ふたりからさんにんへ

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中

ふたりからさんにんへ

「お前俺のどこが好きなの?」

「顔」

「うっわ……」

「聞いといてその反応ひどくない?」

「いやだって……自分で言うのも悲しいけど、俺の顔お世辞にもイケメンとは言い難いじゃん。相手がB専だったおかげで絶妙に好みに刺さったとか」

「言うほど悪くないのに。ていうか、あれだ。男が言う顔と女が言う顔って違うんだよね」

「顔は顔じゃん。顔面偏差値じゃないの?」

「それ男だけだよ。誰から見ても点数の高い可愛い子がいいっていう。女の言う顔ってさ、直感みたいなもんなんだよね。性格って顔つきに出るじゃん。全体の雰囲気とか、目尻の感じとか、口元とか、肌の状態とか。そういうので、経験値から人となりを一瞬で想像するわけ。それが自分の感性とぴったりきたら、好みだなってなる。まぁイケメン好きがいないわけじゃないけどね、恋に恋する若い子くらいじゃない?」

「そんなもん見てわかるのかよ」

「それがわかるんだなー。女の勘ってやつ?」

「出た、意味わからん理論」

「意味わかんなくはないよ。シャーロック・ホームズも言ってたでしょ。直感は自分で意識できないほどの速度で処理された情報なんだって。根拠は自分の経験なんだから、他人の言葉より信じられる」

「お前って頭いいやつの台詞を引用すると賢そうに見えると思ってる節あるよな」

「ぎくっ」

「それを口で言っちゃうあたりが」

「そ、そーゆーあんたはどーなのよ。あたしのどこが好きなの?」

「え……まぁ……普通に顔」

「うっっっわ……」

「おいブーメラン」

「いやそこはもーちょい頑張って嘘ついてほしかった」

「嘘って言っちゃってるじゃん」

「空気読めよぉー。さっきの話の流れで女相手に顔って言っちゃいけないのわかるだろぉー」

「じゃぁ胸」

「クズか」

「いやだって、俺ら出会ったの大学生の頃じゃん。二十歳はたちそこそこの男が見た目以外のどこを見んだよ」

「おうその正直すぎるところは評価してやんよ。でもそれって好きになったきっかけじゃないの? 今も顔だけなの? マジで?」

「や、そこはほら……お前と同じで」

「同じてなに」

「だから……顔に全部出るっていうか」

「うーーん……言葉が足りなすぎるけど、伝わったから及第点をあげよう」

「そりゃどうも」

「お互い顔が好きとか、似た者同士でお似合いじゃん。出会ったのも運命というやつか」

「ソッスネ」

「反応薄っ! 妻が運命とかロマンチックなこと言ってるんだからちょっとはノれよ」

「今更ロマンチックも何も……。まぁでも、似た者同士なのはちょうど良かったよな」

「ちょうどいい?」

「役割分担できるだろ。生まれてくる子がお前に似てたら、俺が飴でお前が鞭。俺に似てたら、お前が飴で俺が鞭」

「は? あたしに似てても溺愛するけど」

「ずっる」

「冗談。母親になったら、ちゃんと厳しく躾もしますよー。じゃないと困るのはこの子だもん。ねー」

「信用してるよ」

「任せなさい。あんたを一人前の男に育てたのはあたしだから」

「はいはい、感謝してます」

「でもあんたに似てたら、やっぱりちょっと甘くなっちゃうかも。どっちに似てるかなー。ね、どっちがいい?」

「んー……お前に似た女の子、かな」

「ウエディングドレスが似合いそう」

「前言撤回、男」

「っはは、どっちか楽しみだね」

「ま、それこそ、運命に任せるしかないな」

「そうだね。どっちでも、幸せは確定してる運命だけどね!」

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