それってさ、正直じゃないよね

ひなもんじゃ

きっと、これくらいの。

車校。一緒に予約しよっか

 



 「一緒に車校に行こうよ」と誘ったのは最初は私、岡崎の方からだった。



 この車社会のF県の中では、みんな原付を持っているのは当たり前だったし、私は正直学校の勉強で手一杯だった。だけど、周りの友達のほとんどは高校1年から2年に上がる春休みあたりに難なく取ってしまって、私は一人だけ取り残されてしまった。本当は直ぐにでも同じタイミングで取りたかったし、遅れてしまったのは、自分だけ世界が固定されているような気がして、苦しかった。


「わかった。一緒に車校、行こう」


 そういってくれたのは近所の幼馴染で同じ団地、同じ小学校、同じ中学校、と、ずっとそばにいる藤野だった。


 とはいえ藤野は私とは違って、友達も多いし、様々なことにおいて手際よく進められる優等生タイプだったので、車校に通っていないのは意外だった。私はてっきりグループの友達と難なく取っているような感じがして、なんとなし違和感があった。



 「もし、原付取ったらさ、なにしたい?」

 「んーまあ……ゆ〇タウン(ショッピングモール)は行きやすくなるでしょ」

 「それはたしかに。めちゃくちゃ坂おおいしね……」

 私たちが住んでいる団地は、坂が多く、国道沿いの町一番のショッピングモールに行くにもかなり骨の折れる場所で、本当に自転車では行きづらい。



 「そーいえばさ、」

 「何」

 「昔さ、子供の時、一緒に親戚の音原おんばるさんちの車でよくいったよね」


 音原おんばるさんというのは、私たちの義理の親戚にあたる人で、甲斐甲斐しく幼稚園から小学生の中ごろまで私たちのことを預かってくれた近所のおばあさんの名前だ。どちらも両親が共働きで、音頭さんにとりわけ小学生の時にはよくお世話になった。


音原おんばるさん、昔はよく私たちの面倒見るついでによくゆ〇タウンつれてってくれて。で、私と行ったじゃん。31アイス」

「それ小学生だったっけ……幼稚園とかのような気がする」

「でさ、中学3年に音原さんが亡くなってから、各々が各々で行動するようになったじゃん」

「まあね」


「車校で免許取ったらさ、一緒に行こ。グループの子たちとかじゃなくて」

「何急に」

音原おんばるさんがさ、寂しがってる気がするんだ」

音原おんばるさんが?」


「なんかさ、高校生になったらずっとグループが固定されて、だんだん岡崎と離れるようになってさ、最近音原さんの事、思い出すんだよね」


音頭おんばるさん、いっつもアイスだけじゃなくって『好きなお菓子、何でもいいから買うこうちゃる』って言って買ってくれたよね。中学生に進学した時にはip〇neケース買ってくれたりして」


「ふーん。」


 そっか。


「車校。一緒に予約しよっか。」

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それってさ、正直じゃないよね ひなもんじゃ @hinamonzya

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