第106話

 目が覚めると朝日を浴びて、心地よい風が吹き抜けていく。

 夏が終わって、秋から冬に変わろうとしている風は冷たさが混じり始めていた。


 森に行ったことで、師匠の最後に立ち会えたことは俺にとって誇らしいことだ。

 そして、師匠のおかげで進化を遂げることができた。

 別れは悲しいが、弱肉強食であるこの世界では良くあることだ。


 進化によって体の痛みを感じたことで、悲しみの痛みを忘れることができた。

 それに今は嘘のように全ての痛みがなくなった。


「ピリカ、目が覚めたんだね」

「ピヨ!」


 おはよう、アシェ。

 ずっと心配をかけてごめんな。

 もう進化は終わったよ。


「ふふ、ピリカは進化をしてもヒヨコなんだね。だけど、真っ黒だった羽が元の黄色に戻っちゃったね」


 アシェ、黄色じゃないんだ。黄金なんだよ。

 朝日を浴びてキラキラと光っているだろ? アシェが抱きしめてくれる。


「うわ〜モフモフ〜!! 前よりも量が増えた?」


 確かに二倍増に膨れ上がったような気がするな。

 アシェの体が羽毛の中に全て埋まってしまう。


『おはようございます。新たな王として、ヒヨコ最終形態に進化を終えました。これにより、幼少期は最後を迎えます』


 神の声さんが、珍しく進化を祝ってくれる。


 ただ、幼少期の最後ってどういうことだ?


「次の進化をなさるときには、ヒヨコは卒業して、真なる王として目覚めることでしょう。ですが、神に挑むにはあと一歩です。まだ、到達できたわけではありません」


 珍しく饒舌に話をする神の声さんが話をしてくれる。


 最終進化前の幼少期ってことか? なら次の進化で最後ってことか?


『いいえ、あなたの進化は残り二段階存在します』


 二段階? 王として進化した後があるってことか?


『はい。その進化をする際には、神へ挑むことが可能になります。どうか空の王になる者よ。油断することなく最後まで到達できることを期待しております』


 そう言って神の声さんは、また沈黙を始めた。


「ピリカ、お腹空いているよね! 一ヶ月も何も食べてなかったから仕方ないよ」

「ピヨ!」


 俺に抱きついていたピリカの前にあるお腹がグーと音を鳴らす。


 確かにお腹がペコペコだ。


「ご飯を食べようね。いつでも食べられるように、シルちゃんが、ピリカの大好物を捕獲してきてくれているから」

「ピヨ?」


 俺の大好物? イモムシかな? だけど、シルは虫はあまり好きじゃなかったように思うけど。


 そのままアシェに手を引かれて食堂に向かうと、オリヴィアちゃんとシルも朝食を食べるために食堂に向かっていた。


「おはようございます。アシェちゃん。とうとうピリカちゃんが目覚めたのですね‼︎ それにしても物凄くモフモフです!」

「おはよう。オリヴィアちゃん。そうなんだよ。モフモフが増して、凄く気持ちいいの!」

「ふふ、あとでモフモフさせて欲しいです。それよりもご飯を食べにいくところだったのでしょ?」

「そうだね。ピリカ、いくよ!」

「ピヨ!

「ニャオ!」


 シルが、俺に声をかけてくれる。


『お帰りなさい。よく耐えたにゃ』

『ああ、何日も意識がなかった日もあるピ。だけど、なんとかここまで来ることができたピ』

『期待していいにゃ! 最高に美味しい物を用意してあるにゃ!』


 シルが胸を張って自慢するように食堂に入っていく。


 そこには巨大な魚が三匹も長テーブルに積み上がっていた。


 冷凍されている様子で、三十人が座れそうな席の机をその三匹の魚で埋まっていた。


「今回はピリカが何日ぐらいで起きるのか言ってくれていたから、シルちゃんが用意してくれたんだよ。ジャイアントマグロだよ。一本で一財産ができるほどの一品を捕獲してくれたんだからね」

「ふふ、シルが張り切っていましたよ。ですが、いつもピリカちゃんには助けてもらっているので、これぐらいはお安いご用です」


 オリヴィアちゃんの言葉にシルが、ツンツンした態度をとるが、俺はシルに頭を下げた。


『ありがとう! 嬉しいっピ! 美味しくいただくッピ!』

『ふん、しっかりと味わって食べるにゃ!』


 俺は一匹目のジャイアントマグロを口を開いて飲み込んでいく。


「うわ〜! 凄いよ! ピリカがジャイアントマグロさんを飲み込もうとしてるよ!?」

「突いて少しずつ食べるのかと思ったのですが! その大きさがは流石に無理があるのではないですか?」


 二人が驚いた声を出して、食堂に集まり出した子供達まで歓声を上げ始めている。


 だが、俺も昔から不思議なんだが、自分の体の質量以上に胃袋に入るのだ。


 もう、俺の胃袋は宇宙だって勝手に思うことにして、ジャイアントマグロを飲み込んでいく。


「プブ〜」


 一匹目がお腹に口の中が最高に美味しい味わいを伝えてくれる。


 この味わいが最高の瞬間かもしれない。


『次は味わって食べるにゃ!』


 どうやら丸呑みは、シルの好みに合わなかったようだ。


 俺は風の魔法を使って、二頭目を解体する。


「うわっ!? なんか繊細な感じで切り刻んだよ!」

「そんなこともできますのね。ピリカちゃん器用ですわ!」


 俺がすること一つ一つを楽しそうに解説してくれる二人を見ながら、俺は切って食べやすくなった赤身の口に放り込んだ。


 うまっ!? 臭みがなくて、甘味が強い。

 丸呑みしたことで腹は満たされているが、これだけのおいしさならいくらでも食べらるぞ。


 それから俺は三体のジャイアントマグロを綺麗に三匹食べ終えた。

 

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