第5夜 留学・限定ラバー
「すごかったわぁ。三回目だというのに、どれだけなのよ。まだ流れ出てくるよ」
そんな風に言いながら、毛布の下で後始末。
ジェフは、そういう時、じっくり見つめながら後始末してくれようとするけど、それは恥ずかしくって断ってる。
この辺りの感覚は国の差なのか個人差なのか。男の人は彼とジェフしか知らない私には、わからなかった。
今夜は、いつもより激しい。三度目が終わった後も、後始末が終わったばかりの私を優しい手つきで、まさぐってくる。
それを受け入れながら、彼の胸にピトリと頭を付けた。さっきまでの自分を思い出すと恥ずかしくなるから、なんとなく、こうしていた方が落ち着ける。
「なあ、やっぱり、ちゃんとした恋人にならないか? カナダが嫌なら、ボクが日本に住んでもいい。親友もいて就職も世話をしてくれるって言ってる」
確かに、ジェフは日本語がペラペラだ。お母さんが日本人で、子どもの頃は日本に住んでいたジェフなら、何の不自由もないはずだ。
だけど、そういう問題ではない。
ゆっくりと指を使いながら私の反応を見ているジェフ。眼差しが哀しげなのは、私の留学が明日で終わるからだ。
「ダメよ」
キッパリと断ると、胸を揉む彼の手が止まった。優しいジェフは、本格的な恋人になることを何度も言葉にして望んでくれた。だけど、私には絶対に妥協できない。
「日本にはちゃんとした恋人がいるって言ったわよね? 私は彼を愛してるの。それまで勉強しか知らない地味でダメで、妹にコンプレックスを抱えた私を救ってくれた大切な恋人よ。私は永遠にあの人だけのモノなの。ジェフはとっても素敵な人だと思うけど、留学している3ヶ月の間だけの限定
何度も説明してきたことだ。就職も彼のお父さんがやっている会社に内定をもらってる。腰掛けにするつもりは無いけど、結婚して求められれば、いつでも辞める覚悟はしてる。
私にとっては、彼が全てなのだから。卒業を前にして、生涯でただ1回の冒険をする。それがこの留学の目的だった。
「だが、現に何度も愛を交わしてきただろ? こんなの知らなかったって叫んでたし、オレのテクもモノもワカバは褒めてくれるじゃないか。オレのセックスが合ってないとは思えないんだけどな」
さっきまで、恥ずかしいほどに感じてしまった私は、それを否定するなんてできない。恥ずかしいけど素直に「そうね」と認める
「セックスは彼より上手いし、大きいのは認めるわ。でも、彼だって、それなりに上手だし、あなたより小さいけど硬いもん。それって女性にとっては凄く良いんだって改めて分かったかのは、良かったかも」
「オレとセックスしたお陰でと言うことか?」
「そうかも知れないわね。少なくとも私が知っている男性は彼とあなただけよ。セックスがこんなに良いなんて初めて知ったわ。それは本当よ」
そう。この3ヶ月でジェフのセックスにハマったのは事実。だけど、彼のセックスがダメかって言われたら、それは違う。初めてを捧げてから、ずっと愛情を深めてきた彼とのセックスに不満なんてないのだから。
「ワカバ、もう一度だ!」
まるで、オレのセックスを刻み込んでやると言わんばかりに、私の足を肩にかつぐようにしてジェフが乗ってくる。私は、その大きさにすっかり馴染んで、何の抵抗もなく受け入れる。
「んっ、あっ、確かに、ジェフのは良いけど…… んっ、そ、そもそも男女の間のセックスなんて小さなことよ。日本に戻ったら彼と愛情を持った家庭を築くのぉ、あぁん!」
「そのあたりが分からないよな。オレのセックスは相性ピッタリだろ? このままホントに付き合っても良いんじゃないか?」
「初めから決めてたんだもん。カナダにいる間だけ。んっ、ね、もうちょっとゆっくり、これだと、私またすぐに…… んっ、あぁん! 留学の間だけ自分を解放する。その相手があなただっただけなの。困らせないで? 約束でしょぉお! あはぁああん!」
「ワカバ、君にとっても、このままオレと付き合った方が幸せだと思うけど」
「あぁん! だめぇ、ああ、またぁ、あっ、ジェフ、愛してる。あなたが好きよ。彼以外と、生涯であなただけなのぉ! 愛してるぅ、あああああ、あああ! お願い、ちょうだい、あなたを、思い出を私のナカに! ちょうだい!」
その晩、いつになく徹底的にされてしまった。いつの間にか、気を失っていたらしい。
「ジェフ?」
朝の光の中で見回しても、彼はどこにもいなかった。
サイドテーブルにはPCでわざわざプリントアウトしたメモが残ってた。
「これでお別れだ。オレは友達に会いに行く約束があるので出発する。もうオタワで君と会うことはないだろう」
すごく寂しかった。心にポッカリと穴が開いてしまった。でも、彼を裏切るわけにはいかない。ううん、留学していた、この三ヶ月は確かに裏切っちゃったことになるけど、そっと心の一番奥にある秘密の場所にしまっておくの。
そして、私は、生涯を彼に捧げて生きられる。この三ヶ月は、秘密の思い出に変わっていくホンの小さなアバンチュールなんだから。
私は、意識を切り替える。いつまでも、この気持ちを引きずったらダメだもの。むしろ、ここでキッパリ別れられて良かったと思わないと。
そして、私は日本にいる、真実の愛を捧げる相手にメッセを送った。
>>>昨夜は連絡できなくてごめんなさい。お別れパーティーで引っ張り回されちゃって。でも、明日帰ったら、二度と離れないからね
13時間の時差。日本は今ごろ夕暮れ時かしら?
