第114話 準決勝 後半

「ピーーーー!!!!(王の咆哮!!!)」


 俺は黄金鳥へと進化し、全身が金色の羽に包まれた巨鳥へと変化を遂げる。


 体から放たれる金色の光が、氷のダンジョン内を明るく照らして体が熱くなっていく。


 黄金の輝きに放たれて、周囲の氷が少しずつ溶け始める。


「すごい…凄いよ。ピリカ!」


 アシェは俺から放たれるオーラによって守られて、驚きつつも興奮して喜んでいる。


「リリィさん。今度はこっちの番だよ!」

「面白いですわね! エリュシア、最終形態にあなたもなりなさい!」

「ヒューーーーー!!!」


 リリィの命令に従うようにエリュシアは周囲の氷を吸い込んで俺に負けないほどの氷の巨人へと変化していく。


「さぁ大きさでは負けません。あとは経験の差を見せてあげますわ」

「うん! 私だって負けないよ!」


 アシェの声に応えるように、俺は黄金の翼を広げて、羽ばたきで風を巻き起こし、氷の嵐を一掃する。


「ピーーーーーーーー!!!」


 俺の羽ばたきに、エリュシアは氷の壁を築いて風を遮断する。


 エリュシアも負けじと氷の槍を次々と生み出し、俺に向けて放つ。


 しかし、今の俺にはその槍も効かない。

 黄金のオーラは、光を生み出し氷のダンジョンを溶かすほどの熱を生み出していく。


 氷の槍を次々と溶かして、エリュシアに接近する。


「エリュシア、氷はダメです!! アイスウォーター」


 リリィが指示を出すと、エリュシアは膨大な冷たい水を生成する。

 しかし、俺はアシェを背中に乗せて飛び上がる。


「ピリカ!! 決着をつけよう」

「ピー」


 黄金の翼がエリュシアに降り注ぐ。


 纏った氷の鎧を溶かしていく。


「ピリカ! 凄い!」


 アシェの喜びの声が響く。


 エリュシアは纏っていた氷が剥がれて、元の大きさに戻ってしまう。

 リリィも驚きと悔しさの表情を浮かべている。


「これで終わりだよ!」


 アシェが最後の一撃を放つために、魔力を集中させる。

 俺も全力でアシェをサポートするために同じ魔法を放つ。


「ウィンド!」


 アシェが風の魔法を放ち、俺はアシェの風に乗せて羽を放った。

 強力な風の刃がエリュシアに向かって放たれる。


 エリュシアは防ぐ術もなく、その攻撃をまともに受けて倒れた。


「勝った…!」


 俺たちの勝ちだ。

 アシェは喜びで顔を輝かせ、俺も満足感で胸がいっぱいだ。


「勝者、アシェ選手、ピリカチーム!」


 先生の声が響き、対決の決着を告げる。


 俺たちは地面に着地して、ヒヨコの姿に戻った。


 アシェと俺は互いに顔を見合わせ、頷き合う。


「やったね!」

「ピヨ!」


 アシェと俺は勝利を喜び合った。


 次はいよいよ決勝戦だ。


「ピリカ、やったね! 本当にありがとう」


 アシェが抱きついて喜びを表現してくれる。


「ピヨ!」


 二人で喜んでいると、リリィ先輩とエリュシアがやってくる。


「素晴らしい戦いだったわ」

「ありがとうございます!」

「今年こそは優勝をするつもりだったけど、若い子の成長は早いわね」


 年齢的には一つか、二つしか違わないはずだが、物凄く大人っぽく見えるリリィは、お姉さん感が半端ない。


「リリィ先輩も凄く強かったです。ピリカが進化しなかったら何もできないで負けていたと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」


 そう言ってリリィさんは握手を求めた。

 それに応じるアシェの構図は見ていて嬉しくなる。


 俺の元にも氷の妖精であるエリュシアがよって来て、小さな手を差し出した。


「ヒュー」

「ピヨ!」


 互いに讃えあうように翼と手を合わせた。


 それぞれを讃えて、氷のダンジョンを脱出するために出口に向かう。


 帰りは余力を残していたのか、リリィ先輩たちが先行して、魔物を蹴散らしてくれたので、ほとんど何もすることなく脱出に成功した。


「決勝を控えたあなたを疲れさせるわけにはいかないからね。私ができるのはここまでよ。あとはゆっくりと休んで明日に備えなさい」

「ありがとうございます!」


 最後まで優雅で素晴らしい女性だったリリィ先輩に別れを告げて、俺たちは決勝の相手を想像しながら、宿に戻ることにした。


 広大な敷地内をもつサモン学園だ。


 明日の午前にスタジアムに戻るまでが、大事なことだ。


「お帰りなさい。アシェちゃん」

「うん。オリヴィアちゃん! 勝ったよ」


 俺たちは二人に合流して、喜びを分かち合う。


 決勝戦に向けて、最後の休息になる。


「今日はいっぱい食べて、いっぱい寝ようね」

「ピヨ!」


 俺はアシェの申し出を聞きながら、どこか不穏な気配を感じるような気がした。



《side KFC団》


 サモナー大会の準決勝からは、観客の入場を受け入れる必要があるため、学園側も身分のチェックや警備を強化している。


 だが、表を顔を使えば、こんなものは簡単に突破できてしまう。


 つまり、堂々とサモナー学園に入り込むことができるのだ。


「おい、見たか?」

「見た」

「黄金鳥……存在していたんだな」


 もう伝説の一つとして語られる程度しか話が存在しない。

 

 黄金鳥は実在した。


 どんな鳥よりも美味しいと言われるその鳥は、味の最高峰だ。


「すでに表の身分を晒して入ったの。失敗は許されないぞ」

「ああ、この仕事が終われば、俺たちは闇に潜むしかない」

「その覚悟はできているぜ!」

「いくぞ!」


 そうだ。俺たちに明日などいらない。


 欲しいのは黄金鳥の肉だけだ。


 それこそが、秘密料理人として誇りをまもる矜持である。

 

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