元RTA走者の異世界βテスターは最速チャート模索中~多分これが一番早いと思います~
萎びた家猫
プロローグ 元RTA走者は転生後も走りたい
真紅の曇天から紫色の雷降り注ぐ異様な雰囲気を漂わせた豪華絢爛の城で、勇者パーティと魔王による世界の命運をかけた戦いが行われていた。
「魔王、お前はこれで…終わりだ!!」
「おのれ…かくなる上は…」
「勇者様、油断しないで!!魔王はまだ諦めてはいない!!」
息も絶え絶えな勇者はついに魔王を追い詰め、とどめを刺そうとする。しかし魔王もただではやられないと最後の力を振り絞り勇者もろとも城を破壊しようとしていた。
「この城もろとも貴様らを葬ってくれるわ!!」
魔王は残った魔力を体の中心に集め圧縮する。
そうして圧縮された魔力は外へ、外へと出る力が次第に強くなり最終的に魔王の体すら崩壊させ得るほどの爆発力を発揮させた。
しかし魔王の思惑とは裏腹に圧縮した魔力は次第に萎み始め最後には…ポンッ!と気の抜けた音だけ発し消え失せた。
魔王も勇者も仲間達も何が起こったのか理解できなかったが、唯一この場でそれを理解している男がいた…!!
「魔王…お前の魔力は全て散らさせた」
皆その男に目を向ける。その男は勇者パーティの中で唯一特別な出生を持っておらず、なぜその男が世界を救う勇者の仲間になれたのか誰も知らない。
不可解な行動ばかりするパーティの異端者
奇妙奇天烈な魔道具ばかり集める蒐集家
勇者パーティの役立たずな荷物持ち
この男を指す蔑称は数知れず、男はいつも後ろ指をさされてきた。
しかし勇者パーティの仲間達は決して彼を見下しはしなかった。
それは何故か…
「先程から…なんなんだ貴様は…!? 我の技を阻害するその技量。我の思惑すら打ち砕くその才覚」
魔王の叫びをただ静かに聞く男。まるで自分が傍観者であるかの様に今まで一切の手出しをしてこなかったその男に魔王は苛立ちを感じる。
「貴様は一体何なのだ!?」
魔王は絶叫する。こんな事はありえないと…
それもそのはずだパーティ内で唯一特筆すべき異能を持たない凡夫など警戒するに値しないのだから。隅で怯えて縮こまっているなら尚更だ。
だから魔王は知らない。彼の恐ろしさを...魔王は知る由も無い。その異様なまでの用意周到さに隠された、まるで全てを見てきたかの様な戦略を。
勇者は静かに、そして凛として純粋な瞳で魔王を見る。
「魔王…彼は」
「女神の代弁者にして…そして…オレたちパーティ最強の男だっ!!」
彼が作ってくれた好機を絶対に逃しはしない、勇者は最後の力で魔王を切り裂いた。
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「【村人A転生〜何も持たない無能の成り上がり〜】A判定での攻略完了です。お疲れ様でした」
先程までのオドロオドロしい雰囲気とは打って変わって、白一色の何もない空間。そこにぽつんと立っている人ならざる美貌の天女。
「攻略時間は17年と36日です。これで満足できましたか?」
天女はこちらに近づきながら質問をしてきた。そんな天女に俺は…
「スフィーダさん…」
「なんですか?」
「あと一周だけやりなおs「駄目です!!」…えぇ」
天女改め…女神スフィーダは頬を膨らませながら両腕を上下に激しく振り言葉をまくしたてる。
「一体何度やり直せば満足できるのですか!? もう9回目ですよ!!いくら私達上位者の時間感覚が違うとはいえど限度があります!!」
「いいじゃないですか、あと一回くらい。ほらちょうど10回記念ってことで…」
「何もよくありません!!それにこれ以上は不具合はありませんしもう十分なほどの情報は得れています!!」
「いやでも、時間更新できそうな場所あったんですよ。ほら魔王城の前にある扉のところに、ショートカットできそうな樽がおいてあったじゃないですか」
「アレはショートカット用はありませんよ!?消しておくので早く次の異世界に転生して下さい!!」
「はーい…」
「そもそも貴方は…」ブツブツ
こんなやり取りをしてどれくらいが経つのだろう?
この女神様に出会ったのはある蒸し暑い夏の夜のこと…
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「よっしゃこれであとはラスボスをヌッコロせば記録更新だ!!」
俺はいつものように自室でゲームをしていた。少し前に流行ったオープンワールド型本格格闘RPG【ロードゲート】異様な難易度の高さとゲーム性から多くのストリーマーや動画配信者がプレイした名作ゲームだ。
かく言う俺もそのゲーム性の虜になった一人だった。少し他と違うところをあげるとしたら…
「よっしゃあああああ!!世界記録更新じゃああ!!」
そう、配信者兼RTA走者であるということだ。
「みんな応援ありがとな!!これで俺は名実共に世界最速だ!!」
ここ数ヶ月で毎日十数時間もの配信を一緒になって応援してくれたファンに俺は感謝を伝えた。しかし異変はそこで起こった。
「あれ…?なんか…めまいが…」
胸が苦しくなり眼に前も暗くなっていく。息も絶え絶えになりながら何とか配信を止める。配信者たるもの放送事故で垢BANなどあってはならない。
俺達が一丸となって頑張った数ヶ月を水の泡になんかしたくない…そんな思いとは裏腹に胸がどんどん苦しくなる。
そして…世界は暗転した。
起きてください選ばれし者よ…
頭の中で声が聞こえる。何処か朝日のように暖かくそして小鳥のさえずりのような安らぐその声に、気がつくとオレは返事をしていた。
「うーん…あと5分…」
ご…5分? いやいや?早く起きてください!!
