第10話 匂いでするなんて絶対におかしいよ?!


 今日も啓介くんを起こしに行くと、また例の催眠アプリを使われてしまった。


 初めてこのアプリを使われてから、ずっと連日使用され続けている。それも、全部私のパンツを見るためだけに。


 ……私のパンツ、好きすぎでしょ。


 毎朝催眠にかかったフリをして、スカートをたくし上げている私もどうなのかと最近思い始めてはいるんだけど、今さら催眠に掛かってしませんでしたとは言えないし、仕方がないのだ。


 そもそも、本当に嫌なら朝別々で登校すれば済むだろうという指摘については、まぁ、考えないこともない。


 それでも、やっぱり幼馴染だし帰ってきたら結局顔を合わせることになるのだから、変わらないというか。


 しばらくの間会うのを控えるだけで、その問題は解決するのでは? と言った考えが浮かばないほど、私も馬鹿ではないのだ。


 まぁ、それをしない私にも問題があって、それをしようとしない私にも問題はある。


 つまり、今ここにいるのは私の意思ということになる。


それも、この先に何をされるのか分かったうえで、私はここにいるということになる。


 ……なんか、これだと私がえっちな女の子みたいに感じるかもしれないけど、そうではない、と思いたい。


 きっとそんなことはない。だって、今までこんな気持ちになったこともなかたっし、見られるということに対して何かを感じるなんてことはなかった。


「じゃあ、今日は後ろを向いてスカートをたくし上げてくれ」


 私が誰に向けるでもない言い訳を考えていると、啓介くんは今日も私にえっちな要求をしてきた。


 きょ、今日は後ろなんだ。


 私が後ろを向くということは、私が見ていない所で何をされるのか、啓介くんが何をするのか分からなくなるということになる。


 それだというのに、なんで私はまたその指示に従おうとしているのか。


嫌がることなく何かを期待するように刻む心音を前に、私はその感情が表情に出てしまう前に啓介くんに背中を向けた。


 そして、私はそっと後ろを向きながらスカートの裾を指先で掴んだ。


 あれ? なんかまだ何もしてないのにお尻に凄い視線を感じるんだけど。


 さすがに気のせいだよね? だって、今の位置からは何も見えていないんだし。


 スカートをたくし上げる前から向けられていたような熱い視線は、私が少しスカートをたくし上げていくに連れて、その温度を上げていった。


じっとりと見られるような視線をお尻に感じる。私がそのままゆっくりとスカートをたくし上げていくと、その視線が私のお尻付近に集中していくのが分かった


 そんな視線をあびながら、少しだけ汗ばみそうになるのを抑えながら、私は少しだけお尻が見えるくらいの位置までスカートをたくし上げた。


 今日履いてるのは、白をベースにしたパンツ。


 今日は昨日のほど可愛くはないやつだから、正面から見られないのは嬉しいかもしれない。


 こんなに毎日パンツを見られるなら、少し可愛いパンツでも買いにいこうかな?


 いやいや、幼馴染に見せるために可愛いパンツ買うとか、いよいよ変態の域に入りそうな気がする!


 でも、お尻かぁ。そこまで引き締まっているって気もしないし、自信あるかと言われるとそうでもないんだよなぁ。


 そんなことを考えている私の心情なんて知る由もない啓介くんは、しばらくの間お尻を見た後に言葉を漏らした。


「えっちな尻してんなぁ……。いつもこんなお尻をスカートの下に隠してたのか」


 え、え、えっちなお尻?! なにそれ、そんな評価されるの、私のお尻って?!


 別に隠してるわじゃない……いや、スカートを履いてるって隠す認定なの? 何その基準。


 私は思いもよらなかった評価を前に、私は少しだけ口角が緩んでいたかもしれない。


 えっちなお尻って、誉め言葉なんだよね? 喜んでいいのかな? ていうか、もっと他に表現なかったのかな?


