第101話 お使いミッション 後半
鯉は、川を泳ぎながら勢いをつけて、跳ね上がり豪快な水飛沫をあげて、俺を威嚇した上で攻撃を仕掛けてきた。
「ピヨ!」
反撃のために風の魔法や水の魔法を使うが効果が薄い。
「ピヨ!」
ギラリとその大きな瞳で俺を睨みつけて、俺の攻撃を受けても嘲笑うような顔を見せる。
なら、俺が使うのは肉弾戦と、闇魔法だ。
相手が川の中にいようと関係ない。
バシャ! バッシャ!
鯉が飛び跳ねるたびに、水飛沫をあげて、川に波が起こる。
飛び上がった瞬間に突いてやろうと、接近するが、跳ね上げた水飛沫を刃に変えて飛ばしてきた。
近づこうとすると水を操って攻撃手段を仕掛けてくる。
接近させないようにして、自分は深い川の中から安全を確保して、こちらに攻撃を仕掛けてくる。狡賢い鯉の戦闘手段にイライラしてくる。
「ピヨ!」
舐めるなよ! デカい鯉風情が! 俺は意を決して、川へと飛び込んだ。
毎日、浅瀬で鍛えたヒヨコ水上走行を舐めてもらっては困る。
今日の昼飯に絶対になってもらう。
「ピーーーー!!!!(王者の咆哮)」
水上でバタバタと足で水かきをしながら、水の魔法で相手が操作する魔法を相殺する。相手を倒すことはできないが、妨害するのには十分だ。
水上に浮かび上がりありながら、鯉へ接近していく。
川の流れに逆らって巨大な鯉が泳いで向かってきたので、水の魔法をぶつけ合って、さらに放った水の魔法から闇魔法に切り替えて、相手を逃さないように罠を張るような攻撃を仕掛けた。
鯉とヒヨコの水上魔法合戦に対して、鯉は瞬時に俺の攻撃を判断して方向転換をしてしまう。
何度も何度もぶつかり合う魔法は次第に、鯉の方に翳りが見え始めた。
優位な川というフィールドを失った鯉は、次第に攻撃の手数が減っていく。
俺は亀と戦ったことでレベルも上がり、魔力も増大している。
進化して、魔黒鳥にならなくても、全体的な能力は上がっていた。
次第に魔力を強めて鯉を圧倒していく。
「ピヨ」
川に浮いている鯉を倒すことができた。
巨大な鯉を岸へとあげて、風の魔法を使って地面に付かないように運んでいく。
俺はランチとして、鯉をアシェたちが待っているところへ持って帰った。
「うわっ! なんだかすごく大きい魚!!!」
「凄いですわね!」
「ニャオ」
鯉を見たシルは目をキラキラとさせて満足そうな顔をする。
「ピヨ!」
「ニャオ」
シルの爪で3枚に下ろされる鯉。
泥臭いと言われるが、川が綺麗なこともあり泥臭さは全く感じない。
倒してすぐだったのもよかったのだろう。
白身のプリプリとした身が、コリコリとしてかなりの美味だった。
「ピヨピヨ」
「ニャオーン」
シルも気に入ったようで、二人で美味しく鯉の刺身をいただいて、ランチを終えると、アシェたちを連れて山へと登っていく。
山と言っても大きな山ではないので、アシェたちの足でも登れるが、今回は俺の背に乗せて走るので三時間ほどで登り切ることができた。
「うわ〜凄い綺麗な景色だね」
「そうですね。ピリカちゃんがいたので、ちょっとズルしたような気もしますが、ここまで辿りつくことができました」
1日でここまで来てしまったので、夕方から夜に変わっていく時間。
月見草と言われる白い花は月明かりに照らされて輝きを放っていた。
「綺麗ですね」
「うん。この光景を見れて幸せだよ」
オリヴィアちゃんが感動を表し、アシェも月見草を見て喜んでいた。
「ニャオ」
「ピヨ」
念話で言葉を交わさなくても、何を言いたのかわかってしまう。
シルも感動しているのだろう。
オリヴィアちゃんにこの光景を見させてあげられることができて。
この世界は、獣が支配している。
だけど、人はその中で争いながら生きている。
そして、こんな不思議な花が咲、巨大な亀や鯉が当たり前に存在する。
アシェたちは彼らにとっては餌かもしれない。だけど、俺が必ず守って見せる。
俺たちは三日という期限を作られていたが、1日で登り切り、二日目のお昼にはタオ師匠の屋敷へと帰りついた。
1日猶予が残ってしまったが、それはヤオ領を楽しむ時間に使って、アシェと俺の夏休みは終わりを迎えた。
タオ師匠が用意してくれた馬車に乗って、オリヴィアちゃんたちと共に学園へと戻っていく。
「私も来年、また学園に行くから。もっと強くなっておいで」
「はい! 師匠」
「よろしくお願いしますわ」
師弟の別れを迎えて、俺たちはヤオ領を後にした。
最後にブタウサギ先輩に稽古をつけてもらおうと挑んでみたが、全く歯が立たなかった。
やはり俺は、王気を纏うために超えなければいけない壁がまだいくつかあるのだろうと推測する。
ボコボコにやられたが、強い魔物が指導をしてくれるありがたみを実感する。
「ピヨピヨ!」
「ブヒブヒ!」
俺がお礼を告げると、ブタウサギ先輩から強くなれよ。
若者と、カッコ良いアドバイスをもらう。
見た目は可愛いのに、男前な先輩に憧れてしまうぜ。
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