第97話 武者修行

《sideKFC団》


 死の森、そこは強力な魔物が蔓延る死界と呼ばれ、化け物たちが闊歩する。


「スゲー!!!」

「これは!!!」

「最高だ!!!」


 俺たちは、死の森の神秘に触れていた。


 確かに強力な魔物がたくさん歩いている。


 それは秘密コックである我々からすれば最高の環境とも言える。


「どうだね? ここにはレア食材がそこからかしらに歩いている。君たちコックならば、手が喉から出るほどに嬉しいのではないか?」


 悔しいがその通りだ。


 右を向けば、レアキノコの群生地。

 左を向けは、レア川魚が目の前を泳いでいく。

 上を向けば、レア鳥、ドラゴンが空を飛ぶ。

 下を向けば、小さな地面一つ一つに生える草木や苔まで、レアな食事として取引されている物ばかりなのだ。


 ここにいるだけでどれだけの力を得られるのかわからない。


「宝物庫ではありませんか?!」

「うむ。確かにここは死界と呼ばれるほどに、強力な魔物が存在する。しかし、それに見合うだけの価値がある場所なのだ」


 ハード・シルバーと呼ばれた教官を侮っていた。

 この方についていけば、確実に我々はレベルアップした最強コックになれるはずだ。


「シルバー教官! 我々をどうか鍛えてください!」

「くくく、あんなに嫌がっていたのに、すっかり手のひらを返したね。まぁそれでこそ指導のしがいがあるというものだ。まずは、君たちの召喚獣を出しなさい」

「「「はい!!!」」」


 三人は、召喚獣を出して従わせる。


「うむ。栄養管理がなされていて、大事にされていることがよくわかる」


 我々はコックとして、召喚獣たちには食材確保の際にいつも無理をさせてしまっている。だからこそ、栄養管理だけはしっかりと行なってやりたいのだ。


「だが、まだまだだな」

「えっ?」

「良いかい?良質な食事こそが人も獣も体を作っていくんだ。まずは君たち三人の召喚獣にたらふく食事をさせることからです。胃袋の限界を超えなさい!」


 俺たちはシルバー教官に言われるままに、三体に食事を与えていった。

 それも凄いのだ。食べるだけでレベルがどんどん上がっていく。

 それだけこの辺りに生えている草木や、生息している魔物たちが特殊個体であり、存在力を上げるレベルがどんどん上昇していく。


「凄い!レベルが一気に上がっていくぞ」

「ああ、しかも三人で連携して仕留めるから、大抵の魔物は確保できる」

「おい! そろそろ俺の召喚獣が進化の兆しだ」


 しかも俺たちの魔物はこの間進化したばかりだと思っていたのに、さらに進化できるほどにレベルが上がっていた。

 順番に進化を遂げたところで、シルバー教官に呼び出される。


「さて、進化を終えて、この森で戦える状態になりましたね」

 

 あれから二週間ほどの間、シルバー教官は優しく俺たちを見守り導いてくれた。


 ハード教官などと誰がつけたのだ? ここまで親切に鍛えてほしえてくれる人を俺は知らない。


「はい!」

「めっちゃ強くなったよな」

「ああ、最高だよ!」


 俺たちはシルバー教官の庇護を受けながら確実に強くなっていた。


「ふむ。それでは君たちにそろそろ試練を与えようと思います」

「試練ですか?」

「どんな試練でも今ならやっていけそうな気がするぞ」

「おう! 自信がついたな」


 俺は試験と言われた瞬間に、背中に嫌な汗が流れた。


「君たちには、死界を三人で突破してもらいます。期限は設けませんので、ここから脱出して君たちの家がある王都まで帰りつくのが試験の課題です」

「はっ?!」


 あまりにもアバウトな試験内容に俺は意味がわからなくて声を出してしまう。


「どうした? 秘密コックK」

「そうだぞ。今の俺たちなら余裕だろ?」


 二人は理解しているのか? これは試験なんだ。

 そんな生やさしいはずがない。


「どうやら一人は理解しているようですね。ここからは我の庇護はなくなる」


 そういうと大鯨が現れてシルバー教官が乗り込んだ。


「さぁ、三人で生きて帰ってくるのだぞ。そうそう、近くにデスの名を関する魔物がうじゃうじゃ生息しているので、くれぐれも死なないように。ではな! アディオス!」


 なっ、何がアディオスだクソジジイ!!!


 結局ハードじゃねぇか!?


「おっ、おい。どういうことだ?」

「それはお前、俺たちは見捨てられたってことだろ?」

「違う! これがシルバー教官なりの訓練なんだ」

「秘密コックK、知っていたのか?」

「小耳に挟んだ程どだがな。だが、ここからだ。ここから俺たちの本格的な訓練が始まるんだ。幸い、俺たちは三人。しかも召喚獣の進化もできている。やれるはずだ」


 そう、俺たちはやれるはずだ。

 絶対に生きて帰ってやる。


 生きて帰って魔黒鳥を捕まえ、調理するのだ。


「おい、あれってデススピアじゃねぇか?」

「おいおい、こっちにはデスポイズンスパダーまでいるぞ」


 かっ、必ず生きて帰るんだ。


「こっちに来たぞ!」

「にげろ!」

「いや〜!!!」


 俺たちは必死に召喚獣と戦いに明け暮れる。

 これは俺たち秘密コックKFCの血と涙と感動の秘密訓練だった。

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