 えっちなお尻……。


 そんな評価を受けて少しだけ恥ずかしくもなったというのに、数分間啓介くんはただ黙って私のお尻をじっと見つめていた。


 お尻と裏太ももに吹きかけられた鼻息から、どれだけ近くで私のお尻を見ているのかは想像できた。


 ……そして、どれだけ興奮しているのかも。


「そういえば、――好きな男子多いよな」


 突然過ぎた言葉を聞き逃したけど、啓介くんは何か独り言を漏らすと、座っていたベッドを軋ませた。


 何だろうと思っていると、熱くて荒い鼻息がいつの間になくなっていて、顔を下に向けると、すぐ後ろに啓介くんの足があった。


「おー、確かに綺麗だな」


 いつの間に私の背後に回った啓介くんは、そんな言葉を漏らして何か感動しているようだった。


 一体、どこを見られているのか分からないけど、その位置から眺められるものって何だろうか?


 スカートをたくし上げさせた状態で、そこから見える物?


「どれ、ちょっと肩借りるぞ」


「っ」

 

 私がよく分らなくなっていると、急に啓介くんが私の肩に触れてきた。


私は急なボディタッチに驚いて、ビクンと体を跳ねさせてしまった。


 スカートをたくし上げた状態で、私に見えない後ろから何かをされる。そんな状態を前に、驚くなと言う方が無理だと思う!


「おお、そんなに驚くか。あんまり驚かせて、催眠が解けても面倒だし軽くな」


「~~っ」


 や、やっぱり、何かされるんだ。


 朝学校に行く前にそんなことをしたくなるくらい、私のお尻に欲情したのかもしれない。


 なんかえっちなお尻とか言ってたし。


 こ、このまま啓介くんとっ……。


 急に押し寄せてきた緊張によって、私の体はがちがちになっていた。目をきゅっと閉じて、私はこれからされることを想像した。


 そして、首筋に近づいてきた熱い吐息を前に、私は覚悟を決めたのだった。


「すんすんっ。すぅー、すんすんっ、すんっ。あ、確かにいい匂いするな」


「っ!!」


 え、に、匂い? ちょっ!  なんでうなじの辺の匂い嗅ぎだしてんの?!


「くんっ、すんすんっ。すぅー、はー。すんっ、すんっ、女の子匂いだな」


「~~っ!」


「放課後になると匂い変わるのかな? まぁ、時期が時期だし、汗の匂いとかもするんだろうな……」


 え、何最後の間?! ほ、放課後も匂い嗅ぐの? なに、啓介くんってそんなに匂いフェチだったの?!


いや、そんな素振りは今まで見せたことないーーま、まだ嗅いでる?!


息が当たってこそばゆいんだけど?! ちょっ、ほ、本当にっ、だめっ……。


「んっ」


 思わず息を漏らすような声を漏らしてしまうほど、私は長い間首筋の匂いを嗅がれながら、息を吹きかけられ続けた。


な、なにこれ。


長い首とかうなじ付近に息を吹きかけられ続けて、頭の中が少しだけトロりとなって、私は少しだけ熱に浮かされたような気分になっていた。

 

いや、そんな気分に無理やりさせられていた。


「うん、今日はこれだな」


 え、今日はこれって、どういう意味?


 匂いをずっと嗅ぎ続けた後に、これ? これって、もしかしてーー


「~~っ!!」


ばば、ばかじゃないの、ばかじゃないの、ばかじゃないの?!


わ、私の匂いでするってこと?!


わ、私の匂いでするってこと?! 前に私がスカートをたくし上げるところをオカズにしたように、今日は私の匂いで?!


 まって、放課後も嗅ぐとか言ってなかったけ?


 え、無理無理、絶対に汗臭いって。あ、あれ? 汗臭いのが好きなんだけ?


 だ、だめだ、頭が上手く働かないんだけど!


 結局、私はお昼休みに部室棟のシャワーを借りて、準備を整えることになったのだった。


それだというのに、なぜか啓介くんは放課後に私のうなじの匂いを嗅ぐことはなかった。


 ……シャワー浴びないほうが好きだったのかな?




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