛みでテルの胸ぐらから手を放す。


「ガァッ!!!ぐぬぬ…貴様ぁ!!殺す!肉片にしてやる!」



ゲホッとひとつ咳こんだ後、アジトに術式を展開する。


「こないだアジトの周りを掃除すると同時に陣を刻んでおいた。邪な力を浄化する術式『聖光』。存在自体が邪なオークどもは聖なる光に包まれた空間では無力化する。よって中に残っていたオークは奴隷にされていた騎士団員で十分に対応が可能となる」


ただし、現在のテルのレベルでは下っ端のオークにのみ有効。

ゆえにオークロードはなにがなんでも外に出す必要があったのだ。


光輝くアジトに目を奪われていたオークロード。

不気味に静かに怒り、テルに殺意を向ける。


「今の光は聖なるものだな?同胞は全て使い物にならなくなったわけだ。勘に障る小僧だ」


向かってくるオークロードに少しずつ距離を取りつつテルは話を続ける。


「聖光の効力は更にもうひとつある。邪な奴らが無力化するのに反して『聖なる力』を宿す者には回復、再生をもたらす。気づかなかった?お前らが特に気に入っていた赤い髪の騎士は…」


テルの話にオークロードは一瞬、記憶を辿っていた。

違和感。あの女騎士は半年もの間の凌辱にも自我を保ち、最後の妹のことに至るまで心折れずにいた。

いち騎士としてのプライドか、生存本能か。

否、聖なる加護の恩恵か!


赤い光が振り向き様のオークロードの視界に飛び込んできた。

炎に包まれた刃がオークの腕を切り落とす。


「ガーッ!腕が!焼き切れ…熱い!くそくそ!」


あわてふためき雨で濡れた土を傷口にかけながら目の前に立つ人影に目を向けた。


散々弄んだ赤い長い髪の女騎士がそこには立っていた。

その姿に騎士らしさはない。破けた布を胸と下半身に巻き付けただけの、さっきまで奴隷だった赤い髪の女。


だが、発している赤い光と炎は聖なる力のそれに間違いなかった。


「聖騎士…だったか。俺らと楽しんだ仲じゃねぇか?これからも可愛がってやるぜ?なぁ」

冷や汗、脂汗を流しながらオークロードは無様にこれから辿る運命を回避しようと女騎士に懇願する。


フッと一瞬笑って見せてすぐさま鋭く睨む女騎士。


「楽しんだ?気持ちの悪さと悪臭しか覚えてないわ。それにもう人質も妹も助かった。私が我慢する理由はもう何一つないの」



そう冷たく言い放つと再び剣の火力を強める。

赤々と燃え盛る炎の剣を十文字を描くように振りかざす。

クロスした炎がオークロードの体に叩きつけられた。

十字に切れたオークロードの体は炎に包まれ焼き尽くされていった。


「姉さん!良かった。無事で」


涙を浮かべ嬉しそうに妹が駆け寄ると女騎士はフラフラとその場にへたりこんでしまった。


「姉さん!?」


「大丈夫。ずいぶん久しぶりの魔術と剣だから体がついていかないみたい」


姉妹に歩み寄るテル。

「うまくいったね。どうにか…だけど。力は元通りだけど体力や怪我の全快とまではいかなかった。申し訳ない。俺の力不足」


「いいえ、あなたの魔術のおかげで助かったわ。ありがとう。私はレイナ・ベルベット。この子は妹のリナ・ベルベット」


姉のレイナが名乗り、妹の名も紹介すると「どもっ」と会釈をするリナ。


テル、レイナとも互いに無事に奴隷生活を脱し、妹含む奴隷も解放することができたわけで。

一件は落着か。


と、思いきやアジトのほうが何やら騒がしい。


奴隷、娼婦たちが怒っているようだ。

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