第113話 準決勝 前半

「ピーヨピーヨ!」


 俺が鳴いているのは体を温めるためだ。

 氷のダンジョンは冷気で満ちていて、壁や床がまるで鏡のように光を反射している。

 

 オリヴィアちゃんは体調を崩してしまう恐れがあるので、今回もダンジョンの外で待っていてくれている。


 溶岩ダンジョンはサウナのような感じだったが、今度は逆だな。


 スノードームに入ったような感じだ。


「ここが次の戦場だね」

「ピヨ!」


 アシェが小さく呟いて、俺は応えた。

 戦場にやってくると、やっぱり緊張と期待が高まる。


 次はどんな奴が相手だろう? そう思えるほどに戦いが楽しめてきていた。


「それでは対戦相手が揃いましたので、戦いを行なっていきたいと思います」


 暖かそうな毛皮のコートを着た先生が、宣言をすれば綺麗な氷の向こうから、対戦相手が姿を見せる。


「リリィ選手とエリュシアチーム対アシェ選手とピリカチーム」


 リリィと呼ばれたアシェよりも年上のお姉さんは、優雅な身のこなしで歩み寄り、微笑みながら挨拶してきた。


「いらっしゃい! ごめんなさい。私に有利な場所で」

「そんなこと気にしないよ。戦うのが楽しみだから」


 アシェは誰に対しても物怖じしない。

 元気よく、そして好戦的な雰囲気に俺は笑ってしまう。


「ピヨピヨ!」

「ピリカは楽しそうだね」

「ピヨ!」


 ああ、楽しい。


 向こうに有利な場所で、絶対に勝ってやるんだって気持ちになるからな。


「それではビギナークラス準決勝の戦いを開始します。始め!」


 先生の声で合図されて戦いが始まる。


 開始の合図と同時にエリュシアが素早く動いて、空中に氷の槍を生み出していく。


 大量の槍は一本一本が太く強力であるにもかかわらず、ボロボロな物が一つもない。

 全ての槍に魔力がしっかりと行き届いているのが見てわかる素晴らしい造形をしている。


 そんな強力な氷の槍が俺たちに向けて放たれた。


 俺はアシェを守るために闇の結界を張り、その槍を防ぐことに専念する。


「ピリカ、ありがとう!」

「ピヨ!」


 ああ、だが、このまま防ぐだけではどうすることもできない。


 どうするんだ? アシェ?


 どうやら相手はこちらに思考させる時間与えてはくれないようだ。


 さらに風の魔法でエリュシアを氷の槍とは別に左右から攻撃仕掛けてきた。


 すでに氷の槍は自動で放ち、次の魔法へ移行する速度が速い


 さすがは準決勝まで勝ち進んできた相手と言うわけだ。


 冷たい風が氷の結晶を巻き上げ、俺たちの視界を遮る。


 リリィとエリュシアの姿が見えなくなり、相手から見えないはずの俺たちに向けて、攻撃が巧みに迫ってくる。


「ピヨ!」


 アシェ! 後ろだ。


 俺が危険を知らせれば、アシェは既にその動きを察知していた。

 素早く動いて、氷の刃を闇の魔法で防いだ。


 こちらが防戦一方になると、相手は視界も悪く、攻撃を受けてばかりだ。


「ピリカ、反撃するよ」

「ピヨ?」


 この状況でどうやって反撃をするつもりだ? 相手がどこにいるのかもわからないんだぞ?


「風の魔法で一気に竜巻を作れる?」

「ピヨ!」


 そう言うことか、相手が霧を作り出したなら、こちらはそれを吹き飛ばせばいい。


「ピヨ!」


 任せろ!


「せーのでいくよ!」

「ピヨ!」

「せーの!」


 アシェの声に合わせて、俺たちは同時に風の魔法で竜巻を作り出して、前後で霧を吹き飛ばした。


 俺の魔力が増えたことでアシェも相当に強力な魔法が放たれるようになったようだ。


 くくく、背中を預けて戦うって言うのが頼もしいな。


「なっ!」


 竜巻の向こう側で微笑みを浮かべていたリリィが驚愕の顔を見せる。


「エリュシア、氷壁です!」


 エリュシアは瞬時に氷の壁を生み出し、こちらの攻撃を防ぐ。


 攻守交代の時間だな。


 アシェの状況判断は速い。


「ピリカ! 行って!」

「ピヨ!」


 あいよ! マスター。


 アシェの成長を喜びながら、俺は高速で走り抜ける。

 

 ヒヨコの体でも、今の俺は体が軽い。


 アシェが風の魔法で俺の動きを援護してくれる。


 追い風に乗って速度を早めた俺は、その勢いのままアシェの風に乗せるように強力な風の魔法を使う。


「ピヨ!」


 エリュシアの周りに強力な竜巻を巻き起こし、氷の壁ごと吹き飛ばす。


「エリュシア、氷嵐!」


 だが、さすがは準決勝まで勝ち上がった相手だ。


 リリィが命じると、エリュシアは冷たい氷の嵐を巻き起こし、俺たちが作り出した竜巻とぶつけて、氷の力で堰き止める。


 氷の嵐は強烈で、俺の竜巻の相殺してみせた。


「ピヨ!」


 やるじゃねぇか。


「ピリカ、負けないで!」


 アシェの励ましが聞こえてくる。


 俺は全力で走り抜けて近接戦闘を仕掛ける。


 妖精のような小さな体を持っていたエリュシアは素早い動きで、俺の攻撃を避ける。


「エリュシア! 氷鎧!」


 リリィの声に反応するように周りにある氷がエリュシアへと集まって鎧を作り出す。


 その大きさはフェアリーではなく、人と変わらないまでに大きくなった。


「ピヨ!」


 ここからが本番ってことだな。


 いいぜ、最後まで戦ってやるよ。


 俺も次の段階に行くために黄金鳥へ体を進化させる。

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