第98話 ボランティア活動

 亀との戦いは壮絶を極めたが、その後の処理もしなければいけない。

 大量の亀を討伐した浜辺は荒れ放題だ。


「ピリカ、これを持って行って」

「ピヨ!」


 海にあれだけの亀が戻って仕舞えば、生態系を破壊する恐れがあり、またどれだけが生き残れるのかわからないのが、この弱肉強食の世界だ。


 子亀といっても一体一体が俺と変わらない大きさをした亀たちの処理をサモナーたちが行っていたが、俺たちもボランティアとして参加している。

 

 これもタオ師匠の指示だ。


 命を奪うと言うことを知りなさいとタオ師匠は言われていた。


 いくら生きるため、脅威になるからと命を奪うとしても、そこには敬意がなければならない。ただ、殺すだけではダメなのだ。


 子亀たちの肉は、サモナーと召喚獣に分け与えられて血肉として食される。


 さらに、甲羅は、様々な加工品として販売されるようになり、経済に取り入れられる。


 命を奪うだけでなく、その命に敬意を持って使用させてもらう。

 いつ自分たちがその一体になるのかわからない。


 そういうことを考えるためのボランティアなのかもしれない。


「ピリカ、どうしたの? 疲れた?」

「ピヨ」


 いいや、大丈夫だ。

 ただ、アシェはどんな気持ちでボランティアを手伝っているんだろう。


「ピリカが考えてることなんとなくわかるよ。これだけたくさんの子亀を殺して罪悪感があるんじゃない?」


 それもあるのかもしれない。

 自分の手で命を刈り取ったのだと……。


「だけど、この浜辺にいた魔物たちは子亀たちに殺されたんだよ」

「ピヨ!」

「それに、海に戻ると違う魔物によって子亀は殺されるし、他の魔物も子亀に殺される。生態系ってそう言うものだってサモナー学園で学んでいるけど。難しいね。私たち人間はその中でもとても弱い存在だって先生が言ってたんだ」


 確かに人間は、一人では戦うことができない。

 召喚獣と契約して、召喚獣が強くなるとその恩恵として魔法が使えるようになる。


 自分でも体を鍛えることができるし、召喚獣が強化魔法を使えるなら、人間を超える力も出せるようになるだろう。


 だけど、一人では何もできない存在なんだ。


「技術や兵器を作った人もいたそうだけど、そんな物はなんの役に立たないんだよ。私たちは召喚獣と共存して生きているんだって。そして、脅威となる魔物をある程度一定にしていないと私たちも生きていくことできない。これは一番弱い人間の生存戦力なんだよ」


 アシェは学園で学びながら、強い心を育てている。


 ただ、間違った風にだけは育ってほしくない。

 今のまま優しくて好奇心旺盛で、いつでも笑っていられるアシェを守ってやりたい。


「だけど、私はまだ全然わかないんだけどね」

「ピヨ?」

「アシェちゃん! こっちを手伝っていただけますか?」

「は〜い」

「ねぇ、ピリカ、多分考えることは大切だけど、目の前にあることを一つ一つ解決していかないといけないって言うのも本当なんだろうね」

「ピヨ!」


 それはそうだ。


 やっぱりアシェはちゃんと物事をわかっているな。

 確かに考えていてもこの場にいる子亀たちは誰かが片付けをするんだ。


 その一員として、仲間入りすることを悩む必要はないな。


 俺たちは浜辺を綺麗にするために、一週間ほどを費やしてボランティア活動を頑張った。


 その間は、亀料理ばかりが出てきて大変だったけど、意外に歯応えがあっておいしかった。



「さて、あんたたちもこっちの生活に慣れたと思う。それに数日はボランティアを頑張ってくれたから、今日までの給金を出してあげるから、少し街の中を遊んでおいで」

「いいんですか?!」

「ああ、アシェは、ボランティアだけじゃなく、私の薬の調合や、家のこともよく手伝ってくれた。アシェが掃除した場所は綺麗だと家の者からも褒めていたよ」


 タオ師匠が優しく告げてくれたことにアシェは喜んでいる。


 タオ師匠は薬師としてとても有名な人だ。

 大勢の弟子らしき人をとって指導をしている。


 オリヴィアちゃんもタオ師匠のためになると薬学を学んでいるようだ。


「ありがとうございます!!」

「ふふ、あんたは本当に良い子だね。街も普段の浜辺を取り戻した。だから少しは観光をしても楽しめるだろう。ゆっくり楽しんでお行き」

「はい!」

「ありがとうございます」


 二人が礼を告げて、俺たちも二人ついて観光をすることになった。


 海もある暖かな地域であるヤオ領は、穏やかな気候ではあるがたまにスコールが降ったり、急に悪天候になることもあるので、気をつけておかなければならない。


「海だ〜!!!」

「ふふ、ハシャいでいるアシェちゃん! 可愛いですわ」

「ピヨ」

「ニャオ〜」


 海には魔物がいて泳ぐことはできないが、浜辺をゆっくりと歩くことはできる。


 ただ、日差しが強いとオリヴィアちゃんの体調が心配なので、午前中の暑くなる前に歩いて、そのあとは街に行って買い物に勤しむことになった。


 俺は三人を守るボディーガードとして付き従う。


「ほら、ピリカも!」

「ピヨ!」


 たまには羽を伸ばすのもいいだろう。

 

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あとがき


どうも作者のイコです。


この度、4月10日に、道にスライムが捨てられていたので連れて帰りました。の書籍が発売します!


ほのぼのとしたお話が好きな方にはオススメな作品なので、よければ書店、電子にてご購入いただければ嬉しく思います!


どうぞよろしくお願いします(๑>◡<๑)

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