彼が、ヒーロー
七三公平
1章 ヒーローがいる世界
第1話 気付けば異世界だった
気付くと、
――外里誠司は、前の世界では死んでいた。
会社で、まともな仕事をしない理不尽な上司の言動に、いい加減に
そこから今へと至る状況を、外里誠司は理解していなかった。だが、目の前では特撮ヒーロー物で子供の頃に見たことがあるような、戦闘が繰り広げられていた。外里誠司の横には、知らない青年がいて、二人で
「ヒナタ、向こうに走るぞ。――どうした?」
青年が、外里誠司を振り返って眉を顰める。青年に手を引かれた外里誠司が、動かなかったからのようだ。あまりにも急な展開過ぎて、外里誠司は頭が追いついていなかった。
(ヒナタ……誰だ、それ? それに、こいつも誰だ?)
手を繋いでいる青年を見て、外里誠司はそう思った。外里誠司が首を傾げていると、青年が言う。
「ヒナタ、頭から血が……。さっき、頭をぶつけた時に?」
青年が、心配そうな顔をして、外里誠司を見る。そして、青年が奇妙なことを言う。
「軽い傷なら、いつも自分で治癒できているだろ。治せないのか?」
「治癒?」
外里誠司は、自分の頭に手をやった。指に、血が付いていた。
――頭に、怪我をしていることを意識すると、なんだか治せそうな気がした。今までに味わったことのない不思議な感覚が、体にあった。治癒……それを意識すると、頭の怪我が治っていくのが、自分で感覚として分かった。
「治ったみたいだな。走れるか?」
「まあ、……。」
外里誠司は、とりあえず青年に付いて行ってみようと思った。自分の理解の及ばないことが、周囲で起こっている。それを把握するには、青年から話を聞く必要があると、外里誠司は考えた。
足元を見ると、自分がスカートを穿いていることに気付いた。それだけではない。いつもはあるモノが、無い感覚がした。股を触ってみると、それは綺麗さっぱり無かった。そこで、外里誠司は自分が女になっていることに、気付いた。
股が、やけにスース―する。青年の後に付いて走りながら、いったい自分に何が起こったのかと、外里誠司は考えを巡らせていた。性別が変わってしまっていることは明らかで、周囲で繰り広げられている状況も……騒動なのか紛争なのか、ニュースなどで一切見たことがない事が起こっている。
今、頼れるのは目の前の青年だけだった。建物の陰に隠れ、何者かに見つからないように移動を続ける。
「どこを目指してるのかな?」
外里誠司は、青年に聞いた。青年は、後ろを確認して、移動を続けながら返事をする。
「とりあえず、出来るだけ離れないと。その後は、ここだと……自分道場に向かうのが良いかもしれない。」
目的地があることを聞けた外里誠司は、ひとまず青年に従った。一息つける場所に行って、青年から話を聞きたかった。
「ここだ。入ろう。」
とあるビルの狭い階段を上がると、三階に目的の場所があった。扉には、『自分道場』と書かれている。中に入ると、小さい事務所のようになっていて、事務員らしき四十代くらいの女性が一人いた。
「あの、
「奥にいます。」
「そうですか。インサニティが街に現れて、その騒ぎから俺たち逃げて来たんです。しばらく、ここに居てもいいですか?」
「ええ、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
青年が女性とやり取りする様子を、外里誠司は青年の後ろから見ていた。インサニティ……どうやら、それが騒ぎの原因らしいことを、外里誠司は理解した。外里誠司も女性に頭を下げて、青年と奥へ進んだ。
小さい事務所の奥に、もう一つ部屋がある。そこには、ほとんど物が置かれていなかった。壁際に、段ボールが積み上げられているくらいであった。その部屋に、舵浦なのだろう青年と同じくらいの年齢に見える、若い男がいた。
「舵浦さん、お疲れ様です。」
「おう、白石。どうした?」
「インサニティが出て、逃げてきたところです。」
舵浦は、青年を白石と呼んで、青年の後ろにいる外里誠司のことも見た。外里誠司は、黙って二人の会話を聞いていた。白石は、インサニティが現れた時の状況を、舵浦に話して聞かせた。
舵浦という男は、どうやらヒーローをやっているらしい。舵浦は、白石の中学校の先輩で、白石もヒーローを目指しているということのようだった。ここは、外里誠司がいた世界とは、どうも異なる――という事実を、外里誠司は二人の会話から知った。
この世界では、社会を乱す悪の存在としてインサニティがいて、インサニティと戦う者たちとしてヒーローがいる。話から察するに、そういう事だった。そこまでは分かったが、問題は――ここが外里誠司のいた世界とは異なる、という事実である。そして、今の自分はスカートを穿いていて、女になっている。その自分自身のことすら、分からない……そんな状況であった。
彼が、ヒーロー 七三公平 @na2-3
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