第10話 因果応報と新婚生活

 とある町で一人の旅人が、町人に尋ね事をしていた。


「この辺りに腕の良い治癒術師が居る小さな村があったと思ったんだが、何か知らないだろうか?」


 町人はしばらく考え、何かを思い出したのか、ポンと手を打つと語り始める。


「そういえばありましたね。ただその旦那が犯罪者だった事が分かってから、村で冷遇されていたみたいで、その後すぐにその治癒術師は亡くなったらしいです。子供も1人居たそうなんですが追い出されたそうです。まあ、子供は10になるかならないかだったらしいですから、生きてはいないでしょうなぁ。

 その村は元々は山菜と薬草の販売で生計をたてていた貧しい村だったんですが、その治癒術師が作る薬の販売を村長が独占してから村長とその取り巻きの羽振りが良くなったんですよ。でも、治癒術師が亡くなり、その埋め合わせとして根こそぎ山菜や薬草を取ったもんで、すぐに採るものが無くなりましてね。それに加えて疫病が流行ったらしく、別の村の者が様子を見に行った時は、白骨死体があるだけだったそうですよ。馬鹿な話ですな」


「そうか。私はその治癒術師の作った薬のおかげで助かったんでね。近くに来たついでにお礼でもと思ったんだが……残念だ」

 旅人は町人に頭を下げると、そのまま去って行った。



 裁判所で判決を言い渡されようとしている男女がいた。被告の名はマセインとカルナ。かつてゲインを無実の罪で訴えた2人だ。


「被告、マセイン及びカルナ。ドレツァー伯爵のご子息様であらせられる、フェスト様の資産を横領したのみならず、結婚詐欺を働いた罪により、鉱山での強制労働30年を言い渡す」


 裁判長の抑揚の無い声で判決が言い渡される。


「ま、待ってください!全てはこの女がやったことなんです。私は知らなかったんです!」


 マセインは必死になって訴える。この世界で貴族に対する平民の罰は重い。鉱山での強制労働はその最たるものの一つだ。過酷な環境で2、3年持てばいい方だ。5年生きているものなど居ない。ましてや30年などとうてい無理な話だ。


「ふざけないでよ!まともに働きもしない穀潰しが。あんたがまともに働けばこんな事はしなくて良かったのよ!」


 負けじとカルナも言い返す。


「何だと!お前だってもういい歳した分際で、化粧品やエステなんかに金かけやがって」


「あんたこそ、勝てもしないのにギャンブルに金をつぎ込んでたじゃない」


 どっちもどっちである。裁判長が手で合図すると、屈強な兵士が2人を裁判室から連れ出していった。



 どこかの貴族が通う学校の食堂のような場所で、大勢の人間の子供達が食事の合図を待っている。子供達の前に有るのはご馳走とは言えないまでも、量も種類も十分な料理だ。もちろん誰かの食べ残しとかではなく、子供達の為に作られた料理である。


「さあ、今日も食事を与えて下さった魔王様に感謝を捧げましょう。魔王様日々の糧を下さりありがとうございます」


「「魔王様日々の糧を下さりありがとうございます」」


 子供達は元気に食事を開始する。ここは魔王領内に建てられた、人間の為の孤児院だった。ゲイルの頼みで魔王が建てたものだ。ゲイルが犯罪者とされた事で潰れてしまった孤児院を再建させたのだ。

 同じような施設が魔王領内に幾つも建てられていた。スラム街の人間だったものが働く場所も有る。最初はスラムの人間や孤児が消え、人間の為政者はちょうど良いと喜んでた。

 しかし魔王信者の人間が圧政をしいていた国王を革命で倒した時、これはまずいと各国が慌てることになった。



 ゲイルは湖のほとりでぼーっと釣り竿を垂らしていた。もちろんフルエイアと別れたわけではない。結婚生活にはメリハリが必要だと気づき、ロールプレイで色々な役柄を演じているのだ。今日は釣りの成果無しで帰る夫の役だ。なので釣り糸の先には餌は付いていない。


「さてとお弁当も食べたし、そろそろ帰るかな」


 ゲイルはそう独り言を言うと、帰り仕度を始めた。


 その頃フルエイアは台所で鼻歌を歌いながら料理をしていた。役柄は釣りの成果が無く落ち込んで帰ってくる夫を優しく迎える妻の役だ。その時ズーンと何かが落ちたような大きな音が外でする。


「何かしら?」


 本当はもう分かっているのだが、できるだけ役にのめり込み演じることが大事なのだ。フルエイアが外に出ると、禍々しい気配を纏った漆黒の大きなドラゴンが家の前に居た。


「何か御用ですか?」


 フルエイアはいつも通りにこやかに尋ねる。


「フッ。我を見ても驚かんとはな。さては貴様は魔王の配下の者だな。この辺りにいるはずの魔王に伝えよ。黒竜王ガダブストがやってきたとな。人間どもと共存しようなどいう惰弱な魔王などこの黒竜王様が蹴散らしてくれるわ」


「ああ、やっぱりそうですか……」


 フルエイアは笑みを消し、黒竜王を冷たい目で睨みつけた。



「ただいま」


 ドアを開けて、ゲイルが家に入ってくる。


「お帰りなさい旦那様。どうでしたか?」


「すまない。お弁当まで作って貰ったのになにも釣れなかったよ」


 うなだれるゲイルをフルエイアは優しく抱きしめる。


「そんな日もありますよ。今日は旦那様の大好きなお肉のシチューですよ」


「確かに良い匂いだね。だけどビーフシチューじゃなかったのかい?」


 確か予定ではビーフシチューだったはずだ。


「牛肉より良いお肉が手に入ったの。悪抜き・・・をしなければいけないから、ステーキには向かないけれどシチューにはピッタリなのよ」



 フルエイアはニッコリとほほ笑む。つられてゲイルも笑う。


「それでどうします?お風呂にしますか?食事にしますか?それとも……」



 2人は意図するとしまいと、色々なところで世界を変えていった。後の人々は言った、あれは「世界を変える運命の恋」だったと。



後書き


 おあとがよろしいようで……ああ、待ってください、石を投げないで!投げるなら♡か出来れば☆をお願いします。一つ注意点を。「あく抜き」の漢字はわざと「悪」の字を当ててますので、誤字ではないです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。出来れば他の作品も読んで頂けたらと思います。次作でまたお会いできたら嬉しいですね。それではまた。

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奥様は魔王 地水火風 @chisuikafuu

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