第108話 予選一回戦

 ビギナークラスでは、フィールドはダンジョンの中が使われる。

 つまり、イレギュラーとなる魔物の出現を考慮に入れながら、戦わなければいけない。


「今回、戦うダンジョンはスライムのダンジョンです。十分に注意をして戦いの決着を迎えられることを期待します」


 最低ランクのダンジョンであるスライムではあるが、その環境はジメッとした湿度の高いダンジョン空間の一階部分。


 洞窟上のダンジョンで少しだけ広がりがある場所に俺とアシェ。

 サポートしてくれるオリヴィアちゃんとシルが審判をしてくれる先生の説明を聞いている。


 さらに、相手はアシェよりも上級生の男性だった。


「こんなチビとヒヨコの相手かよ。準備運動にもならねぇよ」

「カナブン君、相手への挑発は構いませんが、侮らないことです」

「ふん。先生は俺が負けるとでも思っているのか? 舐められているな」


 こちらを馬鹿にした言葉を発する、カナブン少年。

 それを嗜める先生は、ルーキー大会の際に俺たちの審判をしてくれた先生だ。


「それは戦いで見せていただきます。それはビギナークラス第一回戦予選大会。アシェ・ピリカペア対カナブン・バギバギの試合を開始します」


 バギバギとはどんな魔物なのか名前では想像できなかったが、地面から木が生えた!


「どうだ! 俺のバギバギは植物系の魔物で、地面を自由に移動できるんだ!」


 歩く木とでも言えば良いのか、地面から生えた木は十メートルほどの大きさがあり、地面に根を張り巡らせているようだ。


「バキバキ!」


 鳴き声がバギバギというから、バギバギなのだろうか? だが、バギバギと言われると木が折れていくような音に聞こえるが、違うのだろうか?


「ピヨ!」

「ピリカ、どうする?」

「ピヨ?」

「一回戦だから、ピリカの好きに戦ってきていいよ」

「ピヨピヨ!」


 そういうことか、わかった。


 トレントたちと戦ったことがあるが、あの時とは違う。

 強さが拮抗している相手か、そんなことはどうでもいい。


「ピヨ!」


 行ってくる!


「うん。遊んできて!」


 アシェは向こうの少年のようにイライラするのではなく、戦うことが本当に楽しそうだ。


 だから、俺は遠慮なく走り始める。


 黄金のヒヨコになってから進化をしたいと思ったことはない。

 明らかに、魔黒鳥の時よりも体が軽い。


 それにヒヨコボディーに慣れているので、動きやすい。


「なっ! 早い! バギバギ、串刺しにしてしまえ!」


 命令することで何が起きるのか、ある程度は想像できる。


 バギバギは、地面から木々を棘のように突き出して、俺を襲った。

 

 素晴らしい技だ。


 己の肉体を駆使して、放った木の棘は俺を串刺しに出来たなら致命傷を与えられただろう。


 だが、そうはならない。


 氷が地面を埋め尽くす。


「なっ!?」

 

 水は凍ってしまう。


 ここがスライムダンジョンで、ジメジメとしている場所だからこそ、俺の方が強い。


 氷の世界では木々は生きられない。


「ピヨ!」


 氷を足場に俺はバギバギの本体へと向かって飛んだ。


 安心してくれ。


 本体に氷を使って動けなくするなんて、無粋なことはしない。


 存分に殴り合おうじゃないか。


「ピヨピヨ!?」


 俺は鉤爪を振るってバギバギの体を攻撃する。

 一撃で、左半分が吹き飛んでしまったが、バギバギはすぐに再生していく。


 魔力があり、地面に接している間は、植物系の魔物は再生することがあるとアシェが教えてくれた。


「なっ!? なんだこのヒヨコは!」

「だから言ったではありませんか、油断しないようにと」


 カナブンの驚きに満ちた声と、呆れた様子の先生の声が聞こえてくるが、俺には関係ない。


 バギバギは凄い。


 俺から受けるダメージが大きいことがわかれば、戦い方を変えてきた。


 無数の蔦を生み出して、鞭のように振るってくる。


 近づかせないようにしながら距離をとって、地面に木の棘で罠を張る。


「ピヨ!」


 手数の多さは素晴らしい。

 戦術や戦略も悪くない。


 だけど、俺が進化する前だったなら絶対に負けているような相手だ。


 もしもカンガルー師匠と戦っていなかったら、お前の勝ちだったよ。


「バギバギ!」


 だけど、今の俺は誰にだって簡単に負けるわけにはいかないんだ。


「ピヨ!」


 上下から、蔓と根の波状攻撃を行うバギバギに、俺はブラックホールを生み出して、どっちも消滅させる。


「なっ!?」

「ピヨ!」


 もう驚くことしかしてないカナブンを無視して、俺はバキバキの魔石がある本体の根元へ鉤爪を放った。


「まっ、待て! 降参だ! 降参する!」


 やっと何が行われようとしているのか理解したカナブンの降参宣言で、俺は攻撃を止めた。


「バギバギ〜」

「良いんだ。勝ち負けよりも、お前の方が大切だからさ」


 それまで大きかったバギバギは、体を一メートルぐらいにまで小さくしてサモナーのカナブンに頭を撫でられていた。

 ちゃんと愛情を注ぎ合っているからこそ、バキバキはあそこまで強く慣れたんだろう。


「ピリカ! おかえり!」


 そして、俺もアシェが信じてくれるから戦うことができる。


 モフモフとしたボディーに顔を埋めるアシェをギュッと抱きしめた。


「勝者アシェ・ピリカペア! 第二回戦へ」


 先生の勝利者宣言で、第一回戦が終わったことを告げられる。


 

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