チャレンジャー編

第102話 年末に向けて

 夏休みが終われば、一気に年越しまでの期間が短くなる。

 そして、今年もサモナー大会が行われるということだ。


 昨年は一年生ということもあって、ルーキー大会。

 つまりは、一年生しか出てこない戦いだった。


 だが、今年は違う。ビギナークラス。


 二年生〜五年生までのエントリーができる。


 アシェはもちろん。


「ピリカ、今年は二年生で、格上ばかりだけどいけるかな?」


 不安そうにしていた。


 昨年のルーキー戦では準優勝。


 その後に行われた決勝相手のヒューイくんとの模擬戦では圧勝したのだが、ここからは経験も実力も豊富な先輩たちを相手にする。


 だからこそ、アシェが不安に思うこともわかるのだが、こればかりはやってみないとわからない。


「ピヨ!」

「ふふ、いつでもピリカはやる気満々だね」

「ピヨピヨ」

「うん。わかっているよ。私だって、本当はやる気があるよ。だけど、ピリカに無理をさせるんじゃないかって不安に思うんだ」


 いつでもアシェは優しい子だな。


 チャレンジャーとして、挑む今回は勝ち進むのは難しいかもしれない。

 だけど、それでも好奇心旺盛なアシェがチャレンジすることを応援してやりたい。


 それが俺の気持ちだ。


「ピヨピヨピヨ!」


 俺に任せろ、アシェ。

 負けたっていいじゃないか? 強いやつと戦える。


 だが、ここは森の中でも海の中でもない。

 戦場であって、戦場ではない模擬戦だ。


 ルーキー戦では、確かにサモナーへの攻撃は禁止されていた。

 

 だが、ビギナーからはサモナーと召喚獣は一心同体ということで、攻撃が許されることになる。


 もしも、それが怖いようなら、参加をしなければいい。


 だが、アシェは俺と共に力を試したいと思ってくれている。

 そして、下級生とともに俺と戦ったのは、俺の弱点を知ろうとしてくれていたからだ。


 つまりは、アシェはビギナー大会に参加するために準備をしていたってことだ。

 他の召喚獣のことを知り、俺の弱点を知り、戦い方を学ぶ。


 アシェは天真爛漫で、好奇心旺盛なだけじゃない。


 ちゃんと努力をして、準備ができる子だと俺は思う。


「ふふ、励ましてくれているんだね。うん。確かに不安はある。だけど、やりたいって気持ちも強いんだ」

「ピヨ!」


 それでこそ俺のパートナーだ。


 年末まであと二ヶ月。

 

 それまでに予選大会が行われる。


 今だけが準備期間になるってことだ。


「ピヨ!」

「えっ? また森に行きたい?」


 昨年はダンジョンに行って、連携の強化を行った。

 だが、今年はタオ師匠のところでずっとアシェと過ごしたことで連携の訓練は十分にできていると思う。


 なら、後は俺自身が強くならなくちゃ、上位の者たちに遠く及ばないだろう。


 ブルードラゴンを従える学園長。

 ブタウサギ先輩を従えるタオ師匠。


 あの二人のようなレベルに達するためには、いったいどれだけの壁を越えなければいけないのかわからない。


 そして、上級生の中には、二人を超える逸材もいるかもしれない。


 俺は故郷に帰って、カンガルー師匠に教えを乞いたい。


「うん。わかったよ。私は上級生で出場する召喚獣の勉強をしておく。だから、ピリカは、もっと強くなって帰ってきて。だけど、無茶をしすぎて死ぬのは無しだよ!」

「ピヨ!」


 俺のモフモフボディーにアシェが抱きついてきた。


「年末には、ケガがないようにお父さんのところに帰るんだからね」

「ピヨ!」


 戦いに挑む覚悟と、俺を思う優しさがアシェからはちゃんと伝わってくる。


 だから、俺は負けるわけにはいかないんだ。


 俺はアシェの下を離れて森へ帰ることにした。


 ♢


 久しぶりに味わう森の空気はやっぱり上手い!!!


「ピーーーーーーー!!!!」


 遠い空に向かって、ただ鳴き声を上げただけなのに、気持ちがスッとする。


「ピヨ」


 さて、いくとしよう。


 カンガルー師匠に会わなければならない。


 師匠と出会った場所に向かった岩場。


「これは?!」


 そこは化け物たちが戦ったような傷跡が岩場に残っていた。

 

 師匠の力なら、岩場を全て粉砕できるだけの力もある。


 だからこそ、襲われて爪痕を残したってことなんだろうな。


「ピヨ!?


 師匠はどこだ? ここを縄張りにしている師匠。

 あのカンガルー師匠が負けるとは思えない。


 王気を見せてくれた師匠は圧倒的だった。


 ブルードラゴンや、ブタウサギ先輩に匹敵できる強さがあると俺は思ってもいる。


「ピーーーー!!!(師匠!!!)」


 カンガルー師匠!


 俺は鳴き声を上げながら、カンガルー師匠を呼んだ。

 近くに敵の気配を感じないからできることだが、師匠を避難させるような敵だ。


 本来であれば、俺が叶う相手じゃない。


 だけど、師匠なら俺の存在に気づいて答えてくれると信じている。


「ブオッ!」


 師匠の鳴き声が聞こえくると同時に、俺の体は吹き飛んだ。

 師匠の蹴りによって岩場に激突する。


「ピッ!」

「ブォ!」


 師匠の声に視線を向ければ、片足片目を失った師匠がいた。


「ピヨ!?!」

「ブオ」


 だが、その佇まいは、歴戦の猛者としての風格を全く失っていない。


 師匠は、一体どんな戦いをしたんだ?


 

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