第110話 予選二回戦 前半

 街では変な奴に絡まれたりもあったが、何事もなく無事に第二回戦を迎えることができた。


 2回戦で使われるダンジョンは、下層に降りれば降りるほどに溶岩が広がっている火山フィールドで、岩と溶岩というかなり特殊な環境下で出てくる魔物は上層であれば岩のような魔物だけで、下層に行けばアースドラゴンが住み着いている。


「このダンジョンは初めて来たけど、暑いね」

「ピヨ!」


 ここは俺にとってはかなり辛い。


 溶岩に羽毛をつけてやってきたような場所だ。


「なんだこの程度で根を上げているのか?」

「ふん。初めて来たって言っただけですよ!」


 上級生の男性は、溶岩ダンジョンに慣れているのか涼しそうな顔をしているが、どうやらその服装に仕掛けがあるようだ。


 彼の着ている服にはファンのような扇風機が付いていて、多分だが空調服と呼ばれる作業仕事をしている人が来ている服だと思う。


 そして、彼の隣に丸くなった巨大な石が転がっている。


 多分、あれば魔物なのだろうが、石系の魔物は下級生の子が連れていた魔物と戦ったことがあるだけだ。


 どんな魔物か想像もできない。


 いつも魔物に付いて教えてくれるオリヴィアちゃんは、今回のフィールドが溶岩ダンジョンということでお休みしている。


 体調面で負担がかかってしまうからだ。

 シルも溶岩ダンジョンには入りたくないと言っていたので、オリヴィアちゃんと共にお留守番だ。


「アシェとピリカのコンビは我々の間でも有名だ。ルーキー大会の実質の優勝者にして、ビギナー大会の上位大会に挑戦する規格外。楽しみにしていたぞ」

「ありがとうございます、先輩。だけど、凄いのは私じゃなくてピリカです!」

「ふむ。魔物が凄いことは当たり前だ。だが、それをサモナーとして召喚して育てたのは君だろ? 誇るという。そして、ここで俺に負けて、また来年頑張りたまえ。クワトルガン」


 対戦相手が魔物の名前を呼ぶと、巨大な丸い岩は形を変えて、その体の全身を表した。


「なっ!?」

「ふふふ、どうだクワトルガンは、岩と砂の性質をもつ特殊な魔物で、顔は岩、体は砂でできているのだ」

「互いに戦う準備が出来たとして判断をさせていただきます」


 審判を務める先生の言葉で、相手が戦う準備をしていなかったことを今になってわかった。


「ビギナー大会第二回戦。アシェ・ピリカチーム対ゴンゾー・クワトルガンの対戦を始めます」


 開始の合図と同時に、クワトルガンは砂嵐となって風を巻き起こして、噴き上がっていく。


「クワトルガン、ロックショット! サンドストリーム!」


 攻撃を回避しながら距離をとり、観察を続ける。


 魔石がある場所は、きっと顔の部分に当たる岩の中なのだろう。

 だが、空高く飛び上がった奴は、思ったよりも軽いのかもしれない。

 それに、体の部分だという砂の量が全く把握できない。


 砂嵐が巻き起こり視界が奪われる。


「ピリカ! 来て」

「ピヨ?」

「この間は、ピリカが自由に戦った。だけど、今回は私も一緒に戦ってもいいかな?」

「ピヨ!」


 ああ、もちろんだ。

 だけど、アシェがそんなことを言ってくれるなんて珍しいな。


 アシェを背中に乗せて、風の防御で、砂嵐に結界を張った。


「私ね、下級生の子達に教えてあげながら、どうやって戦うのが正解なのかずっと考えるようになった。ピリカは強いと思う。だけど、それなら私がすることはなんだろうって思った際に、やっぱり相手を観察して知識を利用して考えることだって思ったんだ」


 アシェは本当に凄い子だと思う。


 普通の子供なら魔物へ対峙しただけで怖いと思ってしまう。

 得体の知れない相手に対しても、挑んでいく勇気を持っている。


「ピヨ!」


 だから、アシェの好きなように指示を出してくれ。

 

 俺はアシェのいう通りに動こう。


 俺たちはパートナーだ。


 昨年とは違って、アシェは強くなっているよ。


「ありがとう。いくよ! ウォーター!」

「ピヨ!」


 俺はただの水を生み出して、クワトロガンへ放った。


「はは! おいおい、どうした? そんな攻撃が戦略なのか? ここは溶岩ダンジョンだぜ。水なんてすぐに蒸発してしまうぞ」

「ピリカ! もっと!」


 俺はアシェに言われるがままに大量の水を魔力の半分を使って生み出し続けた。


 確かに水は蒸発していく。


 だが、水蒸気となって砂嵐に変わって、水が視界を奪うようになる。


「なっ!?」

「あなたのクワトロガンは、確かに岩と砂の性質を持っているのかも知れないけど、空を飛べるってことはそれだけ軽いってことでしょ? なら、水で重みを与えれば落ちてくるじゃない!?」

「……くくく、いいねぇ〜! だが、あめぇよ」

「えっ?」


 そこには泥として固まったゴーレムが立ち上がっていく。


「クワトロって言っただろ。こいつは砂と岩以外にも別の顔を持つんだよ。それがこれだ! 濡れた際に現れる泥のゴーレム」


 泥も砂と同じように思うが、固形化したことで、先ほどよりも狙いやすい。


「ピヨ!」

「うん。ブラックホール!」


 アシェはよくわかっている。


 泥のゴーレムの腹にブラックホールを作り出して吹き飛ばす。

 

「だから甘いっていんてんだろ?!」


 ゴンゾーの叫びと共に、泥のゴーレムは崩れながらも形を変えてこちらに迫る。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る