声の主は声を荒げながら俺の体をゆさぶる。
…うん? 俺って確か死んだよな何で体が揺さぶられる感覚があるんだ?
不思議に思ったオレは目をあけるとそこには、まるでおとぎ話の中から出てきたような女性が覗き込んでいた。
「やっと起きましたね、選ばれし者よ」
「あなた…」
「私ですか?私は…「寝癖ついてますよ」…えっ!?」
俺を覗き込んでいる女性は急いで頭を抑えながら、どこから出したのか分からない手鏡で頭をチェックしている。俺は体を起こしあたりを見渡す。
辺りは真っ白な空間が無限に広がっているだけで何も無い虚無な空間だった。きっとこの女性はミニマリストなんだろう。
「おかしい…寝癖は直したはずなのに…」
「あのー」
先程から俺が咄嗟についた嘘を真に受けて自らの寝癖を探す女性に俺は話しかける。
「は、はい!!なにかありましたか!?」
「いや、なにがありましたかって…それは俺が聞きたいんですけど」
「あ…おっほん!!」
女性は何かを思い出したのか。咳払いをして威厳ある顔をする。
…多分その顔をするのは初見時じゃないと駄目だと思うんだ。
「わたしの名は女神スフィーダ。気軽に女神様と呼んでください」
「…わかりました女神様」
俺が女神様と呼ぶと威厳ある顔を崩さぬように笑みを堪えながら今の状況を説明を始める。
…あっいや駄目だ。堪えきれずにニヤけてるわ。
「えへ、ふふふ…え、選ばれし者よ…あなたは異世界の適合者として転生する資格を得ました。そこで貴方に3つの選択を与えます」
そう言うと女性はこれまたどこに隠していたのかわからないフリップを3枚取り出し提示してくる。
「まず1つ目は元の世界で再度転生し普通の生活を送る。これは本来あなたに訪れる筈だった選択です」
そう言いながら1枚目の妙にポップなデザインのフリップを見せながら説明してくる。
「つまり普通に今までの世界で生まれ変わるってことか。パスだな」
「貴方ならそう言うと思っていました。それでは2つ目の選択…我々が作った異世界に転生し生活する。これは貴方の世界でも異世界転生という名で知られているものです」
2枚目はどこから古めかしい雰囲気なデザインのフリップだった。多分これ異世界要素なんだろうなぁ…
「異世界転生かぁ…でも生活水準は中世ヨーロッパとかの世界だろ? 正直現代っ子のオレには厳しいかもな」
「必要であれば現代風の異世界も存在するのでそこに転生することも可能ですよ?」
「現代"風"かぁ…ちょっと最後の選択聞いてからかな。ってことで保留」
「では最後の選択です」
そう言うと女神様は最後のフリップを出す。
これは…パワポじゃね?え…神様ってパワポ使うの?
「…うん? 異世界のβテスト?」
βテストってあのβテストか?
よく開発最終段階で製品版販売前に一般の人もプレイできるっていう…
「はい、これは2枚目の選択の前段階。つまり異世界の早期アクセス権限です!!」
「つまり金払えと?」
「あくまでも例えると早期アクセスみたいなものってことです。詳しく説明すると…」
そう言いながら新たなフリップを取り出す。
…完全にパワポの手法だこれ。しかもめちゃアナログ。
俺がくだらないことを考えている中、女神様は淡々と説明を続ける。
「既にほとんど完成した異世界に試しに転生して不具合がないか確かめる&自由に遊んでもらう。というのが3つ目の選択です」
「わかった。3つ目の選択で頼む」
「本当に良いんですね? 恐らく2つ目よりもずっとハードだと思いますよ」
女神様のその発言に俺は【ロードゲート】の初クリア時と最速記録更新時の気の高ぶりを思い出す。
「…いいですね、その方が燃えるってもんですよ」
「その覚悟…確かに受け取りました。ではまず初めに初心者講習の案内なんですが…」
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「そうして今の俺があるってわけ」
いやー懐かしい記憶を思い出したな。あれって何百年前だ?いや下手したら何千年とかいってるか?
まあそこは良いやとにかく、そういう経緯で今の状況があるってことだ。
「いきなりどうしたんですか、とうとう頭がおかしくなりました?」
「おかしいのはあんたの雑なバランス調整だよ。なんですか魔王城の敵のリポップスピードは。普段は温厚な勇者が愚痴ってるのは普通にやばいですって」
9回もやってれば敵の配置やリポップのタイミングなどはわかってくる。そして今回の異世界、それも魔王城は明らかにおかしかった。
「そうですかね…私的には難易度ハードにする意味合いでしたんですけど…」
「確かに何度はめちゃくちゃ高いけど、もし俺の世界のゲームなら間違いなく叩かれるくらいにはクソ湧きでしたよ」
「そんなにですか…ちょっと調整しますか。良いと思ったんですけどね…」
「それよりも次はどんな異世界をテストすれば良いんですか?」
「あ、そうですね!!次にテストしてもらう異世界は…」
「【魔法学園ハーレム〜脇役主人公の逆転劇〜】です!!」
…相変わらずネーミングセンスは皆無のようだ。てかまたNPC側かよ…スフィーダさんは最近これ系にハマってるのかな?
「それじゃあアキさん、初見プレイ頑張ってください!!」
スフィーダさん満面の笑みで大きく手を振りながら俺を送り出す。
「はーい、いってきま~す」
こうして俺は新たな異世界へと転生した。
元RTA走者の異世界βテスターは最速チャート模索中~多分これが一番早いと思います~ 萎びた家猫 @syousetuyou100
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