第111話 予選二回戦 後半

 崩壊しているように見えて、その体は泥となって四足歩行の獣へ姿を変える。


 バギバギにしても、クワトロガンにしても一筋縄で倒せる相手ではない。

 今まで戦った相手は、どこか傷を負わせることで、倒すことができた。


 だが、上位の魔物たちは、相手の隙を窺って攻撃を成功させても倒すことができない。攻撃を受けてもそれに対して対処できるように準備をしている。


 クワトロガンは、全身を砂や泥、岩として、姿を変えることで攻撃に対して対処をする。さらに魔法を駆使して己の力を制御していた。


「ピヨ!」


 凄い相手だな。


 魔物の種類や存在だけでも、数は計り知れない。


 王気を使うことなく戦って、どこまでやれるのか試したかった。

 だけど、それもここまでだな。アシェがやる気になって、向こうもう全力で向かってきている。


「ピリカ! 行くよ」

「ピヨ!」


 ああ、俺も全力とは言わないが、力を使わせてもらうよ。


 俺はアシェの声に応えるように黄金の気を放つ。


 これは魔力とはまた別の力だ。


 生命力や闘志と言われる戦う意志に近い。


「なっ! なんだそれは!」


 ゴンゾーの叫び声に、俺は獰猛な笑みを浮かべる。

 ヒヨコなのでどんな顔をしているのかわからないが、きっと恐ろしい顔をしていることだろう。


 ゴンゾーは俺の顔を見て驚いた顔をしているんだからな。


「おかしいだろ?! それだけの気を扱えるとかおかしいだろ!? くっ! だが、それでも俺のクワトロガンは負けねぇ! 最大限砂嵐だ!」


 溶岩ダンジョンで熱風を巻き上げながら、砂嵐を発生させる。


 その砂嵐の中を影が動く。


「クアトロガン!」


 ゴンゾーの命令で大量の砂が弾丸のように打ち出される。


「ピリカ! 避けて」

「ピヨ!」


 三百六十度、全方位から打ち出される砂の弾丸は一撃一撃は倒されるような威力はない。だが、ダメージとは蓄積していくものだ。


「ピリカの新しい力に怯まないで、こんな溶岩がある場所で大きな技を使って最後の決着をつけに来るって凄いね。相手が強いことがわかるよ」

「ピヨ!」


 ああ、本当にその通りだ。


「だからこそ、負けたくないよね?」

「ピヨ!」


 もちろん!


 出し惜しみをしていい相手じゃないってことだ。


 進化をする。


 俺は砂嵐で何も見えなくなった景色の中で、風魔法を使って結界を張った。


 砂嵐も、砂の弾丸も近づかせない。


 黄金鳥!!!


「ピーーーーーーーーーーー!!!!!!」


 体が次第に大きくなっていくのを感じる。

 

 翼が伸びて、首が長くなり、大きくなる爪。


「ピリカ!? 凄い凄い!」


 俺が進化するとともに風が、嵐のように吹き荒れて砂嵐を吹き飛ばす。


「なっ?!」

「ピーーーーーーーー!!!!(王の咆哮)」


 魔黒鳥の時よりも体が大きくなっているのに、すごく軽く感じる。


「ピリカ!!」

「ピヨ!」


 ああ、終わらせよう。


 あまりこの姿を晒したくない。


「暴風!!」


 風の魔法を最大限で爆発させるような暴風を生み出す。

 

「負けるか?!? クワトルガン!!! 全ての魔力を使い果たせ!」

「ピリカ?! イッチャええええええええ!!!!!」


 サモナーの二人が、叫び声を上げる。


 砂嵐と暴風がぶつかり合って力を拮抗させる。


「ピーーーーーーー!!!!!!」

「GYAAAAAAAA!!!!!!」


 魔力同士がぶつかり合って力が爆発を起こした。


「勝者は!」


 審判の声が響く。


「アシェ・ピリカチーム!!!」


 砂嵐が全て地面に落ちた先には、クワトロガンとゴンゾーの二人が倒れていた。

 大きな怪我はしていないが、魔力を使い果たしたことで、力尽きたのだろう。


 こんな溶岩が流れる岩場で倒れるのは危険なので、早々に先生が回収して、俺たちはダンジョンの外へと逃げ延びた。


「ふぅう、改めて負けたぜ」

「へへ、こちらこそありがとうございました」

「後二つ。勝てよ」

「はい!」


 ゴンゾーと握手をしたアシェは嬉しそうに笑っていた。


 俺も石の顔だけになったクワトロガンと称え合おうと思ったが、どうやって称え合えばいいのだろうか考えているとクワトロガンがゴーレムになって同じ大きさになってくれる。


 すでに進化は解いているので、二メートルぐらいのヒヨコとゴーレムが握手をしている光景は絶対にシュールに映るだろうが、こいつは良い奴だと感じてしまう。


「はは、なんだか面白い光景だな」

「ふふ、ピリカ、友達ができてよかったね」

「アシェちゃ〜ん」

 

 外で待っていてくれたオリヴィアちゃんたちがこちらにやってくる。

 それに手を振りかえして、俺たちは勝利を実感することができた。


 次は準決勝だ。


 かなりの強敵が待っているのが、俺は楽しみに思えていた。

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