第1話 狂気の中の正気
狂気の国『マドネスタ』。
魔族、ゴブリン、オーク、オーガによる異種族侵攻が人間の国に向けて始まり、侵攻初日にろくでなし王のアクド・ネスタをはじめとする国の上に立つ者は皆殺しにされた。
1ヶ月経たずしてほぼ全ての人間は屈服し、異種族の支配下となった。
それから25年が経つという。
俺、テル・アルフォート(20)はこの世界での記憶は5歳からしかないのだが、前世の記憶というものがボンヤリある。
前世では地球という星の日本という国で生きていた。
名前は織田輝彦。
交通事故で命を落としてこの世界に転生した。
その日本人だった頃の記憶と感覚が残っているせいか、この世界では当たり前となってしまっている異種族の奴隷として働くという感覚には馴染めない。
だからといって今はまだ逆らうには好機とは言えない。
今動けば魔族にも伝わるだろう。八つ裂きにされて終わりだ。
だから力をつける。腕力、体術、魔術。
悟られることなく粛々と自身のあらゆる能力を高めていく。
幸い、俺には少なからず魔力があることがいろいろ試してみた結果わかった。
あとはその才を高めていく。なにがなんでも使いこなす。
そう決めた。
侵攻当時、戦士、騎士、魔法使い、魔導師の総力戦となったが異種族の力に負け、現在の有り様だ。
人間の男は異種族のためのあらゆる労働者として生かされ、女は娼婦が主な仕事とされる。
人間同士での恋愛は絶対的な御法度になっている。
が、厳選された整った顔立ちの男性だけが『種馬』として使われる。
『繁殖部屋』なる場所に呼び出され、美女を与えられ、性交を強制される。
異種族のために美しい女性の存在を維持しなければならないからだ。
生まれてくる子供が男ならば労働者として育て、女ならば当然のように娼婦として育て上げるのだ。
清掃員として吐き気のする仕事をこなす毎日だが、諦める気はない。
こんな狂った世界で第2の人生を終えるなんてごめんだ。
今の俺が知る世界はこの国マドネスタだけだ。
ここを出れば外の世界はまた違うのかもしれない。とにかく今は力をつけ、脱出する機会を伺う。
そうして、いつも通りにオークの部屋を掃除していると2匹のオークの会話が聞こえてきた。
「なぁ、赤い髪の女騎士。あの女は本当に絶品だよな」
「ああ。行為に応じるが嫌がっている。それがそそる。気は強いが従順だ。状況を弁えているんだろ」
「睨む目が苦悶に満ちていくのがたまらん」
下衆な話だ。くたばれ。絶対いつか消してやる。
更にオーク達は話を続ける。
「そうだ。今日にもあの女騎士の妹がここに入るらしい。昨日、オーガの1人が捕獲したそうだ。レジスタンスの中にいたんだと」
「マジか。まだまだ我々に逆らうそそる人間はいてくれるもんだな。ところでその妹は良さそうなのか?」
「あの絶品騎士の妹だぞ?いいに決まってる」
「へへ、楽しみだな」
!おいおい、マジかよ。悠長なこと言ってられないぞ。
オーク達の会話を聞いてしまった俺は焦った。
また新たに不幸に落ちる女性がいる。ほっとけない。
しかし、まだ魔術も完璧にできるかわからない。
正直、力試しをする暇も隙もなく、どれだけの魔術を習得しきれているのか自分自身でわかっていないのだ。
「…どうする?今日か…今日…~~っ…!!」
数分悩んだ末に行きついた答えは……助けよう。
こうなったらとことんやってやる。
頭に入ってる魔術を全部試してやる。
ぶっつけ本番で好き放題に暴れてやる。
「よし…殺るぞ!」
俺は狂ってなどいない。
正気を保っているからこそ見捨てることなどせず、1人の女のために無謀な暴走をするのである。
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