即座に、既読が付いた。
>>楽しみにしている。明日成田に行くから
やっぱり優しい。いつもみたいにリムジンで迎えに来てくれるのかしら?
ホテルを出て、ステイ先や、こっちで作った友人達に挨拶をしていたら、あっと言う間に出発の時間になってしまった。
オタワからの直行便はないから、カルガリーで乗り換えてから成田に向かう。長いフライトも、あっと言う間だ。
こうして思い出すと、ジェフとの思い出の数々が夢みたいだ。いくつもの信じられないような偶然が重なって仲良くなれたけど、本当に大切にしてもらえた。
『もしも、征樹がいなかったら、私、きっとジェフと付き合っていたのかな?』
ううん。もしも征樹がいなかったら、今の私はなかったわ。いつまでも妹に負けたコンプレックスを持って、惨めに生きていたはずよ。地味で引っ込み思案の私をジェフが気に入ることも無かったはず。
だから、これでいいの。私には大切な人がいるんだから。
「征樹、もうすぐ、会えるよ」
久しぶりの日本。
旅客出口には、いつものように彼が待ってくれると思ったら、そこには山中さんだけだった。
「白幡様。お帰りなさいませ」
いつもの通り恭しく迎えてくれる山中さん。あれ? 気のせいかな、少しだけ雰囲気が硬い感じ。
「あの、征樹は? 何か忙しかったのかしら?」
「親友と久し振りに会えたとのことで。白幡様にも、そちらに来ていただきたいとのことです」
「あら、やだ。言ってくれれば良かったのに」
征樹の親友に会うのに、こんな格好だなんて。それに、カナダにいる間に3キロも太ってしまった。ジェフは「全然痩せている」って言ってくれたけど、飛行機に乗って日本が近づくにつれて、この3キロがとっても気になってしまった。アゴの線が少し丸くなっちゃってるよね?
「大事な話があるので、そのまま来てほしいとのご伝言を託されております」
そっか、久しぶりに会える親友と一緒だったら、スマホを切ってることだってあるよね。
さっきから、メッセを送っても既読にならなかったのはそういうことだったんだと、少し納得した。
「分かったわ。どこにいるの?」
自分の姿は気になっても、征樹に呼ばれているなら、いかないなんてことはありえない。今までは、あまり他の人に会わせてくれなかったけど、とうとう親友を紹介してくれるだなんて。
また、ひとつ「妻」に近づいた気がする。
「お連れいたします。荷物は、これだけでよろしいでしょうか?」
「ええ。そうです」
「今回は坊ちゃまからの指示で、お荷物は託送の手配となりますが、差し支えありませんか?」
え? どうしたんだろ? このまま荷物ごとお家に帰れないってこと? あ、親友がいるから、そこで泊まるとか?
わけが分からないけど、私は「大丈夫」と答えた。
そばにいた秘書みたいな人が私の荷物を受け取ってくれて、山中さんの車で近くの航空会社系のホテルに移動した。
「あちらのラウンジにいらっしゃいます」
「ありがとうございます」
奥のテーブルで手を振ってくれた。
「久し振り。ただいま、征樹。会いたかったわ」
「いや、楽しみにしていたよ」
あれ? なんか笑顔というか、反応が予想と違う。久しぶりに会ったからかしら?
「ま、座って。それと紹介するね。小学生の時からの親友で、今はオタワに住んでる。ついでに、こっそりと君の
隣のテーブルにいた人がクルンと、イスごとこっちを向いた。
ジェフ!
「2日ぶりだね、ワカバ。オタワの情熱的な夜の話は、親友に全部話しておいたよ」
「そ、そんな、そんな、そ、そんな……」
「ってことなんで。これ以上何も言うことないわけだ。もちろん、ウチの関連会社への就職もなしってことになるけど。何か言うことはある?」
頭が真っ白になって、言葉が出せなかった。
オワタ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
作者より
ピンとこない方は「第3夜 ボッチクンが実は超優良物件だった件」を御再読ください。なお、ジェフは監視役ではなく、初めから「刺客」でした。
留学先がカナダになったのは「仕様」ですw
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
7人のクズ ~騙し騙され、あきらめて~ 新川 さとし @s_satosi
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