死に向かう病

ルビーのピアス

第1話

カーテンから差し込む微かな光と小鳥のさえずりで目が覚めた。アラームが鳴る前に目が覚めたのなんていつぶりだろう。


スマホの時刻をチェックすると、まだ30分は時間に余裕があった。起きると憂鬱な月曜日が始まってしまう。だが、ここで二度寝をするのはまずい。起きれる自信がない。せめてあと2~3時間は欲しかった。そんなことを考えている間に起床までの時間は残り15分になった。


せめてこのままもう少し暖かい布団に包まれていようと横を向くと、冷たく硬いものが手に当たった。不思議に思って手元を見ると、やけに黄色い人の手がある。


「っ」


寝起きで喉が使いものにならず悲鳴も出ない。

その手は硬いゴムのような質感で、触れた感触がなんとも言えず気味が悪い。恐る恐るその手の上部を見ると、天井を向いた女の顔が見えた。


「ひっ」


女の顔をもう一度よく見ると、結婚を前提に付き合っている彼女だった。


「美咲?……なんで……」


慌てて肩を抱き、揺すってみるが反応はない。なぜこんなことになったのか、わけがわからなすぎて吐き気を催しトイレに駆け込む。寝起きで胃の中に何も入っていないこともあり、胃液しか出てこなかった。口の中に不快感が残るが、構わず美咲の元に戻る。


「なんでだよ……」


冷たい頬に触れると、呼吸が浅くなり涙がボロボロとこぼれ落ちた。いったいなぜ美咲が冷たくなっているのか。はっと気付き脈を測ってみるが、やはり脈拍は止まっている。これ以上何をすれば良いのかわからないが、とにかく助けて欲しくて119に電話をかけるが繋がらない。


「なんでだよ!くそっ……そうだ、外で助けを呼ぼう。美咲……ごめん、寂しいだろうけど、少し待ってて」


冷たく硬い美咲にそう伝え、震える指で愛しい彼女の頬を撫でる。もう助からないと知りながら。


助けを呼びに玄関から出ると、外は快晴で木々の香りを運ぶ気持ちの良い風が顔に当たる。こんな日になぜ。美咲とはそう遠くない未来を約束しあったのに。


外へ出る時にアパートの掲示板に視線をやると気になるメモがあった。


『緊急事態が起こったら、ここに電話すべし!』


誰に宛てたものかもわからないメモがやけに気になり、立ち止まって目を通す。メモには他にも注意書きがあった。


『電話は機内モードを解除してから行うこと』


スマホを見ると確かに機内モードになっている。もしかして、このメモは俺に宛てたものなのか。飛行モードを解除して、メモにある番号に電話をかける。数秒の呼び出し音の後、男性が電話口に出た。


「はい、どうされました?」

「あ」


しまった、さっきまで救急車を呼ぼうとしていたのに、メモ書きに思考を持っていかれて何も考えていなかった。


「もしもーし?」

「あ……すみません、彼女が……彼女が隣で冷たくなっていて、あ、の……助けて欲しくて」

「お名前を伺っても良いですか?」

「あ……吉野です」


動揺しているからか自分の名前が思い出せず、咄嗟にメモ書きにある名前を言ってしまった。


「わかりました。吉野さん、これからそちらに伺います。彼女さんのそばにいてあげてください」

「あ……ありがとうございます!」

「すぐに参りますからね」

「よろしくお願いします!」


10分ほどすると救急車が来て、ストレッチャーで美咲を運んでくれた。一緒に乗って行こうとすると、なぜか止められる。


「病院に着くまでに処置をしますので、ご家族の方は後ほど来てください」


美咲を1人にするのは心配だが、仕方なく運ばれる先の病院に徒歩で向かうことになった。

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死に向かう病 ルビーのピアス @rubi-nopiasu

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