第4話 輝きはじめた夢

その夜、私は夢の中で不思議な体験をした。


なんと眠りについた私の前に突如としてキラちゃんが現れた。


彼女は10年後の大人の姿ではなく、私が心を踊らせていた魔法少女として活躍していた10歳くらいの容姿をしている。


でも、格好は不思議と大人の姿だ。


ピンク色のドレスを着て、羽をモチーフにした王冠を頭に載せている。


驚いた私にキラちゃんは微笑みながら告げた。


「りんちゃん、私がここに来たのは私をずっと応援してくれたあなたの願いを叶える為です」


私は驚きながらも彼女の声に耳を傾けていた。


すると、キラちゃんは私に近づき手を握ってきた。


暖かい。


夢の中のはずなのにとても暖かい……もう忘れてしまっていた両親以外の人の手のぬくもり。


「あったかい……」


言葉を口にしたら、自然と目から涙が溢れていた。


そんな私の頭を優しく撫でると彼女は語り掛けてきた。


「りんちゃん、あなたの中には幼い頃から抱いていた夢が封印されています。りんちゃんの夢は他人の為に生きることではなく、自分自身のために生きることのはずです思い出して下さい」


彼女の言葉に心が揺れていた。


確かに、私は人のために生きることに慣れていた。


もう当たり前過ぎて、違和感すら感じなくなっていた。


それにもうそれでいいと諦めていた。


だから、変われないし変わろうともしなかったのだから……。


でも、キラちゃんが言うには私はまだ諦めきれていないようだ。


あんなにヒドい目にあってきても、からっぽでも、心の奥底では足掻こうとしているらしい。


なんていうか、往生際が悪い……30にもなってまだ夢を見ようとしているなんて。


親の気持ちや一般的に考えたら卒倒レベルだ。


嫌気が差す。


こんな夢まで見て……。


キラちゃんは、そんな私を前にして諭すように話を続けた。


「りんちゃん、もう一度好きなことを思い出して。自分の心に従って? そこに本当の幸せが待っているはずです」


彼女は塞ぎ込む私の手を強く握ってきた。


暖かい……やっぱり暖かい。


キラちゃんの小さな両手から、からっぽの心に暖かい何かが流れ込んでくるのを感じる。



――その瞬間。



私の頭の中にはっきりと今まで抱くはずだった自分の夢が流れ込んできた。


フィルムを高速で回すように、その場面が明確にカラフルに色づいていく。


私は歌を唄うこと、アニメや漫画の世界に浸ることが大好きだった。


それは私が本当の自分であり、一番輝く姿だった。


何もなくても、歌を口ずさむだけで体に力が漲り、アニメや漫画を見たり読んだりするだけで元気が出ていた。


驚く私の顔を見たキラちゃんは、満足そうな顔してゆっくりと手を離す。


「もう、大丈夫だね」


自分(幼い)を取り戻した私は、優しく声を掛けてくれた彼女に応えようとした。


「ありがとう」と。


私を救ってくれて「ありがとう」と。


だけど、声が出ない。


でも、彼女はとても満足そうな顔を浮かべている。


さっきのように手を握ろうとしてみた。


でも、手も握れない。


それにどんどん私の手が透けている。


何となく察した。


あ、これでキラちゃんとはお別れなんだと、だから私は聞こえなくても、全力で叫んだ。


「ありがとう!」と。


すると、彼女は星が煌めくような笑顔で「ハッピーバースデー! りんちゃん! ずっと応援してるよ」


ここで私は夢から覚めた。


はたから見ればただの自己満足する為の都合のいい夢。


アニメのキャラクターが夢の中で語り掛けてくる?


全く正気の沙汰じゃない。


ありえない。


馬鹿馬鹿しい。


それでも目覚めた私は胸に宿った何かに突き動かされていた。


これからは自分の夢に向かって進んでいこう。


親に反対されるかもしれないけれど、私の人生は私が決めると。


それから私は歌を学び始めた。


30歳。


音楽を始めるには遅いし、経験者からすると滑稽にうつるだろう。

でも、大丈夫。


この胸は暖かい、からっぽじゃない。


やれる、まだやれる。


これは私の人生だ。




★★★




そして、半年後。


今度は自分の歌声で誰かを励まし何かを届けたいと強く思うようになっていた。


また、アニメや漫画の世界に触れながらキャラクターたちのように生き生きとした表情を持つことを目指そうとしていた。


人がキャラクターから学ぶなんて……。


これもおかしくうつるだろう。


でも、1回くらいやってみたかった。


自分が心から喜べたこと。


震えるほどの怒りを覚えたこと。


身が引き裂かれるくらいに哀しかったこと。


誰かに共有したいくらいに楽しかったこと。


その全てを身に纏って、あの日打ちひしがれていた私を照らしてくれたキラちゃんのように。




★★★




さらに時が経ち1年半後。


私はやっと本当の自分に出逢うことができた。


大好きな音楽はもちろん。


アニメとはジャンルは違えど、同じく尊い創作活動である漫画を書いている。


初めこそ反対していた両親も私のがんばる姿勢を目の当たりにして心から応援すると言ってくれた。


それに幼い頃から、ずっと疎遠になっていた友人とも、高校時代の一番の理解者だったあの子とも、SNSを通じて少しずつ連絡を取り始めている。


その他にも、何者でもない自分を応援してくれる様々な人に出会えた。


昔からの旧友だけじゃなく音楽関係、創作関係その縁は多岐にわたる。


気がついたら、私の世界ががらりと様を変えていた。


皆、私の決意を受け入れ、応援してくれた。




★★★




そして、33歳の年。


私はついにデビューのチャンスを掴んだ。


自分の歌声をたくさんの人たちに届けることができる喜びは言葉では表せなかった。


でも、これだけは確かだ。


これからもキラちゃんの言葉を胸に。


幼い頃の私も引き連れて。


大人わたしは夢に向かって輝く道を歩いていく。


誰よりも輝き誰かを照らす為に!



ハッピーエンド

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

RE スタート ほしのしずく @hosinosizuku0723

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